【連載】浦上早苗の「試験に出ない中国事情」

ドタバタ続きの東京オリンピックも後半戦に入った。メダルの獲得と並んで注目されるのが、大会で生まれるスターだ。カーリング女子のもぐもぐタイム、カザフスタンのお姫様旗手、女子スケボー選手のラスカル問題など、競技以外の部分に注目が集まることには毎回賛否両論がある。

お隣の中国も同様で、メダルの数に一喜一憂する風潮の中、金メダルを獲得した選手が一夜にしてアイドルになる。射撃で2つの金メダルを獲得した楊倩(よう・せん)選手(21)はその代表格で、地元企業がマンションをプレゼントする騒ぎになっている。

21歳、清華大学の現役学生

射撃の楊選手はマイナー競技であるためか、大会前はさほど話題になっていなかった。開会式翌日の2021年7月24日に女子10メートルエアライフルで金メダルを獲得、東京大会全体の金メダリスト第1号となったことから、一気に注目された。さらに27日には射撃混合団体10メートルエアピストルでも金メダルを獲得。「金を2つ獲った2000年代生まれ最初の中国人」という称号も加わった。

もう一つ、世間が食いついたのは、楊選手が中国トップの清華大学の現役学生であることだ。

中国は、進学校は体育など副教科の授業を最小限にして受験勉強に全力投球し、身体能力に秀でた子どもは早い時期からスポーツに特化した英才教育を受ける。「文武両道」の概念は薄く、「文武分業」になっている。

楊選手が清華大生だと世に知れると、彼女がどうやって入学したかを巡ってあっという間に大学入試の成績まで掘り起こされた。日本で言うところのスポーツ枠で経営学部に入学したことが明らかになり、「一般入試で合格した清華大学の学生に比べると点数がかなり低い。真の意味で学業優秀なわけではない」「スポーツ枠で清華に入るのは、勉強で入るより難しい」など、彼女の優秀さを巡りネット論争が巻き起こった。

大学側は「彼氏募集」投稿で炎上

中国人の五輪への熱狂ぶり、メダルへの関心はすさまじく、突然現れた話題尽くしの新星に、関係者も完全に浮足立っている。

楊選手の地元、浙江省寧波市の大手アパレル企業「雅戈尔(Youngor)」は7月25日、金メダルのお祝いにマンションをプレゼントすると発表した。

清華大学は28日、SNSウェイボの公式アカウントで、楊選手の母親がメディアのインタビューで「娘に彼氏はいない」と発言したことを紹介し、「彼女のいない全ての男子学生へ。私たちのあの子は彼氏がいない」と投稿。こちらはおせっかいも度が過ぎると批判を呼び、炎上した(7月30日時点で投稿は削除されている)。

当の楊選手は7月28日に帰国し、現在は隔離生活を送っている。ネットでは、過去の五輪でスターに祭り上げられ、その後調子を崩した女子選手の名を挙げ、楊さんの今後を心配する声も出ている。

浦上早苗
経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員。福岡市出身。近著に「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。「中国」は大きすぎて、何をどう切り取っても「一面しか書いてない」と言われますが、そもそも一人で全俯瞰できる代物ではないのは重々承知の上で、中国と接点のある人たちが「ああ、分かる」と共感できるような「一面」「一片」を集めるよう心がけています。
Twitter:https://twitter.com/sanadi37