世界に住む5万人以上の子どもたちの笑顔をプリントした傘をアートとして表現する「MERRY PROJECT (メリー・プロジェクト)」 。
 このプロジェクトは、アートディレクター・水谷孝次さん(東京都港区)が1999年に立ち上げた。これまでに世界各国の紛争地や被災地など35か国で撮影、2022年は北京オリンピック開会式の演出で、これらの「笑顔の傘」が披露された。

 水谷さんは1980〜90年代、大手航空会社やファッション、食品メーカーのヒット商品の広告ポスターやパッケージ、 プロ野球チームのロゴマークなどのデザインを手がけ、日本の広告界になくてはならない存在だった。その経験に裏打ちされた発信力を今、世界が正面から向き合うようになったSDGs(持続可能な開発目標)に注いでいる。
 水谷さんは「世の中を、地球そのものをデザインする時代。中でも笑顔は最高のモチーフだ」と話す。

 台風一過、秋の風がすがすがしくなった9月25日。大蔵海岸(兵庫県明石市)に、近隣在住の親子100人が集まった。水谷さんらが企画した「MERRY SDGs ACTION in AKASHI〜明石の海を通じて楽しく学ぶSDGs」を心待ちにしていた。

 明石市は2020年、兵庫県内で初めて、国から「SDGs未来都市」に選定された。すべての人が、いつまでも住み慣れた地域で安心して暮らすことができ、未来に明るい希望を持てる持続可能な“未来安心都市”を目指している。
 1999年にスタートしたMERRY PROJECTと関西との結びつきは強い。阪神・淡路大震災から20年を迎えた2015年以降、被災地・神戸に笑顔を届け続けた。

 こうした活動が実を結び、2021年、「大阪・関西万博『TEAM EXPO 2025』 プログラム共創パートナー」にも登録され、大阪・関西万博開催に向けての機運を高めようと企画し、2022年7月18日には、万博開幕1000日前を記念したパレードを行った。明石市でのイベントは6月に続いて2回目。『TEAM EXPO 2025』プログラムの一環として開催された。

 大蔵海岸の自然観察ゾーンでは、環境教育に携わり、海や川の環境保全活動を続ける「海と空の約束プロジェクト」代表・西谷寛さん(元・神戸市職員)による“海の生き物教室”が開かれ、子どもたちはタコやウニ、カニを見つけ、手に取って観察し、海に戻した。

 そしてクリーン作戦では、子どもたちがプラスチックごみや空き缶を拾った。2度の台風に見舞われた直後で流木も多く、ゴミ袋(45ℓ)10個分に及んだ。
 世界的な問題となっている「海洋プラスチックごみ」は、ポイ捨てなどで陸地から雨や風によって河川に入り、海に流出したものが多い。

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 「今後30年間で、海にはお魚さんよりもゴミの量が増えると言われているよ」。明石市でビーチクリーン団体「WATARIUMI(渡海)」を立ち上げた石野志穂美さんが、子どもたちに語り掛けた。

「じゃあ、お魚が食べられなくなるの?」子どもたちは素朴に感じて不安がった。石野さんがかつて移住していたオーストラリアの海と、ふるさと明石の海とを比べてがく然としたという。

 日本での豊かな生活の裏側で、海が汚れたり、自然が破壊されている現実を突きつけられ、環境問題を考えるようになった。そして地元・林崎松江海岸でのクリーン活動が2020年にスタート、今では80人ものメンバーがサポートする。

 子どもたちのダンスチームもイベントに華を添えた。参加したのは、神戸市や明石市に住む5歳〜17歳の男女36人。
 チームを主宰する上林千花さんは、高止まりする新型コロナ感染者数と向き合いながら活動を続ける。コロナ禍以前は、レッスンが始まる時に子どもたちが輪になって手をつないで挨拶していたが、それができなくなった。
 そして「マスクを付けたままのレッスンでは、お互いに目だけしか見えないので、相手の表情や声等が伝わりにくい」と難しさを語る。子ども達のモチベーションが下がり、表情も暗くなっていたという。

 また家族がコロナに感染すると、子どもらも濃厚接触者として自宅待機となってしまう。メンバー全員がなかなか揃わず、それぞれのポジションが分かりにくくなり、団体競技としてのダンスチームにとって致命的な時期もあったという。こうした中、参加したSDGsイベントを終えて、チームでSDGsについて話し合う機会が持つことができた。

 これまで、SDGsが話題になることはなかったが、エコバッグは必須、(夏の暑い時期には)水筒を持ち歩く、ゴミはゴミ箱がなければ持ち帰る、汚れたタオルは雑巾に使う、(電気代の高騰も意識して)使わない部屋の電気は消すといった“日常生活での心がけ”に気付かされた。
 上林さんが最も印象的だったのは、「服を買いたいけど、沢山買わないで、買うときは小さくなった服を妹にあげてから」とリサイクルの大切さを話した13歳の女子中学生の言葉だったという。

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 水谷さんは、大阪・関西万博に向けたPRのために、2022年3月末まで開催されたドバイ万博(UAE・アラブ首長国連邦)に参加した。
 開催中に悲劇が起こる。2月24日に、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。ウクライナ館には、壁いっぱいに平和を願うメッセージが寄せられていることに心打たれた。世界中の人々からの「平和」と「自由」を求めるメッセージを、それぞれが紙に書いて壁に貼り付けていく。壁一面ががメッセージで埋め尽くされる。これこそ“パビリオン”の発信力ではないのか。「それだけで、アートだ」。

 水谷さんは、「2025年大阪・関西万博でSDGsとの関わりがクローズアップされる中、すぐ近くにある明石は海の豊かさの代名詞のような街で、子どもたちへ最高のSDGsの教材をプレゼントしてくれている」と話す。
 今回のイベントの目的は、SDGsの17の目標(課題)のうち、15番の「海の豊かさを守ろう」、17番「パートナーシップで目標を達成しよう」に当てはまる。

 そして「子どもたちの笑顔は、多様性と調和、そして未来への希望。コロナ禍でのマスク生活で、笑顔が見えない日々を過ごしている。デジタル化されたこの時代に、笑顔と笑顔が向き合うアナログ的な行動も、子どもたちに伝えて行かなければならない。そして気候変動から派生する環境問題も、子どもたちが自然と向き合うことから“気付き”が生まれる」と意義を語る。

 最後に「地元・明石の方々の協力が大きい。地元ことは地元の方々が一番よく知っている。『住みやすい街』ランキングで上位に位置していることもうなづける。できれば移住して、この街の魅力をもっと掘り起こしたい」と微笑んだ。

 兵庫県明石市や近隣の姫路市などでは2022年11月12・13の両日「第41回豊かな海づくり全国大会」が開催される。