「最大のライバルであるネイサン・チェン選手(22)も1月9日、全米選手権で優勝し、難なく北京五輪出場を決めました。『五輪の戦いをみんなに楽しんでもらえるはずです』とコメントしています。これで役者がそろいましたから、羽生選手もますます闘志が湧いているのではないでしょうか」(スポーツ紙記者)

北京五輪まで約2週間。注目の男子フィギュアスケートは、ショートプログラムが2月8日、フリーが10日に予定されている。

羽生結弦(27)は、五輪本番で前人未到の4回転アクセルを跳ぶこと、さらにその成功をもって、ソチ、平昌に続く3つ目の金メダルを狙うことを明言している。

昨年末の全日本選手権では、初めて試合で4回転アクセルを組み込んだものの、成功とはならなかった。練習でもクリーンな成功はまだしていないといい、その習得に苦戦している様子だ。

全日本の演技後のインタビューでは、4回転アクセルの練習中に“死の恐怖”を感じたことも告白している。

「何回も何回も体を(氷に)打ちつけて、本当に死にに行くようなジャンプをずっとしていた」

「毎回、頭を打って脳しんとうで倒れて死んでしまうんじゃないかと思いながら練習してました」

北京五輪に向けて、いまも、恐怖心と向き合う日々を送っているのかもしれないーー。

そんななか、全日本での羽生を見た視聴者やファンの間で話題になった“異変”がある。

羽生の独り言が激増したことだ。

「まず公開練習で4回転アクセルを練習していたときに、『今は本番じゃない!』『信じろ!』など自分自身を鼓舞するような独り言が聞かれました」(テレビ局関係者)

ケガをするんじゃないか。本当に成功できるのか。そんな不安や恐怖を振り払うように、周囲にも聞こえるような声で“自分との対話”をしていた羽生。

それだけでなく、さらにーー。

「特に目立ったのが、4回転アクセルを組み込んだフリーを演じ終えて、キス&クライで自分の演技のVTRをチェックしていたときです。実況アナウンサーも思わず『羽生選手が自分で解説してますね』と言うくらい、しゃべっていました」(前出・テレビ局関係者)

カナダからブライアン・オーサーコーチが来日できず、キス&クライの席にたった一人で座っていた羽生だが、モニターを見ながら次のように独り言を連発。

「ここは拍手するところなの? 恥ずかしいな。ちょっと抜けてるな、やっぱり。もうちょい上半身しっかりやらないと」 「ちょっと早いんだよね〜。そんなに慌てなくてよかったじゃん。ちょっとカリカリしてるし」 「頑張った、頑張った。めっちゃクールな顔してるな。めっちゃ安心してるくせに」

自分の演技や表情にツッコミを入れたり、ジャンプの修正点を確認したりと、得点が出るまで一人でしゃべりっ放しだったのだ。

羽生を応援するファンに聞くと、「もともと彼は独り言を言うタイプです」と言うが、とはいえ最近、特に増加しているようだ。

長年、羽生を取材するスポーツライターの折山淑美さんは言う。

「コーチが不在で日本で一人で練習していたコロナ禍以降のここ2年ほどで、羽生選手の独り言が目立つようになりましたね」

ただ、やはりアスリートにとっては意味があることのようだ。

「陸上やテニスなどほかの個人競技のアスリートにもよく見られる光景なんですが、たった一人だけで臨みますから、つぶやくことで自分自身の動きの確認や、鼓舞する意味合いがあると思います」(折山さん)



■コーチがかけるはずの言葉を自ら…

このような独り言の効用について、精神科医の視点から、岡田クリニックの岡田尊司院長に詳しく解説してもらった。

「一般的には、ストレスを感じたときに、独り言で自分の気持ちを吐き出すことで、心のバランスが取りやすくなります。

また、認知行動療法で使われる“自己教示法”にも独り言が取り入れられています。『落ち着け』などと自分に対処を教えるもので、羽生選手が練習中に『信じろ』などと言っているのも、そうした方法でしょう。

また、古くから使われる“自己暗示法”もあります。これは病気の際に『よくなる』と言い続けることで難病さえ改善するというものです。たとえば『大丈夫だ』『できる』と自分に言うことで、実際にパフォーマンスが高まる効果があります」

さらに岡田院長は、独り言の多いタイプについてこう語る。

「どちらかというと内向的な人、自分の内側に注意が向きやすい人のほうが独り言が多いです。外交的な人は外に話す人がいるので自分で話す必要がありません。羽生選手もそういうところがあるのかもしれません。

ただ、彼の場合はやはりコーチがいない状況であることが大きく影響していると思います。コーチの役割を自分でやっているということなのでしょう。本来ならコーチがかけてくれる言葉を、自分で自分にかけているのです」

そこには、コーチから言葉をかけられる以上の利点もあるようだ。

「コーチ、つまり他人に頼るということは、その人に左右されるというマイナス面もあります。コーチからいい反応がないと気になってしまいますし、コーチも人間だからいつも万全とは限りません。特に、何かを極めている人には、他人から言われることがむしろ邪魔になる場合もあるのです。

ですから、頂点に行きついた羽生選手のような人にとって、独り言が増えるのは自然であり、必要なことなのです。自分と対話し、自分で分析し、客観視するということを、常にしながらスケートをしているのでしょう」(岡田院長)

迫る北京での決戦で羽生が自分に対してかける言葉は、どのようなものになるだろうかーー。