皆さんは、「ある瞬間、良好だった関係に亀裂が入った」という経験はありますか? 親しい中にも礼儀ありというように、仲が良いからこそ、思いもよらない一言や行動で取り返しがつかなくなることもあるかもしれません。今回は、幸せに暮らしていた夫婦が、ある一言でふさがらない亀裂が入ったエピソードを紹介します。

◆義父に言われた許せない言葉
 今回お話を聞いたのは、紀子さん(仮名・29歳)。紀子さんは、夫の孝雄さん(仮名・34歳)と駆け落ちも同然で結婚しました。そんな二人はとても仲が良く、紀子さんも幸せな生活を送っていましたが、ある言葉が今でも紀子さんを悩ませているそうです。

「クリーニング屋よりマシなお仕事を紹介できるから、お父さんによろしくね」

 夫の実家で義父に言われたこの一言。義父としては何気ない言葉だったかもしれないこの言葉が、紀子さんを今でも悩ませ、トラウマのように残っているのだとか。

◆クリーニング屋の父を誇りに思っている
 紀子さんの実家は、郊外でクリーニング店を営んでいます。紀子さんの父親は中学卒業後、隣町で5年間修行をしたあと自らクリーニング店を立ち上げました。しかし、最近では近くにある大手企業にお客さんを取られ、さらにはここ数年の景気低迷の影響で設備機器導入などの借入れがあり、経営を圧迫しているそう。

「それでも、父が誇りを持ってあの店を切り盛りして、私たちを育ててくれたと思うので、私も父の職業に誇りを持っていました」と、胸を張って話す紀子さん。

 対して、孝雄さんの父親は歯科医で、母親は地元の資産家の出身だそうで、いわゆる裕福な家庭というものでした。そんな中、久々に訪れた夫の実家で浴びせられた「クリーニング屋よりマシ」発言。

「誇りを持っていた父の職を『マシ』という言葉で小馬鹿にされて様に感じて、心底悔しかったし腹立たしかったです…」

 当時のことを思い出して話す紀子さん。あまりにも悔しすぎて、義父に言葉を返すことができなかった事を今でも悔やんでいるそうです。

◆まさか夫まで…本心を知り愕然
 自宅に戻ってからもそのショックを隠しきれず、悔しさや腹立たしさを孝雄さんにぶつけてしまった紀子さん。それを機に、些細なことで孝雄さんとの口論が絶えないようになってしまいました。

 挙句の果てには、孝雄さんの口から「お義父さんなら、今からでももっと綺麗な仕事があるんじゃない?」という言葉が出てきました。紀子さんは、その言葉で父の職に対する夫の印象を初めて知り、衝撃を受けたそうです。

「まさか、親子そろってそんな風に見ていたと思っていなかったので、ショックを通り越して愕然としました」

 心のどこかで「夫は分かってくれる」と信じていた紀子さんには、かなり重く響く言葉でした。

◆父親の店を手伝うようになる
 義父や夫の一言がショックと共に忘れられない紀子さん。2人への見る目が大きく変わってしまった紀子さんは、義父との会話もどこかよそよそしくなり、あれだけ大恋愛だった夫との距離も日に日に遠ざかっているのだとか。

 しかし、紀子さんは下を向いているだけではだめだと、その頃から実家のクリーニング店を手伝うようになりました。持ち前の明るい性格と、SNSを駆使した現代ならではの集客が功を奏したのか、経営は少しずつ上向きになっているそうです。

「夫と結婚する際に、すこし気まずくなっていた父との関係も徐々に良くなってきたんです」と、嬉しそうに話してくれました。

 今では、クリーニング店経営について一緒に悩み、相談できることがとても嬉しいとのこと。

◆夫婦関係は亀裂が入ったまま
 夫との仲は冷え切ったままでも、紀子さんはそれ以上に父親を助けたい一心で日々を送っているそうです。

 他人からの一言が与える影響、皆さんは経験ありますか? 今回は、「ふとした言葉から自分が傷つけられる」というものでしたが、もしかすると自分も相手を傷つけている可能性があるかもしれません。親しい中にも礼儀ありというように、気を許しているからこそ、ふとした瞬間に投げかける言葉には気を使った方が良いのかもしれません。

―シリーズ「許せない一言」―

<文/浅川玲奈 イラスト/ただりえこ>