演出の調整役だった小林賢太郎氏(48)が直前に解任されるなど、波乱のなか行われた東京オリンピックの開会式。様々なパフォーマンスが披露されるなか、特に注目を集めたのが俳優・森山未來(36)によるダンス。

故人を追悼するコーナーに出演した森山は白装束姿で華麗な舞を披露し、式中には新型コロナ犠牲者への黙とうも行われた。

開会式での大役を務めた森山だが、五輪には“奇縁”があった。今年6月、森山は劇作家・演出家の岡田利規氏(48)による舞台『未練の幽霊と怪物』で、新国立競技場の設計案を撤回された故・ザハ・ハディド氏の役を演じていたのだ。

'12年に行われた国立競技場建て替えに関する国際コンペで、最優秀賞として選ばれたザハ氏のデザイン。しかし、'15年には安倍晋三首相(当時)が2520億円という建築費の高さを理由に「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで見直すと決断した」と、白紙撤回を表明。ザハ氏は、その約半年後に心臓発作のためこの世を去った。

当時は、巨額の建設費用に対する批判から、ザハ氏本人へのバッシングも過熱。しかし、後に計画の検証委員会は、プロジェクトに関わった文部科学省や、事業主体の日本スポーツ振興センターによる意思決定システムやプロジェクト管理、国民への説明不足などに問題があったとした。

一度は採用されながらも国家によって廃案となった、”新国立競技場のデザイン”の鎮魂を描いたのが森山の出演した『未練の幽霊と怪物』。作・演出を務めた岡田氏はこの舞台への思いを、公式HP上でこう綴っていた。

《社会とその歴史は、その犠牲者としての未練の幽霊と怪物を、ひっきりなしに生み出して来て、今だって生み出し続けています。わたしたちはそれら幽霊や怪物のことを見ないこと忘れてしまうことを、その気になればできちゃうし、そのほうが快適な向きは確かにある。でもそれらに、つまり直視しないこと忘却することに、抗うために、能という演劇形式が持つ構造を借りて、音楽劇を上演します》

そんな“前段”のもと開会式に参加した森山。開会式のパフォーマンス後、森山は自身のインスタグラムで関係者への感謝の念を投稿。当初、開会式に携わる予定だった演出振付家のMIKIKO氏(44)などの名前も挙げながら、《最後に『未練の幽霊と怪物』の作・演出である岡田利規さんに、最大のリスペクトを》と綴っていた。

実際に、森山の舞台出演を知る人からは、開会式での森山のパフォーマンスとザハ氏を重ねる声があがった。

《舞台観た者としては、ザハの幽霊をそこに感じずにはいられなかった》 《森山未來の舞いはザハへの鎮魂でもあるんだろうな》 《ザハの幽霊がオリンピックの開会式で踊るって凄い皮肉》

昨年の大会延期以降、混乱が続いた五輪開会式の制作チーム。皮肉なことにその理由のほとんどが、コロナに起因するものではなかった。森山の舞には開会式に携わることのできなかった人々への“鎮魂”の意も込められていたのだろうか――。