馬場ふみか演じる専業主婦が、モラハラ夫(野村周平)を社会的に抹殺しようと計画するドラマ『夫を社会的に抹殺する5つの方法』(テレビ東京系、火曜深夜0時30分〜)。話題のドラマを、夫婦関係について著書多数の亀山早苗さんが読み解きます(以下、亀山さんの寄稿)。



おまえがクズだから教育してやってるんだ

ドラマ『夫を社会的に抹殺する5つの方法』の第4話。大輔(野村周平)は広告会社を追われ、父親が営む会社で働き始める。茜(馬場ふみか)は、夫のみならず義父母にまでいびられるようになった

両親を学生時代に事故で亡くしている茜には、帰る場所がない。それを見越していじめたり嫌がらせをしたりする夫や義父母の話はときどき耳にする。



「おまえがクズだから教育してやってるんだ」

本当に何も教わってこなかったのね

そういう言葉は、まさにモラハラ。だが言っているほうは、案外、本気でそう思っているから怖い。

それにしても野村周平のDV夫ぶりはなかなか真に迫っている。暴言を浴びた馬場ふみかも、体が硬直して呼吸が浅くなる芝居がうまい。

「仮面さん」から届いた、夫を社会的に抹殺する方法の3つめは「良好な友好関係を破壊する」だった。大輔が過去におこなったいじめ現場の動画を拡散することで、茜はひそかに溜飲(りゅういん)を下げる。

妻の手料理を「いらない」とゴミ箱に捨てる夫

「元夫も、あそこまでではないけどよく暴言を吐いていました。結婚するときに私が料理上手ではないと知っていて、『いいよ、一緒に作ろう』と言ってくれたのに、結婚したとたん、『本当に作れなかったんだ。そんな下手なら、仕事を辞めたら?』『夫にうまいものを作ろうという愛情がないってことだよね』とさんざん嫌味を言われました」

思い出しただけでつらくなると言いながら、カホさん(39歳・仮名)はそう話してくれた。29歳のときに職場の先輩と結婚。共働きを続けながら、家事はほぼワンオペ状態だった。それでも夫に喜んでもらおうと、料理本を見ながらがんばって作った。

 写真はイメージです(以下同じ)「そこそこかなと思っても、夫は一口食べると『いらない』とゴミ箱に捨ててしまう。そのままコンビニに行って何か買ってきてはひとりで食べていました

翌日こそはとがんばっても同じことの繰り返し。そうこうしているうちに、ある週末、義母が大量の食材を抱えてやってきた。またたく間に料理が何品もできあがっていく。夫はそれを見ながらダイニングのテーブルでビールを飲み始めた。義母は息子の目の前に、これでもかと料理を並べた。

息子が倒れたらあなたのせいですからね

「やっぱりおかあさんの料理はうまいなあ。カホもちゃんと教わっておけよと夫は言うんです。義母も『働きながら家事もやるのは大変よねえ。でもね、息子が倒れたらあなたのせいですからね』と同情だか恫喝(どうかつ)だかわからない言葉を浴びせかけてきました」

ところが義母の料理、カホさんにはそれほどおいしいと思えなかったという。味つけが濃く、出汁もほとんどきいていない。

料理「それでも夫がそれを好むならと義母にレシピをきくと、『見て覚えなさい。いちいち分量なんて量ってないんだから。これはね、経験と愛情よ』って」

味が濃ければいいのだろうと、それからは少し濃くしてみたが、やはり夫からは「仕事辞めて、おふくろに弟子入りしろよ」と言われる始末だった。

妊娠した妻に「うっとうしいなあ。実家に帰れば?」と夫

このままでは夫とはうまくいかない。毎週末やってくるようになった義母と、それをありがたがっている夫を見ながら、カホさんの頭の中に「離婚」の文字が浮かんだ。ところがそんなときに妊娠がわかり、彼女は離婚をいったん棚上げすることに。

つわり「つわりがひどかったんですが、夫は『おかあさんが言ってたよ、つわりなんて病気じゃないって』と言うだけ。仕事をしているときはそうでもないんですが、帰宅すると本当につらくて立っていられない。しかもほとんど食べられない。でも夫は帰宅して私が横になっているのを見ると、『うっとうしいなあ。そんなに具合が悪ければ実家に帰れば?』と。

うちは両親が離婚していて私は母に引き取られたんですが、その母も10年前に再婚して遠方にいる。しかも母の再婚相手と私はあまり折り合いがよくない。それを知っていて、そういう言い方をする夫を軽蔑しました」

夫の暴言や義母の態度をひそかに録画、メモもとっていた

週末になると、相変わらず義母がやってきて掃除や洗濯までしてくれた。それはありがたかったが、義母がするのは夫の分の洗濯物だけ。

夫のためにならない妻は、いるだけムダねと義母が言い、夫もヘラヘラ笑ってる。つわりを乗り越えて無事に出産したら、絶対に離婚しようと心に誓いました」

録音彼女はひそかに夫の暴言や義母の態度を録画し、細かくメモをとっていた。子どもが女の子だとわかったとき、義父が「使えない嫁だ」と言ったことも録音されている。

「夫の実家は小さいながら会社を経営していて、夫はいずれ今の会社を辞めて家業の社長になることが決まっていた。だから跡取りを産んでほしかったんでしょうけど、私は女の子でホッとしました」

サイン済みの離婚届を置いて家を出た

出産したときも、義父母は孫の顔さえ見に来なかった。それから1年、彼女は友人たちの協力を得てアパートを借り、娘とともに家を出た。テーブルの上にサイン済みの離婚届を置いて。

「会社では違うフロアだったのでめったに会わないけど、たまに顔を合わせても知らん顔されました。離婚に関しても反応なしだったので、調停を申し立てたんです」

離婚届調停は不成立、審判へと移り、2年かけてようやく離婚が成立した。その過程で夫や義母の暴言も炙(あぶ)り出された。

友人たちが協力してくれて、夫の非道なおこないが社内でも噂になって。夫は離婚成立前に退職しました。退職する日にたまたま社内で出くわしてしまったんですが、夫は『おまえに会ったのがオレの不幸だった』と。近くでそれを聞いた同僚が『いいかげんにしろよ、かっこ悪いぞ』と言うほどでした」

今は、復讐よりも優先したいことがある

最初のうちは養育費も振り込まれていたが、それも今は途絶えているという。ただ、カホさんが会社を辞めなかったため、母娘ふたり、なんとか暮らしてはいる。

「夫は全然子どもに興味がないんでしょうね。会いたいとも言ってきません。そんな人からお金だけもらったってしかたがないと思っています

復讐してやりたい気持ちはある。夫を社会的に抹殺したい、義父母も一緒にとは思う。だが、今は「娘との生活を大事にすることが最優先」と割り切っているとカホさんはつぶやいた。

<文/亀山早苗>

【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio