今春、子どもが独立し、ようやく肩の荷が下りたと安堵したのもつかの間。貯蓄がゼロになってしまっていたことに気づき、「真っ青になった」というのは、都内に住むA子さん(55)。

「最後の学費の支払いが終わったときに、ついうれしくなっていろいろと衝動買いをしてしまいました。カードでの支払いが無事に引き落とされるかどうか、銀行の通帳を確認したら、残高が限りなくゼロに近づいていたので焦ってしまいました……」(A子さん)

夫の定年が近づき、会社員としてのゴールが見えてきたのに、「夫婦の貯蓄がゼロ」という世帯は少なくない。

「長年、家計相談を受ける中で、思うようにお金を貯められなくなったという50代が増えている」というのは、ファイナンシャル・プランナーの深田晶恵さん。

「税金や社会保険料がアップしているので、手取り収入は年々減少の一途をたどっています。さらに、長引く超低金利により、銀行にお金を預けても利息でお金を増やすことができなくなっています。そこにきて結婚、子どもを産む年齢が遅くなってきているので、60代になってもまだローンの返済が終わらない、という人が意外に多いのです」(深田さん・以下同)

高年齢者雇用安定法が改正された’13年以降は、会社員は60歳を過ぎても働くのが当たり前になってきたが、その実情はあまり認知されていないことも。

「60歳以降、再雇用で働く男性は増えていますが、妻の側は、収入が大幅にダウンするとは思っていないケースも多く見られます。中には現役時代と同じ給与水準だと勘違いしており、振り込まれた給料の額があまりにも少ないので、あわててしまったという話も。会社員である夫の定年後、収入が激減する“3つの崖”があることを知らないで、現役世代と同じ生活を続けていると、老後破綻に陥ってしまいます」

老後を迎え、突如として現れる“崖”とはいったいどのタイミングなのか。さらに、その崖によって、生活を破綻させないためにはどうすればいいのだろうか。

深田さんは、まずは崖に差しかかる時期を把握し、その時々の収入がいくらになるのかを確認しておくことが大事だという。

「1つ目の崖は夫が定年退職を迎える60歳のときです。仮に夫が60歳以降も働くとしても、再雇用後の年収は勤務先によって大きく異なります。50代で受け取っていた額の3〜4割ダウンすると思っておいたほうがいいでしょう。しかも、65歳までは公的年金が受け取れたとしてもごくわずか。この間、生活費の不足分を退職金で補っていると、すぐに貯金が底をついてしまいます」

また、勤務先によっては、50代半ばから後半にかけて、役職から外れる「役職定年」を設けているケースも。役職定年後は収入が大きく減ることもあるので、夫に聞いておこう。

2つ目の崖は、夫が65歳になり年金生活がスタートするとき。公的年金の支給額は人によって異なるが、厚生労働省のモデル額(老齢厚生年金+老齢基礎年金)は、40年間サラリーマンだった男性で年200万円ほど。

年収が高かった人でも年240万円前後で、それに妻の年金(老齢基礎年金+働いていたことがあれば、その期間分の厚生年金)が約80万〜90万円プラスされ、世帯収入は300万円前後となる。

もしこのタイミングで、夫婦ともにパートなどの仕事をしていないとすると、年収は年金だけになってしまう。

そして3つ目の崖は、夫が死んだ後、妻の“おひとりさま”の生活が始まったとき。

「夫の死後、遺族年金が受け取れることは知っていても、その具体的な金額までは把握していない人が多く、1つ目の崖と同様、実際に受け取る額を知ってからはじめて『こんなに少ないの?』と、驚くことになってしまうのです」