宝塚歌劇団(兵庫県宝塚市)の宙組(そらぐみ)に所属していた劇団員(当時25歳)が、2023年9月に急死した問題で、宝塚歌劇団は28日、大阪府豊中市で緊急会見を開いた。

 歌劇団側は、上級生らによる14件のパワーハラスメントがあったことを認めた。同日午前、歌劇団を運営する阪急電鉄を総括する、阪急阪神ホールディングス(HD 本社・大阪市北区)の角和夫会長らが遺族を訪問して謝罪し、同日、これらの内容を記した合意書を締結した。

その際、亡くなった劇団員が接していた上級生6人から預かった謝罪の手紙を手渡したという。歌劇団側から遺族へ慰謝料などの解決金を支払うことも明かした。

 会見には同HD・嶋田泰夫社長(阪急電鉄社長)、大塚順一執行役員(同専務)、歌劇団の村上浩爾理事長が出席した。角氏は昨年12月、音楽学校の理事長を退任し、後任として歌劇団理事長の村上浩爾氏が兼任している。

 遺族によると、女性は2021年8月、上級生からヘアアイロンを額に押し当てられてやけどをしたほか、稽古中に複数の上級生に呼び出され、「下級生の失敗はすべてあんたのせい」「マインドが足りない」「うそつき野郎」などと怒号を浴びせられたとしている。

 こうしたことから、遺族は「娘が何度も何度も真実を訴え、助けを求めたにもかかわらず、劇団は無視し、ねつ造・隠ぺいを繰り返した」と訴えていた。

 また遺族の代理人・川人博弁護士(東京弁護士会)らは「”縦の関係”を過度に重視する風潮をそのまま容認し、上級生のパワハラ行為を認定しないのは、一時代前の価値観に基づく思考と言わざるを得ない」と批判し、再調査を求めていた。

 遺族と協議を重ねる中、歌劇団側は今年1月の交渉でパワハラの存在を認めたものの、具体的な内容について双方の認識に隔たりがあったが、今回、14項目のパワハラ事実を認めて遺族に謝罪したという。

■「取り返しのつかないことをした。申し開きもない」阪急・嶋田社長、痛切な反省の弁

 嶋田社長は会見冒頭で、「亡くなられた劇団員に心より哀悼を申し上げますとともに、ご遺族に深くお詫び申しあげます。希望を持って(宝塚歌劇団に)入団されたご本人が、どのようなお気持ちだったか、また、その活躍を楽しみにされ、温かく全力でサポートされていたご家族がどのようなご心情を思うに、取り返しのつかないことをしました。申し開きもございません。劇団に全て責任があります」と頭を下げた。

 宝塚歌劇団は、外部弁護士による調査チームの報告書の内容にとどまらず、遺族の代理人弁護士から提出された意見書の内容を踏まえ、遺族との協議を重ねていた。

 その結果、亡くなった劇団員に対し、▼長時間の活動を余儀なくさせ過重な負担を生じさせたこと、▼歌劇団内で厚労省指針が示す「職場におけるパワーハラスメント」に該当するさまざまな行為により、多大な心理的負荷を与えたことを認めた。

■現場に対する無理解、無配慮…「経営陣の怠慢」が悲劇を

 これらは、「経営陣の現場活動への無理解や無配慮という“怠慢”によって、長年にわたり劇団員にさまざまな負担を強いる運営を続けてきたことが、事態を引き起こした」としている。

 こうした背景を踏まえ、「すべての責任は歌劇団にあり、亡くなった劇団員に対する安全配慮義務違反があった」と結論付けた。

■宝塚歌劇団、価値の源泉は“人” 全力で改革に取り組む

 嶋田社長は、宝塚歌劇団の価値の源泉は、劇団員をはじめ、創作活動に関わる”人”としたうえで、「それぞれが持てる能力を最大限発揮し、最高のパフォーマンスを演じるための環境を整えることが責務だ」と強調した。

 そして、「仮に悪意がなかったとしても、厳しい叱責がハラスメントにあたるという“気づき”を、劇団員が認識していなかった。教えていなかった我々に責任がある」として、失った信頼を取り戻すべく、全力で改革に取り組むと述べた。そのうえで、外部有識者6人で構成する「アドバイザリーボード」を4月1日に設置し、助言を仰ぎながら抜本的な改革に努めるという。

■110年の伝統、慣習の積み重ねが非効率、過剰負担に

 また、村上理事長は、昨年から続けていた歌劇団関係者へのヒアリングについて、組織風土の見直しや再発防止への糸口になったことを明かし、「継続して進めたい。終わりのないこと」とした。

 そして、「これまでの110年間、歌劇団で伝承されてきた多様なルールや指導のあり方について、古くからの伝統や慣習が積み重なり、非効率なもの、過剰な気づかいや負担が生じているケースがある」と話した。

 こうした現実を踏まえ、「予断を持たずに検討のうえ、継続すべきことや伝承すべきことは残し、非効率、不必要と判断したものは廃止する」とした。

■村上理事長「パワハラの証拠があるなら見せてほしい」発言撤回、「お恥ずかしい」

 歌劇団側は昨年11月の会見で、週刊誌が報じた、上級生がヘアアイロンを女性の額に当ててやけどを負わせたことについて報告書の内容をもとに「故意だとは確認できなかった」と指摘し、上級生らのパワハラ行為を認めていなかった。この時村上理事長は、「(パワハラの)証拠となるものをお見せいただきたい」と発言していた。

 しかし、この日の会見では一転、「当時そのような発言をしたことは非常に恥ずかしく、遺族の皆さまに申し訳ない。非常に反省している」と述べた。

 村上理事長はまた、現在休止している宙組の公演再開について「少しでも早い段階で報告できるようにしたい」と述べた。宙組の劇団員らは現在、任意でレッスンを受けて心身の状態を維持しており、「今後、時期がきたら公演を再開させたい」とした。

■遺族が後悔「娘が生きている時に泣き寝入りせず、抗議すれば良かった」

 川人弁護士は、歌劇団の会見と同時刻に東京都内で報道陣の取材に応じ、「従前から遺族側が主張したパワハラ行為について、おおむね今回の合意書の中に反映することができた。こちらの主張したことと合意書が100パーセント一致する関係ではないが、内容としてはおおむね従前から主張した内容で合意書締結にいたった」と述べた。

 そして、亡くなった劇団員の母親が記した「今さらながら、2年半前(2021年8月)にヘアアイロンによるやけどがあった時に泣き寝入りせず、声を上げれば良かった、歌劇団が、この事実を”事実無根”と発表した時に抗議すれば良かったと、後悔してもし切れません」というメッセージを読み上げた。