写真はイメージです(以下、同じ)世の中、表があれば裏もある。光があれば、影もある。

井上ゆきさん(仮名・40歳)の職場にいるアルバイトの大学生、由里子さん(仮名)は、就職が決まり、卒業までに旅行のお金を貯めようとアルバイトを掛け持ちしているのだそう。

「彼女はわたしの職場と掛け持ちで、夜の街、祇園でアルバイトしているそうなのですが、そこで聞く話がなかなか壮絶でビックリしてしまいます」

夜職一筋な環境に飛び込んだ大学生

由里子さんが働いているのは、スナック。

キャバクラなど時給が高くて厳しそうなところは少し怖いので、夜の仕事にしては時給が低めのところに恐る恐る入ったのだそう。

入店した店には、大学生スタッフはおらず、周りの女性はみんな夜の街の仕事を専門にして働いている人ばかり。

大学生が珍しいのか周りの人はみな優しくしてくれましたが、身の上話を聞いているといろんな事情がある人が多いのだと分かったそうです。

話を聞くと訳ありな人ばかり

「みんな穏やかでいい人なのだそうですが、話を聞いて驚きました。雇われの店長は、借金を背負って返済のために人質同然で働いているのだそう。ママはバツイチで食い口をさがして祇園にたどり着いたらしいんです」

そしてある日の深夜、出勤日でもないのにお店から電話がかかってきたそうです。何かと思えば店長からの電話。泣いているような声だったそうです。

「『今、偉いお客さんが来ていて、お店の女の子を全員呼べと言っているので、タクシー代を払うのでできればすぐに来てほしい』と言われたそうです。怖かったそうですが、穏やかな店長がただごとではない様子だったので、行ってみることにしたらしいのですが……」



正座してうつむく店長

祇園お店に入ると、店長が正座をしてうつむいています。その「偉いお客さん」とやらは、何やら酔っぱらって大声でわめきちらし、店長に罵詈雑言をぶつけていました。

なんだかわからないけど、一緒に謝ってほしいと言われた由里子さんは、店長を助けるためにわけもわからず謝ったのだとか。

お客さんはわめきちらしてお店のグラスをいくつか割ったりと大荒れ状態だったそうですが、しだいに落ち着き、数時間後に帰っていきました。

弱みを握られ、生きた心地がしない

事情がわからず、泣いている店長に聞いてみると、店長が借金しているのは、その人だったようなのです。弱みを握られてしまって、機嫌が悪いときに突然乗り込んできて今回のようないじめをするのだそうです。

呼び出して悪かったと言って、店長はその後朝までやっている焼肉に連れて行ってくれ、ごちそうしてくれたそうですが、由里子さんは複雑な思いで食事が進みませんでした。



ホストにどっぷりと浸かる先輩

champagne glasses standing in a tower at the partyまた、スタッフの中にはホストに入れあげている人もいたそうです。

ホストはお客さんに夢を見させる商売。

スタッフの女性は、そのホストと本気で恋愛していると信じ込んでいるようでした。お客さんが少ない日があると、お店に電話がかかってきて「仕事が終わったら飲みに来て」と言われると「お金ないんやけどなぁ、しゃーないか」と飲みに行くのだそう。

由里子さんも、ご馳走するからとそのホストがいる店に行こうと誘われたことがあり、一度だけ行ったことがあるようです。

「そのスタッフの女性は、自分の店の稼ぎを全てホストの売り上げにつぎ込んでいたそうなんです。さらにツケが溜まってお店に数百万も借りがあるそう。彼女がお店に入ると、たくさんの男性スタッフが群がってきて、彼女のボトルを一気飲み。もちろん彼女の支払いです。そのホストに『ありがとう、さすが〇ちゃんやわ』と言われて満足気だったようですが、あまりにすごい世界に鳥肌が立ったと言っていました」

飲み屋のバイトとは大違い

由里子さんは当初、水商売と言っても、飲み屋さんのアルバイトとあまり変わらないと思っていたそうですが、いろいろなものを見るにつれ「夜の街」というのはいろいろな事情がある人や、普段知らない世界が広がっているのだなと知ったそう。

これを聞いた井上さんは「みんな、いろいろあるんですね……と返しました。彼女は関東で就職が決まっているようで卒業と同時に水商売からも足を洗うそうですが、そのままズルズルと残ってしまう人も多いと話していました」

わたしたちが知らない夜の街の顔をのぞいた彼女は、少し大人びた顔になっていたようです。

みな目には見えずとも、それぞれいろいろな事情を抱えて生きているのかもしれませんね。

<文/塩辛いか乃 イラスト/魚田コットン>

【塩辛いか乃】
世の中の当たり前を疑うアラフィフ主婦ライター。同志社大学文学部英文学科卒。中3繊細マイペース息子と20歳年上の旦那と3人暮らし。乳がんサバイバー(乳房全摘手術・抗がん剤)。趣味はフラメンコ。ラクするための情熱は誰にも負けない効率モンスター。晩酌のお供はイオンのバーリアル。不眠症。note/Twitter:@yukaikayukako