9月15日に放送された『初恋、ざらり』(テレビ東京系、金曜深夜24時12分〜)の11話は、軽度の知的障害と自閉症のある主人公・有紗(小野花梨)の母親で、シングルマザーとして有紗を育ててきた冬美(若村麻由美)にスポットライトが当たる回だった。
ゾンビのような生活を送る有紗に、母・冬美は
前回の10話ラスト、障害があるために、“普通”に仕事や恋愛ができないことに絶望した有紗は、一方的に岡村(風間俊介)へ別れを告げた。11話では実家に引きこもって眠り続け、目が覚めたらまた寝るためにアルコールをチビチビ飲む、というゾンビのような生活を送っている有紗の姿が映し出される。
「私を責めないで」罪悪感を背負いながら育ててきた
冬美はそのまま幼少期の有紗がじゃれてきた時の様子を回想しながら、「時々ものすごい罪悪感に襲われる。罪悪感を与えてくる有紗に、ますますイライラした」「なのにこの子は私のことが大好きで」「これ以上私を責めないで」と当時の心境を思い返す。これまであまり冬美という登場人物は掘り下げられてこず、自由奔放な印象が強かった。ただ、今回初めて冬美の内面が深く描かれており、「障がいのある状態で産んでしまったこと」「両親の愛情を与えられないこと」など、いろいろな罪悪感を背負いながら、今日まで苦労して子育てしてきたことが、辛くなるほど伺えた。
「ママ、私のこと産まなきゃ良かったって思ってる?」
後半では、一向に立ち直る気配を見せない有紗に冬美が「いつまで悲劇のヒロインぶってるつもり?そういうの本当に疲れるんだよね」と言う。有紗は「ごめんなさい」と返しつつ、「ママ、私のこと産まなきゃ良かったって思ってる?」と弱々しくも返答に困る質問をぶつける。
本心を隠さずも、有紗を傷つけない優しい答え
11話の序盤の回想シーンで、冬美が有紗の障がいについて記された診断書を見て、どこか動揺している様子だった。しかし、冬美は有紗の問いに「有紗が障がい児だから育てるのが大変だった」とは言わずに“人間ひとり”と表現。ここは適当に嘘をついたり、都合の良い言葉をかけたりすることもできた場面ではある。しかし、あくまで「有紗を育てることが大変だった」という本心を隠さずも、有紗を傷つけない言い回しでの回答で、冬美がいかに有紗と向き合ってきた愛情深い親であるのかを感じさせられた。
母親になって後悔している人は多い?
冬美のセリフを聞いた時、イスラエルの社会学者であるオルナ・ドーナト氏の著書で、2022年にリリースされて話題を集めた『母親になって後悔してる』(新潮社)が頭に浮かんだ。
冬美も間違いなくその1人。実際、有紗の「私のこと産まなきゃ良かったって思ってる?」と問いに、「思った……時もあった」と母親になって後悔した経験があると告白した。とはいえ「あんたがいたから頑張れたのも本当」とも話している。
母親のリアルを綺麗事で片づけないインパクト
“産んだことを後悔する時もあったけど産んで良かった”という一見矛盾しているセリフではあるが、母親になったことについては簡単に言い表せるものではない。そういった母親のリアルを、綺麗事で片づけなかった。母親になって後悔している人たちの苦悩や葛藤を端的に表し、それでいて母親の愛情もしっかり感じられるセリフとなっており、これまでの映画やドラマでは感じたことのないインパクトがあった。有紗に障がいがあろうと、ひとり親家庭だろうと、子どもを産んだことを後悔する時があろうと、どれだけざらりとした関係性であっても2人が素敵な親子であることは間違いない。等身大の家族愛が描かれた11話だった。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki