さまざまな国籍の教師や生徒が共に過ごし、主に欧米式の教育をおこなうインターナショナルスクールと日本の学校とでは、根本から教育方法や考え方が違う。
そしてそれが、俳優の役作りにも関わってくるのだとすると……。
「イケメンと映画」をこよなく愛するコラムニスト・加賀谷健が、インターナショナルスクール出身俳優のほうが演技がうまいのでは? という“仮説”を元に、3人の俳優を紐解く。
演技がうまいのでは?という“仮説”
日本のインターナショナルスクールでは、日常的にディベートを行うという。黒板の前に立つ教師に向かって挙手をし、“正解”を言うことを求められる日本の一般の学校とは大きく違う。高校時代をインターナショナルスクールに通った筆者の友人に聞けば、ある答えに対して「自分たちがどう思うのか」をはっきりさせるためだという。なるほど、そうして答えが自分の意見となるのか。
彼らは、自分が納得するまで、正解とされているものに向き合うことを忘れない。ここでふと思うのは、こうした思考法は俳優の役作りととてもよく似ていることである。演技は、俳優が演じる役柄と対話を重ね、自分がより理想だと思う演技像に近づけていく作業だからだ。
もしかするとインターナショナルスクールに通った俳優のほうが、ディベート型で演技がうまいのでは? という“仮説”まで立てることができる。
インターナショナルスクール出身の俳優を調べてみると、なかなか味のある3人がヒット。水嶋ヒロ、松田翔太、宮沢氷魚。その内、宮沢は英語が達者なイメージがあったが、あとの2人は言われてみると、という感じ。
水嶋ヒロがつくる完璧な執事像

幼少時にはスイスに住んでおり、小学生時代はインターナショナルスクールへ通った。2014年放送の『アナザースカイ』(日本テレビ)でスイスのチューリッヒを訪れると、ドイツ語で食べ物を注文し、友人とは英語で会話していた。
それがまったく嫌味に見えない。むしろ自然だし、とてもスマートな印象を受ける。そうした言語能力が具体的に演技に活かされている例としては、2009年に榮倉奈々とW主演した『メイちゃんの執事』(フジテレビ)があげられると思う。
榮倉扮するヒロインが通うお嬢様学校で、専属の執事として仕えるのが水嶋だった。執事という役柄上、とにかく折り目正しくいなければならない。そこで彼のスマートな思考が役作りで発揮され、あれだけ無駄のない完璧な執事像が作られたのではないか。
我が道を行く松田翔太
現在38歳、水嶋よりひとつ年少である松田翔太は、高校は都内のインターナショナルスクールに通った。父・松田優作、あるいは大島渚監督の遺作『御法度』(1999年)でちょうど俳優デビューしていた兄・松田龍平の背中を追って、彼は何を思っていたのか。
その後、彼はロンドンの美術専門学校に2年間通う。多くのインターナショナルスクールで海外留学を目標にしているように、松田も正攻法でイギリスへ渡ったのだ。そして俳優デビューは、2005年の『ヤンキー母校に帰る〜旅立ちの時 不良少年の夢』。
水嶋同様に、ゼロ年代を駆け抜けたひとり。中でも『花より男子』(TBS、2005年)で演じた茶道家元の御曹司・西門総二郎役は地でいける役柄だった。父や兄とは違う我が道を行く松田だからこそ、極度に現実離れしたこの役をリアルに体現出来たのである。
宮沢氷魚は“最重要人物”

サンフランシスコ生まれ。幼稚園から高校までをインターナショナルスクールに通った宮沢は、帰国後に難関・国際基督教大学に編入した。彼の英語力は芸能界でも折り紙付き。発声、発音、ジェスチャー、振る舞い、どれを取ってもネイティブにしか見えない。
英語の達人である宮沢は、冒頭で説明したような思考法を演技に取り入れているように思う。
その役柄をどのように演じるのか。理想の演技像を考え、それに少しでも近づけるために、キャラクターとの対話を多角的に試みる。ディベート型演技の典型のように思う。
西欧文化を熟知する彼は日本を客観的に捉えている。同様に役柄に対しても、客観性を担保しながら俯瞰した眼差しを持っていられる。『エゴイスト』や『ドラフトキング』(WOWOW)など、2023年はすでに名演が多い宮沢が示す、演技の答えがあるのかもしれない。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu