「『笑ってはいけない』の休止の本当の原因はわかりませんが、出演者が高齢化しているので、体力も手間もかかる長時間のハードな収録を毎年やるのは厳しいだろうというのは推測できます。また、BPOの一件もそうですが、“暴力”を使う笑い、芸人さんが痛がったり苦しんでいたりするのを面白がるお笑いに、世間の目が年々厳しくなっているということはあるでしょう」

そう分析するのは、お笑い評論家のラリー遠田氏だ。日本テレビが大晦日恒例の『絶対に笑ってはいけない』シリーズの休止を決定した。代わりに、今年は6時間生放送の新お笑い特番『絶対笑って年越したい!笑う大晦日』(仮)が放送される。

ラリー氏の言う“BPO(放送倫理・番組向上機構)の一件”とは、今年8月にBPOの青少年委員会が「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」について審議対象とすることを明らかにしたというニュースのこと。『笑ってはいけない』も“笑ってしまった人が尻を叩かれる”という内容の番組だけに……。

「そういう状況の中で、同番組はどんどんやり辛くなっていたと思います。それをそのまま続けるよりは、どこかでいいところで先に終わらせた方がいいのでは、という判断になったのではないでしょうか」(ラリー氏)

またラリー氏は、“暴力的な笑い”の歴史を次のように話す。

「そもそも、リアクション芸を求めるような“暴力的な笑い”をテレビで大々的にやるようになったのは、ビートたけしさんの時代から。たけし軍団の人たちが体を張って罰ゲームや過激なことをやっていたんです。そこから教えを受け継いだダチョウ倶楽部が出てきて、出川哲朗さん(57)などへと続いていくわけです」

たけし軍団を起点に、暴力的なお笑いがお茶の間でも恒常化していくが、近年徐々に暴力的要素は嫌悪の対象へと変わっていった。

「もともと嫌な人は嫌だったと思うんですよ。20年ほど前にも、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)で、〈七人のしりとり侍〉というコーナーがあって、1人がゲームで負けると寄ってたかってボコボコにされるというものでした。それが問題になって、コーナーが打ち切られたことがありました。

昔から暴力的な要素が目の敵にされてきた歴史はあったんです。ただ、最近はその感覚のほうがより一般的になった。特に若い世代は、もう体罰で親に殴られることもない、先生が生徒を殴っちゃいけないというのが当たり前になっているので、暴力に対する嫌悪感も昔よりはるかに強い。そういう時代だから、どんどん暴力的な笑いは受け入れられなくなったのでしょうね」

今後は、痛みを伴う笑いを提供する番組は減少する一方だろう、とラリー氏は読む。

「今ももうすでにほとんどないですが、『笑ってはいけない』が“最後の牙城”として、伝統芸のようにそれを守り継いできたところがありました。しかし、同番組がなくなることで他ではさらにできなくなっていくでしょうね」

松本人志(58)は、9月5日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)で前出のBPOの件について次のように発言している。

「何でもありになると、実は面白いことってできにくくて、ルールがある程度あって、そのルールのギリギリを攻めて面白くしたいなと思うんですけど、前OKだったのが今度はそれもダメとか、第3のビールみたいなあのやり方で後からルールがどんどん追加されて、どこまで行くのかなあとは思う」

“際どいギリギリを攻める”というプロの芸を封じ、清廉潔白だけが求められれば、笑いという文化の喪失にはつながらないだろうか。ラリー氏は次のように話す。

「個人的には、寂しいといえば寂しいのですが、同時に自分も同じ時代を生きているからこそ無意識のうちに感覚も変わっていくものです。今、昔のバラエティを観ると、ちょっとやりすぎじゃないかと思って引いてしまう部分もあります。

だから、『笑ってはいけない』には好き勝手やってほしかったという気持ちがある一方で、時代に合わせて笑いのスタイルが変わっていくのは仕方がないのではないとも思います。それで失われるものもあるし、逆に新しく生まれるものもあると思うので、それはそれでいいのではないでしょうか」

痛みを伴う笑いは「アウト〜!」でも、また進化した笑いを見せてくれることを期待する。