「先日、遅刻しそうになって、内心焦りながらアイラインをひこうとしたら、夫がふだんはかけもしないそうじ機を持ち出して、ガーッてやりだしたんです……。『なんで今!? あと1分で終わるから、やめてくれない?』と言っても『髪の毛が落ちているから』と平然とかけ続けている。結局、テレビの収録の入りに遅刻。定年退職した夫にはいくらでも時間があるのに、いつだって、自分の都合が私の仕事より上だと思っている。この人を抱えながら、仕事をしていく自信がないと、一瞬、絶望しました。結婚生活なんて、いつも離婚と隣り合わせの状況ではないでしょうか」

そう笑いながら語るのは、人工知能研究者で、感性アナリストの黒川伊保子さん(61)。ベストセラーとなった『妻のトリセツ』、『夫のトリセツ』(ともに講談社)に続き、娘、息子のトリセツ本も出版した。

脳科学の観点から、夫婦や家族との向き合い方を分析する専門家である黒川さんだが、それでも夫の行動にイライラすることは日常茶飯事だという。

「そうじ機を持ち出した夫の行動は、察することが苦手で、問題解決に邁進する男性脳の誠実さだと、脳の思考領域では理解できます。でも、感性の領域では、しっかりと頭にくるんです(笑)」

そうは言いつつも、男女脳の違いを理解した今では、一時的にイラッとすることはあっても、深刻なまでに不満がたまることはないという。

「けれど、脳科学の研究が半ばのころは、夫を許せず、離婚寸前まで関係が悪化したこともありました」

黒川さんに離婚危機が訪れたのは’99年ごろ。結婚14年目のことだった。夫婦危機を迎えたときの黒川さんは、長年勤めた会社から独立、起業したばかり。人工知能の研究を進め、会社を軌道に乗せることで精いっぱいだった。

「そこに、小学生の一人息子の子育て、そして家事全般の忙しさが加わったんです」

子育てに対する、男女の温度差を痛感する日々だった。

「たとえば息子が熱を出したら、一人にはしておけません。でも、私に起業したばかりの会社の命運をかけたプレゼンがあっても、夫は『定例会議がある』と休んでくれない。どちらが重要な会議かは議論しませんが、毎回、息子の世話をするのは私でした」

あるとき、止むに止まれぬ状況で「今日だけは、お願い」と頼んだ黒川さん。しかし夫は「今日から3日間は、クライアントとのブレストがあるから無理」と歩み寄ってくれなかったという。

「ところが、その3日目に夫が発熱。すると“クライアントとのブレストがある”はずなのに、平気で会社を休むんです。私は自分が38度の熱でも休まないけど、息子のためなら休む。夫は、息子のためには休まないのに、自分が37度を超えたら休む。その意識の違いに愕然としました」

家事全般を、黒川さんにまかせきりだったことにも不満がたまった。最も腹が立つのは、手伝ってくれない家事に関して、欠点だけは的確に指摘してくることだ。

「一生懸命やったそうじを褒めてくれることはないのに『排水口が汚ない』と指摘はする。“私に文句を言うヒマがあるなら、パイプスルーを流してよ”ってーー。かつては同僚だった夫。仕事のミスを指摘するクールな姿にホレたはずなのに、夫婦になるとそこがとってもムカつく」

忙しくて夕飯の品目が少なくなってしまったときに『おかずこれだけ?』と聞かれたときも、自分の至らなさを指摘されているようで腹が立った。

今なら、男性脳はスペックを確認したがるので、言葉の真意は“ご飯の配分を計算するための確認作業”と受け流せるが、当時は嫌みにしか聞こえない。

「男女の脳の違いについて多少の理解はあったけれど、まだ夫の言動の10個中8個は受け入れられず、そのたびに不満がたまりました。ことあるごとに腹が立つので、いよいよ“この人と一緒にいないほうが、人生効率が高い”と、別居に思い至ったわけです。その後離婚協議書まで作りました」

幸い黒川さんの場合は離婚に至らなかった。しかし、このように男女の脳の違いは時に大きなすれ違いを生む。お互いを大切にする気持ちは一緒でも、考え方や発露する行動が違うため、傷つけてしまったり、逆に自分が傷ついてしまったりするのだ。離婚危機後の黒川さんは、その「男女における脳の違い」を理解することで、夫との絆を強めたという。あらかじめ男女の脳の違いを知っておくことで、減らせる傷は多いのだ。

「女性自身」2021年2月2日号 掲載