いくつになっても夏休みはワクワクするものですよね。海へ、山へ、そしてお祭りへ。たくさんのイベントが目白押し。ましてや、カップルで過ごす夏休みは最高のシチュエーションではないでしょうか。今回は、コロナ禍前にあるカップルに起きてしまった夏祭りでのエピソードを紹介します。

◆彼氏と地元の夏祭りに
 お話を聞いたのは都内の旅行代理店に勤める麻美さん(仮名・26歳)。麻美さんには当時付き合って1年になる年下の彼氏がいて、交際は順調のようでした。

 そんななか、運よくお互い夏休みがとれたので、折角だし2人でどこか行こうということになり、一緒に地元の夏祭りに行く計画を立てたそうです。

「彼氏はお祭り好きで、数日前からご機嫌でした。テンションが高いなあと思いつつ、私も久々のお祭りということで、その日のために浴衣とか新調しちゃいました。浴衣カップルに憧れがあったので……」

◆高校生みたいな服装で来た
「彼氏にも浴衣をすすめていたんですが、結局当日Tシャツに短パンという出立で、地元の高校生みたいでした。ま、何も言いませんでしたけどね」

 ラフな洋服で現れた彼氏に出鼻を挫かれてしまった麻美さんですが、彼氏のことは頼りがいのある存在だと思っていたそう。麻美さんより3歳年下でありながら、父親の内装業を手伝う2代目として働き、夏は海の家の手伝いをしていました。ちょうどそこへ遊びに来ていた麻美さんは彼に声を掛けられ、交際に至ったということです。

「あまり今までに交流したことがない……どちらかというとマイルドヤンキーって言うんですかね? 自分の周りにいないようなタイプの人で、いつも新鮮な感じで付き合ってました」

 年下かつパリピという、麻美さんにとっては生きている世界が違うような人でしたが、付き合ってみると発見も多く、楽しい面もあったと言います。

◆金魚すくいに熱中する彼
 合流した2人は、早速お祭り会場を歩いて回り始めました。気になった屋台で食べ物を買って食べ歩き、お祭りを楽しんでいました。しばらくすると、足早にある方向へ走り出していったという彼氏。何を見つけたのかと麻美さんも急いでついていくと、彼氏は金魚すくいの屋台に並んでいました。

「私も幼い頃は金魚すくいが大好きでしたけど、物心ついた頃からは周りで見ている派だったので、やる気満々な彼氏に驚きました。本当はもう少し他の屋台も見たかったんですが、彼氏がもう戦闘態勢に入っていたので……」

 しばらく彼氏の金魚すくいを一歩下がって見ていた麻美さん。彼氏の腕は予想以上で、大小合わせて10匹ほどゲットしていたそうです。彼氏はポイを限界まで使い、ドヤ顔で小さいビニール袋に入れられた金魚を持って麻美さんの元へ駆け寄ってきたそうです。

「あまりにも多いしまだ帰る予定でもなかったので、リリースしてあげれば?って言ったんですけど、全然聞かずに歩いていっちゃったんです」

 すくい過ぎた金魚を持ち帰るつもりでいるらしい彼氏。おまけに、そのあとすぐに麻美さんにそのビニール袋を手渡し、自分は別の屋台で飲み食いを始めたそうです。

◆金魚が気になってしょうがない…
 彼氏とお祭りへ出向いたのはこれが初めてだった麻美さん。彼氏の身勝手な行動に少しイラっとしたそうですが、それでもどこかで年上という事実が邪魔をして、大目に見てしまっている自分がいました。

「なんとか人ごみの中で金魚を守りつつ潜り抜けながら花火大会の会場まで来たのですが、ビニール袋の中の金魚が気になって全然それどころではなかったです。袋の中は狭いし、水も温くなってるんじゃないかとか色々考えちゃって」

 金魚のことで頭がいっぱいでお祭りを楽しめなかった麻美さんですが、ようやく彼氏も祭りを堪能したようなので、お祭り会場を後にした2人。

◆彼の言葉に耳を疑う
 帰り際、麻美さんは彼氏から言われた言葉に衝撃を受けます。

「なんて言ったと思います? 『その金魚あげるよっ』って言われたんですよ! 流石にもう我慢できなくて『育てられないなら持ち帰るとか言わないでよ!!』と怒ってしまいました」

「屋台の金魚は弱っていてすぐ死んじゃうから短い間で済むし、そんなに怒るなら麻美が育てれば?」と、ヘラヘラと笑いながら彼氏は言ったそう。

「何笑ってるの!? 金魚の命大切にしろよってかなりイラつきましたね…」

 無責任かつ生き物の命を軽視する彼氏の言葉に幻滅した麻美さんは、金魚のビニール袋を持ったまま、1人で帰路についたそうです。

◆金魚に愛情を注ぐ毎日
「帰宅してすぐに大急ぎでキッチンにあったガラスのボールに金魚を移しました」

 麻美さんは浴衣から着替えもせず、金魚を生かすために全力を尽くします。翌日にはペットショップでエアポンプや餌を揃え、飼育を始めたそうです。

「今は金魚に愛情を注ぐ毎日ですが、彼氏への愛情はあの一言で一気に冷めましたね。もちろんすぐさまお別れしましたよ」

 金魚に罪はないですからねと笑う麻美さん。今はまだ金魚を見ていると、時折元彼の姿がちらついて怒りが湧くそうですが、これからの季節でもっと良い思い出を重ねて忘れていきたいとのことです。

―シリーズ「夏のトホホな話」―

<文/大杉沙樹 イラスト/zzz(ズズズ)@zzz_illust>
【大杉沙樹】わんぱく2児の母親というお仕事と、ライターを掛け持ちするアラフォー女子。昨今の情勢でアジアに単身赴任中の夫は帰国できず。家族団欒夢見てがんばってます。