高齢者は賃貸を借りづらい。よく言われることだが、それを裏付ける調査結果が発表された。賃貸に住む人たちは、今後どうすればいいのか。専門家と考えた。

賃貸派の人が驚愕するデータが発表された。全国の賃貸物件のオーナー500名に聞いたアンケート調査で、「高齢者の入居を受け入れていない」と答えた賃貸オーナーが41.8%もいたというのだ。

なぜ高齢者の入居を避けるのだろう。高齢者の住まいに詳しいファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんに聞いた。

「高齢者は体調を崩して入院するなど、家賃を滞納するリスクが高いと思うのでしょう。将来的に認知症や孤独死の危険性まで考えて、受け入れない判断をするオーナーが多いのだと思います」

孤独死の場合、遺品を誰が処分するのか。孤独死の発見まで時間がかかれば、異臭などを除去する特殊清掃も必要になるうえ、事故物件となって借り手が見つからないこともある。

「これらは身元保証人がいれば解決できることですが、心配なのは身元保証人がいない高齢者です。最近は、入院時の対応や葬式、死後事務などを請け負う身元保証会社も増えていますが、それらを知らない高齢者やオーナーがいるのでしょう」(畠中さん、以下同)

高齢になってから、引っ越し先を探そうと思っても、見つからない可能性があるのだ。



■子どもの独立が住み替えの好機

現在、住んでいる賃貸住宅に住み続けようと思っている人もいるだろう。だが、その場合、家賃を払い続けられるかが問題になる。

「年金額ごとに支出割合をシミュレートしていますが、夫婦2人の年金が月20万円でも、その中から家賃を捻出するのは厳しい。賃貸の人は、老後資金を持ち家の人より多めに用意する必要があります」

たとえば、家賃が月11万円だとしよう。60歳での定年退職後も65歳までは雇用延長などで働く人が多い。さらに70歳までは夫婦2人で働き、得た収入から家賃を払うとしても、問題は完全にリタイアした70歳以降に残る。

家賃は年間132万円。90歳まで生きるとして、20年間で2640万円かかる。これは60代の平均貯蓄額、2458万円を大きく上回る額だ。

今の家賃が11万円を超えるなら、老後資金が減るスピードはもっと早くなる。そのうえ、老後資金は家賃以外にも必要な用途があるので、実際はもっと深刻だ。

「賃貸派の人は中高年になっても、何度か住み替える必要があることを覚悟しましょう。家賃を抑える方法を考えながら、ついのすみかを探さねばなりません」

賃貸派さんが老後破綻しないための住み替え計画を、畠中さんと考えてみた。

第一弾として、50代のうちの住み替えも有効だという。

「子どもが独立して子ども部屋が空いている人などは、空き部屋分の家賃まで払うのはもったいない。夫婦2人暮らしに合った広さに住み替えれば、家賃を抑えられます。また、社会人になっても実家で暮らす子どもに独立を促すため、引っ越す人もいます」

在職中は居住地域を大きくは変えられないが、荷物を減らしダウンサイジングを進めよう。



■50代のうちからついのすみかを考える

退職して通勤から解放されると、住む場所を広く選択できるようになる。田舎暮らしにこがれ、地方の比較的安価な物件を購入して移住する人もいるだろう。

購入のポイントは、老後資金を圧迫しない程度の物件価格だ。住宅を購入すると、その後の住居費は固定資産税程度に抑えられ、経済面では安心が手に入る。

「重視してほしい条件は、高齢者が“バスで病院に通えるか”です。移住した当初は『車さえあれば問題ない』と思いがちですが、高齢になると目やそのほかの病気で運転できなくなる人が少なくありません。通院のたびにタクシー利用では出費がかさみます」

また、50代で住み替えた家で暮らしながら、夫婦で公営住宅への入居を模索する手もある。

「家賃を抑えるには、公営住宅が第一の選択肢になるでしょう。年金収入なら入居の条件を満たす人が多いと思います」

ただし公営住宅は人気が高く、抽選に応募してもすぐに住めるとは限らない。

「落選を重ねると当選確率が上がるケースも。公営住宅を希望するなら、早めに応募を始めましょう」

高齢の人には、介護も問題だ。

「老老介護で疲弊する前に、ケアハウスに入居するのも一案です」

ケアハウスは、自立生活に不安を覚える高齢者が比較的低料金で、料理や洗濯などの生活支援サービスを受けながら暮らせる施設だ。

「料金は年金額などによりますが、夫婦2人で月15万〜18万円で暮らせるところもあります」

ケアハウスには一般型と介護型がある。一般型は60歳以上が利用できる。介護サービスが必要な場合は外部の事業者と契約するが、要介護3程度になると日常的な介助が必要になるため、特別養護老人ホームに移る人が多い。

介護型ケアハウスは65歳以上で要介護1以上の人が対象だ。介護度が上がっても住み続けられ、みとりまで行う施設もある。

「ケアハウスには70代後半で入居する人が多い印象です。とはいえ『入居まで数年待ち』などの人気の高い施設もあり、早めの情報収集が大切。70代になってからケアハウスの見学に回るのは体力的にもきついので、60代のうちに動き始めましょう」

最後の住み替えは、配偶者の死去によるものだ。稼ぎ手だった夫を妻が見送るケースでは、受け取る年金額が減ることが多い。それまでより、さらに家賃を抑える必要があり、単身者向けの公営住宅に移りたいと考える人も。

「単身者向けの公営住宅には夫に先立たれた女性も多く、ご近所さんと仲よく暮らしている人が多い。似た境遇の人と助け合えると、ひとり暮らしの不安感を減らせます」

賃貸派さんは高齢になってから考えねばならないことが多い。

「賃貸住宅を借りるには身元保証人が必須です。正社員として勤める子どもがいれば問題ありませんが、まれに娘婿と仲が悪く身元保証してもらえないという人も。また、身元保証人がいない場合は身元保証会社が利用できますが、会社を精査する必要があります」

身元保証会社はサービス内容も千差万別。死後事務まで依頼するケースが多いので、預けたお金の管理方法のチェックも重要だ。

「実際に何社かの話を聞いて、比較検討しないといけません。また、契約の際にたくさん書類を作ることもあり、なるべく60代のうちに契約したほうが安心だと思います。できれば50代のうちから、早め早めの行動が肝心です」

経済的に安定した楽しい老後を送るために、無理のない住み替え計画を今から考えよう。