兵庫県丹波篠山市にある兵庫陶芸美術館で、開館15周年を記念した特別展「No Man’s Land−陶芸の未来、未だ見ぬ地平の先」が、5月30日(日)まで開かれている。同館の学芸員のマルテル坂本牧子さんに作品を紹介してもらった。

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 兵庫陶芸美術館では、開館15周年記念特別展「No Man’s Land−陶芸の未来、未だ見ぬ地平の先」を5月30日まで開催しています。ジャンルの垣根を越えて、多様化した現代の創造において、長い歴史と伝統を持つ「陶(やきもの)」を素材とする、あるいはテーマとする作品とは、どのような存在になり得るのでしょうか。

 本展は、そんな問いかけのもと、伝統的な陶芸の素材や技法を用いながら、それぞれ独創的な作風で、工芸のみならず、現代美術、デザイン、建築などの幅広い分野から注目を集める1970年代から1980年代生まれの若手実力作家15名の作品を通して、「陶芸の未来」を再考しようとするものです。

 タイトルに掲げた「No Man’s Land(ノーマンズランド)」という言葉は、直訳すると、「人のいない土地」となりますが、ここでは、「複数の領域が重なり合った曖昧な状態(場所)」というようなニュアンスで用いることにしました。混沌としたなかにも、そこにこそ見えてくる「何か」があり、これからの陶芸表現を革新していく新しい価値観を見いだすことができるのではないでしょうか。

「やきもの、陶芸」というと、壺や皿などを思い浮かべてしまう人もまだまだ少なくないでしょう。本展では、そんな既成の概念やイメージを一新する作品に必ず出会えるのではないでしょうか。「これも陶芸?」と思うような作品も含まれるかもしれませんが、すべて高い技術と精緻な手仕事に裏打ちされ、何より今を生きる作り手たちのリアリティが込められた造形です。陶芸の未来を示唆する新しい創造の息吹を感じていただける機会になればと思っています。(兵庫陶芸美術館学芸員・マルテル坂本牧子)※写真も筆者撮影

新里明士(1977年生まれ)《光器》2021 「蛍手」という技法を応用したものですが、器の体を成しながらも、光と空間をテーマとする造形で、フォルム全体が美しい光に満たされています。
稲崎栄利子(1972年生まれ)《円座》2019 超微細な土のパーツと、その果てしない集積が生み出す異様なエネルギーが充満した独創的な作品です。従来のやきもののイメージを一新するパワーがあります。
林茂樹(1972年生まれ)《OO-VIII》2021 個人蔵 磁土と鋳込み成形だからこそ引き出させる素材の魅力を活かしながら、そこにSFの世界観を持ち込んで、独自の近未来的イメージを創出しています。
金理有(1980年生まれ)《不活化コロナ坊》2021 コロナ禍により中断を余儀なくされ、焼成でもアクシデントに見舞われましたが、結果としての作者の切実な内面とコロナとの戦いが痛々しく現れた作品となりました。
増田敏也(1977年生まれ)《Low pixel CG「ボーナスポイント(パイナップル)」》2019 低解像度のデジタルイメージとやきものを掛け合わせたユニークな作風で、日常にある身近なものをユーモアたっぷりに表現しています。
かのうたかお(1974年生まれ)《壺中天アリ》2021 内(深層)と外(表層)をテーマに、シャモット(焼成した耐火粘度の粉末)を用いて表現しています。「破壊」することも造形に取り入れ、やきものの価値観に揺さぶりをかけています。
出和絵理(1983年生まれ)《Forest》2021 一瞬、やきものとは思えないような斬新な造形です。磁土の透光性を活かし、光と影が交錯するフォルムには、自己の内面の世界が織り交ぜられ、見る者の心を静かに揺さぶります。
木野智史(1987年生まれ)《颪(昇)》2020 冬に山から吹き下りてくる冷たい風をイメージしたもので、ロクロで成形した円環を切り、螺旋状に変形を加え、青磁釉を掛けて焼成したダイナミックな作品です。
谷穹(1977年生まれ)《dnaL s ‘naM oN》 2019 室町時代の信楽焼の中で、特に神仏に奉納されたものに見られる「カセた質感」に「幽玄思想」が宿っていることに着目し、そこに漂う「気配の纏わり」を現出しようと試みています。
若杉聖子(1977年生まれ)《恋ひ》2021 鋳込み成形による無釉白磁のしなやかな造形が特徴です。モティーフは蓮の花が多く、仏教思想から着想を得て、祈りにも似た静謐な世界を創り上げています。
見附正康(1975年生まれ)《無題》2021 オオタファインアーツ蔵 九谷焼の伝統技法である「赤絵細描」を駆使し、現代的な抽象模様を描いています。器という概念を超えて、まるで絵画のように見る者をその独特の世界観の深奥に引き込んでいきます。
山村幸則(1972年生まれ)《時のかけら》インスタレーション 2021 かつて自身が修業した丹波の地に通い、そこで出会った室町時代の丹波焼の壺から、作者と丹波、そして、やきもののとの関わりが時空を超えて繋がっていく様子を、映像や音を交えてインスタレーションしています。
秋永邦洋(1978年生まれ) 《擬態化(龍)》 2019 動物の骨格と装飾を組み合わせた作品で、人間の欲望と儚さを表現しています。作者にとって、装飾とは本質を偽装することであり、本質の見えにくい現代社会への不安感を込めています。
度會保浩(1981生まれ) 《eagduru-earthenware with three handle》 2020 古代のやきものの壺の形をモティーフとし、ロクロで成形した石膏型の上でガラスを継ぎ合わせて制作しています。やきものとステンドグラスの技法と造形思考を掛け合わせたユニークな作品です。
松村淳(1986年生まれ)《JUDITH COMPLEX TESTBED-00》 2021 海洋生物学出身という異色の経歴の持ち主ですが、異次元に佇む生命体のようなフォルムの異様さには、その非凡な造形感覚が活かされています。

■兵庫陶芸美術館
〒669-2135 兵庫県丹波篠山市今田町上立杭4
電話 079-597-3961(代表)
兵庫陶芸美術館開館15周年記念特別展「No Man’s Land−陶芸の未来、未だ見ぬ地平の先−」
開館時間 10:00〜18:00(入館は閉館時間の30分前まで)
休館日 月曜日(月曜日が祝休日の場合は翌平日)
入館料 一般1000円、大学生800円、高校生以下は無料
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開館日時が変更となる場合があります。
最新の情報は同館ホームページをご確認ください。