NHKでアニメ化された『赤ちゃん本部長』や、推し活友達のルームシェアを描いた『2DK』などで人気の漫画家・竹内佐千子さん。11月10日にコミックエッセイ『イケメンに会えない今、私たちはどう生きるか。』が発売されました。担当編集のM田さんと共に、幸せと健康を求めてイケメンに会いに行く姿が赤裸々に綴られたシリーズ最新刊となります。

 竹内佐千子「イケメンに会えない今、私たちはどう生きるか。」ぶんか社今回は9話を紹介。インタビューでは、最新作の見どころや現在のイケメン活動、さらにはエッセイならではのリアルな展望まで聞かせてもらいました。

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印象に残ったイケメンは?

――今作の時系列としては2020年3月頃からのスタートですね。

竹内佐千子(以下、竹内)「最初から最後までコロナ禍の巻でしたね。後から見返したらきっと資料になると思いますよ。最近もうみんな東京アラートのこととか忘れかけてません?もはや、緊急事態宣言とは何だったのか……」

――去年の後半もハロウィンやサッカーワールドカップで渋谷が大渋滞でしたもんね。

竹内「でもまだコロナ禍は終わってない……変な感じ。そんな中での今作なので、イケメンをおっかけるというテーマでありながら日常生活を描いただけだった気がしなくもないですね。イケメンイベントもほとんど中止だったし」

 竹内佐千子「これからは、イケメンのことだけ考えて生きていく。」ぶんか社――その中で特に印象に残っているイケメンに関するエピソードは?

竹内「コロナ禍でもイベントを開催したイケメンがいて、それはめちゃくちゃ覚えてますね。ただ、アクリル板越しで、当然握手もできない。マスクしてるから声が聞こえなくてマイク越しに喋る。途中から『何なの、これ。こうまでして私この人に会いたかったっけ……』って考えてました(笑)」

――イケメン熱に浮かされた状態から正気にかえってしまう瞬間ですね(笑)。

竹内「あと、カレンダーや写真集のお渡し会と銘打たれているものの、直接の手渡しはNGでアクリル板越しに話すだけっていうのもありました。スタッフさんに渡されて帰るのって辛い。この時も『こうまでして……』って気持ちになりましたけど、イケメンたちも頑張ってるし買わなきゃ!って自分を奮い立たせました」

もっと喋ってと言われても…

――感染予防対策とはいえ、工夫され過ぎたイベントというのもなかなか厳しいものがあったんですね。

竹内「他にも困ったことといえば、お客さんがいなさすぎた若いイケメンのイベントでスタッフさんから『もっと喋(しゃべ)ってください』って言われたこと。遠征するファンがこれない時期だったから、人が少ないっていうのは仕方ない。でも、それにしたって16歳くらいの男の子との共通の話題なんてマジでないんですよ。だから聞けるギリギリの質問で『好きな食べ物は何ですか』って聞きました」

――大味な質問ですけど無難なラインではありますね。

竹内「でも、その時に私の前に並んでいたM田(担当編集者)が全く同じ質問をしてたことを後で知ったんですよ!絶対、あの子困惑したと思う。アラフォー女から連続で同じ質問……。私、一生忘れませんよ」

イケメンに会えないストレスで爆買いも

――『イケメン』シリーズでは、竹内さんと編集M田さんの素の掛け合いの面白さも話題ですよね。

竹内「M田との話で忘れられないのは、14歳のイケメンが初めて開催したカレンダーお渡し会イベント。M田は仕事で来れなかったんですけど『あの子の初めてを逃した〜〜!』ってめちゃくちゃ後悔して崩れ落ちてて。あの姿は脳裏に焼き付いてます」 (『これからは、イケメンのことだけ考えて生きていく。』収録)

――個人的には連載中の『本当にあった笑える話』で読んだ、爆買いの回が凄いなと思いました(次巻に収録予定)。イケメンに会えないストレスを発散するがごとく、金額などもろともせず本能の赴くまま、欲する服を買い漁る姿は第三者視点では間違いなく壮観でしたよ。

竹内「あれも凄かった!10数万円買ってましたよね。正直『あ〜、2ケタいったなぁ〜』って思いながらも止める人が誰もいないから、互いに褒め合い続けて総金額爆上げしてました(笑)」

 竹内佐千子「生きるために必要だから、イケメンに会いに行った。」ぶんか社――一方的に暴露されまくっていますが、M田さんからの逆襲はありますか?

