3月13日、マスク着用の方針がついに見直された。さっそく、屋内外でマスクを外す人が増え始めたが、今は花粉飛散のピーク真っただ中。「不安」を口にする、花粉症の読者の声も。

「『個人の判断に委ねる』(厚生労働省)という国の発表は、無責任な気がします。電車内でノーマスクでくしゃみした男性が、周りからにらまれていました」(50代主婦)

オフィスや飲食店などでも、大音量で「ハックション!」と、激しい動作でくしゃみをする人が……。そんな「いつか見た」光景が復活する日は近いのだ。家族のうちでも特に、夫やおじいちゃんのくしゃみが大きく、周囲に迷惑をかけているかもと心配する人も多いだろう。さらに、エチケットの問題だけでなく、大きなくしゃみには意外な危険も潜んでいるという。

「じつは、オーバーアクションのくしゃみで、ぎっくり腰になったり、腰椎を骨折してしまうことも起こりうるんです」

こう話すのは、日本耳鼻咽喉科学会専門医で神鋼記念病院耳鼻咽喉科科長の浦長瀬昌宏先生。誰もが無意識にしているくしゃみが、思わぬ不調やケガにつながるなんて……。自分のためにも周りのためにも我慢するのが正解?

「いいえ、逆に人前で我慢しようと思って、鼻と口を塞いでくしゃみをしたら、鼓膜に穴が開いてしまうなんてことも起こりえます」(浦長瀬先生、以下同)

思い切り出すのも我慢するのもだめ……ではどうすれば? そんな心配を解消するため、くしゃみのメカニズムとケガが起こる原因を浦長瀬先生に解説してもらった。

■大きなくしゃみが思わぬ怪我につながることも

「くしゃみは、鼻の粘膜の表面にある三叉神経が、なにかに刺激されることで発生します。たとえば、花粉が鼻に入ると分泌されるヒスタミンという物質が三叉神経を刺激して中枢神経に伝わり、くしゃみや鼻水を出す。これが花粉症です」

お年寄りや男性は声や動作が特別大きい気がするけれど……。

「言葉で『ハクション』と言ってしまうのは、その人が無意識のうちにやってしまっている“クセ”にすぎないんです。また、男性だから、筋力が強いからという理由で大きくなるわけでもありません。単に小さくする必要性を感じていないだけです」

そんな大きなくしゃみで想定されるケガとは――。

「動きが大きすぎて、転んで捻挫したり、どこかにぶつけて打撲することも考えられます。また、のけぞったり背中が前後に動くので、ぎっくり腰や、まれに腰椎を圧迫骨折する可能性も」

くしゃみを防ごうと思って口と鼻を塞ぐのも危険だそう。

「声や飛沫を出さないようにと、口を閉じてしまうのはNGです。もともと鼻づまりの状態が多いことが想定されますから、鼻と口が塞がれてしまいます。すると、くしゃみの風圧の逃げ場がなくなって、圧力が耳に集中してしまうことに。中耳炎や、場合によっては鼓膜に穴が開くこともあるんです」

どうやら、「たかがくしゃみ」と侮ってはいけないようだ。では、屋内外にかかわらず、正しく、安全でエチケットを守ったくしゃみは、どうやって行うのか。



■背中を丸めて声は出さないのが正解

「大前提として、くしゃみが出やすい人はいままでどおり、マスクをしておくことです」コロナ禍で厚労省が呼びかけていた「咳エチケット」が役立つそうだ。忘れず覚えておこう。マスク着用、ティッシュやハンカチで鼻と口を覆う、上着の内側や袖で鼻と口を覆う、の3通り。とはいえ、卒入学式や歓送迎会をはじめとするノーマスクのイベントの場合、周囲に合わせることが必要な場面もあるだろう。そんなときのくしゃみのポイントは5つある、と浦長瀬先生。

(1)口を開ける 「中耳炎や鼓膜が破れることを防ぐため、口を開けて空気の通り道を作りましょう」

(2)出る前に大きく息を吸わない 「肺の中の空気量が少なければ、鼻や口から出る空気も少なくなり、声も大きくなりません。くしゃみをする直前に、『息を吐く』と覚えておくといいでしょう」

(3)背中を丸める 「ぎっくり腰や腰椎圧迫骨折の恐れが出てきますので、背中を丸めた状態にするのが望ましいです」

(4)タオルで鼻と口を覆う 「鼻の粘膜は乾燥すると、刺激に敏感になりくしゃみが起こりやすくなります。なので飛沫を抑えつつ鼻の中を潤す温かいぬれタオルがベストです。ただ、外出先などでは、ふつうのタオルでも構いません」

(5)声は出さない 「大音量のくしゃみもただのクセなので、心がけ次第で改善できます。『ハクション』と声に出さずに、小さく“シュン”とするようにしてください」

長年のクセが染み付いている、夫やおじいちゃんには……。

「家族ゲンカにならない程度に、『ハクションって言葉に出さないでね』というように、意識をしてもらうことが改善への第一歩です」

いよいよ始まった「マスク緩和」の生活様式でも、周囲への「迷惑ゼロ」と健康を心がけよう!

【PROFILE】 神鋼記念病院 耳鼻咽喉科科長 浦長瀬昌宏 2003年神戸大学医学部医学科卒業。同大大学院医学研究科耳鼻咽喉科頭頸部外科学分野卒業。耳鼻咽喉科専門医。嚥下障害の予防トレーニング普及を目的として2017年に「一般社団法人嚥下トレーニング協会」を設立し、現在は代表理事を務める。『あさイチ』(NHK)や『主治医が見つかる診療所』(テレビ東京系)などへの出演経験もある。