地域によって異なる地形や気候などの自然条件を生かした、多様な農業が行われている兵庫県。神戸大学では、食や農の課題と向き合い、地域と連携してさまざまな活動を展開しています。同大学の「農学研究科地域連携センター」が行うのは、地域の課題を解決するための共同研究や、食や農の現場の問題解消に貢献できる人材育成です。

 その一環として実施されているのが、体験型授業「実践農学入門」。農学部の学生が、兵庫県丹波篠山市の農家に1年間“弟子入り”し、米や丹波黒大豆などについて農家の人から教わりながら栽培作業に従事します。ここでは農業の大変さだけではなく、楽しさややりがいをも同時に学ぶことができるそうです。

 1月21日には、今年度の履修生を受け入れた古市地区で、地元農家と丹波篠山市の酒井隆明市長、市役所職員を招いて授業の成果報告会を開催。参加した学生は、授業の体験を踏まえて、丹波篠山の農業を活性化するためのさまざまなアイデアを発表しました。

 実践農学入門をきっかけに誕生した農業系ボランティアサークルも。

 2013年に設立されたのは、丹波篠山市の西紀南地区で活動する地域密着型サークル「にしき恋」。2019年には、その活動が高く評価され、全国の農水産系サークル活動を表彰する「食と農林漁業大学生アワード」で最優秀賞の農林水産大臣賞を受賞しました。メンバーは約160人。神戸大学以外の学生やOB・OGも参加しています。

 活動の軸となるのは、農作業を手伝う“農業ボランティア”。ほかにも、耕作放棄地で丹波黒大豆の生産・販売をする「にし恋Farm」や、学生が主体となって進めるさまざまなプロジェクトなど、その内容は多岐にわたります。

 なかでも、地域のにぎわいを取り戻したいという思いで行われている“無人駅活性化プロジェクト”では、JR西日本福知山支社や地域の人たちと連携し、「無人駅マルシェ」を開催しました。このプロジェクトでリーダーを務めた神戸大学大学院生の山田友斗さん(経営学研究科博士課程前期課程2年)は、「農業ボランティアを通して築いた信頼関係を基に、『地域の一員』として多面的な交流と活動が行える」と話します。

 一方、2016年設立の国際農業サークル「AGLOC(アグロック)」は、留学生と一緒に農業ボランティアを行うことが特徴。メンバーは約40人です。現在は5人の留学生が参加し、丹波篠山市岡野地区で月に1〜2回程度、地元の農家の草刈りや野菜の梱包、販売を手伝っています。

 AGLOCは、2020年、地域を元気にするような政策やアイデアを募集する「地方創生☆政策アイデアコンテスト 2020」にエントリーし、「ベジタリアンモデル都市」をテーマにプレゼンを行いました。外国人観光客を中心としたベジタリアン=菜食主義者をターゲットに据えた課題解決策を提案。「近畿経済産業局長賞」を受賞しました。学生が考案した、丹波篠山の特産品『山の芋』を使ったスープは、現在も人気が高いといいます。

 国際人間科学部 4年の生駒芙美乃ぱあるさんは、「丹波篠山市のベジタリアン都市化を進めるために、ベジタリアンメニューを提供しているお店の調査を進めたい」と意気込みます。

 地元の農業を守り、発展させるために日々奔走する学生たち。次はどのようなアイデアが生まれるのか、その活動からますます目が離せません。

(取材・文=岡本莉奈)