M田「紅茶教室に行った回があるんですが、あの時の講師の人は絶対に竹内さんに好意を持ってたと今も思ってます!」 (『もう楽しいことしかしたくないから、イケメンに会いに行った。』』収録)

竹内「それ、ずっと言ってるけど絶対違うから(笑)。あ。もう一つ思い出深いのが、三浦春馬と佐藤健のツタヤでのイベント。真夏の朝、整理券を貰うため地下二階から最上階まで並ばされたんですが、すごい時間がかかってぜんぜん終わらなくて。M田が始業時間になっちゃって会社に電話して『ボードに外出って書いておいてください』って言ってましたね」 (『ブラブラ珍所〜イケメンに会いたくて〜』収録)

アラフォーの推し活「肉体の前に脳みそがもう限界」

――お話を聞いてると、本当にお二人はパワフルですよね。推しに対して努力を惜しまないというか。

竹内「いやー、アラフォーになってからはそういう努力も出来なくなってきたとヒシヒシ感じていますよ。年越しライブももう行けないし、最近M田も私も新しいイベントを知ろうとする元気もないです」

――アラフォーになった二人にそんな変化が訪れていたのですか。

竹内「ヘトヘトです。肉体の前に脳みそがもう限界に達するんですよ。こっちを追えばあっちが追えない、みたいな感じ。現場に行く体力も情報を得る能力も、推しの曲を覚える記憶力もない。これ、たぶん全アラフォーの共感を呼ぶと思います」

「40代って推し活するには微妙な年代」

――そうなると、今後の『イケメン』シリーズはどうなっていくのでしょうか?

竹内「ほぼ買い物になるんじゃないですかね(笑)。それと今後はリアルに家族の問題が出てくると思います。これまでもペットが死んだり、おじいちゃんおばあちゃんが亡くなったりしていて、そうなると次は両親かな、とか。あとは病気とか怪我とか」

 竹内佐千子「もう楽しいことしかしたくないから、イケメンに会いに行った。」ぶんか社――作品がエッセイだからこそ直面する現実問題ですね。

竹内「40代ってすごく大変。ずーっと細い平均台を歩いているような。難しい年齢なんだと思います。そろそろ40代の今だけでなく、近い将来の50代に向けても考えていかないと。最近、10代のアイドルが『50年後もみんなで歌って踊っていたいな』ってファンに向けて言ってるのを見たんですが、その場にいる3割が『50年後にもう自分たちはいない』って思ってただろうな、と(笑)」

――年の離れた推しだとそうなってきちゃいますよね。

竹内「若い子を推すことにセクハラみを感じるようになってしまったのも大きな変化です。そんな悪いこと本当にしてるわけじゃないけど、若いイケメンに何を話せばいいのかはわからくなったのは確かです」

――わかります。若い女の子みたいに「イエーイ」ってノリでいけてしまえばどんなにラクか。

竹内「40代って推し活するには微妙な年代なんですよ。ギリ年下に恋愛感情がありそうと思われちゃう。でも、30代の時の方よりはガチ恋と勘違いされることは無くなったかな。そう思うと、50代60代はさらに若い子を推しやすくなるのでは?!その頃に良い推しがいれば一番いいんですけどね」

目標は、年上の推しより長生き?!

 竹内佐千子「ブラブラ珍所〜イケメンに会いたくて〜」ぶんか社――竹内さんの今後の目標は?

竹内「まさに健康……無理をしないことでしょうか。私は激情型なので興奮すると勢いで色んなことをやっちゃうので、騒がず落ち着いて真面目に、慎ましやかに生きていきたいです。そして年上の推しよりも長生きをしなければ(笑)。

あと、真面目な話をすると、これからもちゃんと漫画は描いていきたいですね。私はのろーくのろーく仕事をする人なのですが、自分自身としてはもっと描きたいと思っています」

――ありがとうございました!

(C)竹内佐千子/ぶんか社

<取材・文/もちづき千代子>

【もちづき千代子】
フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。度を超したぽっちゃり体型がチャームポイント。Twitter:@kyan__tama