赤ちゃんが生まれて母親が悩むことの一つに母乳育児があります。母乳が出なかったり、乳腺炎になったり、飲んでくれなかったり。頑張ってもうまくいかないことがあり、つらくなってしまいます。そんな時は、もちろんミルクでも元気に成長するので切り替えることも大切です。

 しかし、早産児や極低出生体重児(1500グラム未満)にとって母乳はより重要です。その意味合いも違ってきます。

 早産児や極低出生体重児は早くおなかの外に出るため、身体の全てが未熟な状態で生まれてきます。それ故、病気や感染症にかかりやすくなっています。

 助産師さんによると、正期産(37週以降)で産んだ母親の母乳より早産になった母親の母乳の方が、未熟な状態で生まれた子に必要な成分が多く含まれ、成長の助けになるそうです。また、腸の働きを良くする物質も含まれており、消化器官に負担なく栄養を摂取することで免疫機能を高め、感染症や疾患から守る役割もあると教えてもらいました。早産児に起こりやすい病気の一つで、腸の一部が壊死(えし)してしまう「壊死性腸炎」のリスクが低くなるとも聞き、人間の体とはなんて神秘的なのだろうと感じました。

 小さく生まれた子を持つ母親は、こうしたことを知るとできるだけ長く母乳で育てたいという思いから、昼夜を問わず搾乳を頑張るのです。

 しかし、母乳の状態は人それぞれです。特に早産になった場合は母親が体調を崩したり、病気治療中であげられなかったり、心と体の準備が整う前だったために、なかなか母乳が出ない場合も少なくありません。わが子に母乳が必要だと思う半面、あげられないことに落ち込む人もいるのが現実です。

 そんな時に、母乳がたくさん出る人から寄付される「ドナーミルク」を提供する母乳バンクの認知が広がってきています。ドナーとして登録する人や提携する病院はここ数年で増えています。

 ただ、課題はまだまだ多いと感じます。

 その一つはドナー登録と検診を行える施設が少ないことです。全国的に見ても少なく、群馬県にはまだありません。提供したくても、施設が遠いと赤ちゃん連れの人には移動がネックになり、断念してしまう人もいると思われます。もちろん安全第一ですから、母乳を分けたいと思う誰もが登録できるわけではなく、いくつかの条件をクリアすることが必要です。従って、登録者はさらに限られていきます。

 出産した病院で登録することができれば、母乳提供はもっと身近で気軽なものになると考えます。母乳で助かる命があることを多くの人に知ってもらうことで、協力の輪が広がっていくことを期待しています。

 【略歴】双子の次男と三男が500グラム台で生まれた経験を持つ。同じような立場の人たちとの交流を目的とするサークル「LOKAHI」を2021年に立ち上げた。