多くの日本人にとって、気になるニュースが2021年10月12日、日経新聞の一面トップで報じられた。「中国、商用EVを対日輸出 東風など1万台、日本に競合なく」。要するに中国が日本に、商用の電気自動車販売で攻勢をかけているというのだ。SNSでは早速「悲報」の声が上がった。

国内市場を奪われかねない

日経新聞によると、中国の自動車大手、東風汽車集団のグループ会社が、すでに日本の物流大手のSBSホールディングスに1トン車のEVトラックの供給を始めている。SBSは2030年までに、別の中国メーカーの1.5トン車と合わせて計1万台の供給を受けるという。

中国・比亜迪(BYD)は、現価格帯の4000万円から4割値下げした大型EVバスの販売を進めている。30年までに2000台を日本で販売する。

商用車とは主に業務用で使われる車両のこと。佐川急便も来年以降、広西汽車集団から7200台のEV軽自動車の供給を受けるとのことだ。

同紙によると、世界的な脱炭素の動きを受け、物流大手はEVシフトに動いている。しかし、日本車メーカーの取り組みが遅れており、価格の安い中国車を選んでいるという。「出遅れた日本車メーカーは早期に巻き返さないと国内市場を奪われかねない」と同紙は危機感をあらわにしている。

この報道を受けて、SNSではさっそく、「バス、タクシー、宅配便は全部中華EVへ」「5年後くらいには商用車の市場、割と中国車が乗っ取ってそうだよな」「日本が中国EV車にお株を奪われる事態になろうとは...」など、心配するツイートがあふれた。

聞かない「ブランド名」

中国はすでに世界最大の自動車生産国になっている。『「日本が世界一」のランキング事典』(宝島社新書)の「第5章」では、他国が1位の項目も掲載されている。

それによると、自動車の生産台数は今や中国が世界一。1980年に日本が米国を抜いて世界一になったが、それはもう昔の話。現在、ダントツは中国。21世紀に入ってから大幅に増えて、2009年に世界一。18年度には世界の自動車生産台数の4分の1を占めている。台数でいうと、中国2780万台、米国1131万台、日本は972万台。

しかし、中国メーカーの自動車を日本で見ることがまずない。したがって、Yahoo!知恵袋でも、「中国の自動車生産台数は3000万台? メーカーも50社を超えるとききます。しかしその割にワーゲン、ベンツ、トヨタ、フォードといった『ブランド』を聞きません。なぜでしょう?」などという問いかけも出ている。

自動車強国になる日

その理由については、2009年に経済産業研究所のサイトに掲載された「世界一の自動車市場となった中国― 独自の技術とブランドの確立がなお課題 ―」というレポートがわかりやすい。筆者は、関志雄・経済産業研究所コンサルティングフェロー。

それによると、中国の自動車生産の約4分の3は欧米や日本との合弁企業によるもの。国内独自ブランドは約4分の1に過ぎず、ほとんどが小型車の生産。輸出は途上国や新興国に限られている。

同レポートによると、中国政府は当時、「自動車産業調整振興計画」を策定。研究開発能力の向上、独自ブランドの確立、業界再編を進めているという。

レポートは、このような政策が着実に実行されれば、中国は単なる世界一の自動車生産・販売大国ではなく、本当の意味での自動車強国になる日がやがて来るであろう、と結んでいる。

日経新聞の記事は、まさに中国が「自動車強国」になりつつあることを日本人に知らしめるものになった。同紙は、「商用車は決められたルートで事業者が使う。乗用車に比べ充電インフラの確保や保守メンテナンスが容易で参入しやすい面がある」と説明している。