『ブギウギ』(NHK総合、2023年)の次は『虎に翼』(NHK総合、午前8時放送)だ。岡部たかしが、朝ドラ2作連続で出演しているのだが、2024年4月28日放送の『情熱大陸』(MBS)を見れば、その勢いもうなずけた。



 同放送で興味深かったのが、息子・岡部ひろきの登場である。ちらっと写り込んだかと思ったら、番組後半までしっかり出ずっぱりだったのだ。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、岡部父子の「おもろい」関係性を読み解く。

「おもろい」岡部たかし

 連ドラでも朝ドラでも岡部たかしの姿をよく見るようになった。現在51歳。大ブレイクの日々を追った『情熱大陸』のカメラ密着取材。そのカメラ前の岡部が特に演技論めかすことなく、自然と口をついて何度もいうのが「おもろい」というワード。

 岡部の演技は確かに「おもろい」。ブレイクのきっかけとなった長澤まさみ主演ドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』(関西テレビ、フジテレビ、2022年)で演じた番組プロデューサー・村井喬一は会心のはまり役だった。最初は上からの命令には逆らわないが、下にはキツくあたる最低プロデューサーにしか見えなかったのに。

 劇的な展開がどんどん転がるうちに、実は憎めない、いい奴だったことがわかる。前半と後半でのこの演じ分けが秀逸だった。最終的にテレビマンとしての誇りを優先した村井の泥臭い生き様は、実は同作以外でも描かれていた。

底からあったかおじさんコンビ

 相葉雅紀主演の『和田家の男たち』(テレビ朝日、2021年)では、相葉扮する和田優の父・和田秀平(佐々木蔵之介)が報道番組の総合プロデューサーで、政界の闇に果敢に切り込むキャラクターとして描かれる。真相に迫った秀平のストッパーになるデスク・滝口剛役が岡部。

 これを流せば政界の大スキャンダルになるという証拠映像を上層部の許可なしに放送しようとした秀平を滝口が身をていして止める。俳優の体感温度をそのまま感じられるような岡部の熱演が視聴者の催涙剤となった。

 そんな岡部は、岩谷健司と演劇ユニット「切実」を組んでいる。岩谷もまたシャープだけど不思議と温かな演技が持ち味の俳優だ。演出家は置かない独自の体制。底からあったかおじさんコンビによるゆるやかな緊張感がいい。



さりげなく息子を紹介

 渋谷「ユーロライブ」で行われた公演。それまでカメラの前でおどけていた岡部が開演直前の楽屋では、いきなり無口になる。ベテランでも本番はしっかり緊張することをカメラの前で伝えてくれる。

 俳優のこういう姿には好感しかない。好感というと、稽古中に岡部と岩谷の芝居を側で見守る男性がもうひとり。カメラにちらっと写り込むと、岡部がすかさず「息子」と紹介する。

 いやいや岡部さん、さりげない(!)。父が息子を紹介することに余念がないのは当然のことだけれど、それがなぜかあからさまに見えない。むしろ自然な流れの中でさりげなく見えてしまう。

俳優父子の関係性



 劇団の制作でも担当しているのかと思ったら、息子・岡部ひろきもまた俳優。父に密着するのが『情熱大陸』のカメラだとしても変に構えることもない。そりゃ息子をプッシュするいい機会だよなと思うのだが、これがびっくりするくらいそういう雰囲気がない。

 あえていうなら、劇団の先輩後輩というか、同僚みたいな関係性に見える。関係性としては父と子だけれど、芝居について考える仲としては上下がまったくない。

 この俳優父子にもまた「おもろい」精神が垣間見える。番組内で印象的だったのは、山内ケンジ作・演出の舞台『萎れた花の弁明』で、岡部と息子・ひろきが作中でも父子を演じる稽古中の場面だ。



23歳で貫禄がある岡部ひろき



 息子が好きな同級生。実は父と交際していたとわかる場面。まぁそういうことなんだよとあっけらかんとする父に対して、息子が「かあ」という音を発する。

 これが感嘆の「かあ」なのかなんなのか、休憩時間に岡部父子と岩谷がああでもないこうでもないと話し合う。画面上に3人の姿は写らない。真っ暗な外。声だけによる演技談義が、徹底的におもろい。

 ほんと岡部父子が気心の知れた同僚にしか見えない。父からの助言という感じがない。ああいいじゃん。それくらいの空気感。父を爆笑させる「かあ」を最終的に絞り出した岡部ひろきは、現在23歳でこの貫禄と味わい深さだ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu