『情熱大陸』(MBS、2024年4月28日放送回)で岡部たかしが俳優の息子をさりげなく紹介して話題になったが、また一組、愛すべき俳優父子を見つけた。



 中野英雄と仲野太賀である。知られてるようで意外と知られていなかった父子関係でもある。中野英雄によるInstagram投稿でそれが広く知られることになった。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、伝統芸のように伝承される中野父子を読み解く。

すごく自然な中野父子

 俳優の父親が俳優の息子のことをSNS上でつぶやく。純粋な気持ちでしれっとほめる。そういう関係がすごく自然でいいなと感じるのが、中野英雄(以下、英雄)と仲野太賀(以下、太賀)父子である。

 2024年5月17日、英雄がInstagramを更新。太賀が出演する朝ドラ『虎に翼』第7週第35回で、主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)と太賀扮する書生・佐田優三が結婚した写真に「最高だ!!」とコメントを添えて投稿した。

 これを受けてSNS上では、仲野太賀の父親が中野英雄であることを初めて知ったというコメントが多く見受けられた。なるほど、父から息子へのエールがあまりにも自然すぎて意外にもこの父子関係が知られていなかったのかもしれない。

演技と投稿をセットで愛でたい

 『最後の極道』DVD(株式会社オールイン エンタテインメント) とはいえ、息子へのエールは、もはや恒例行事化している。岡田将生主演のドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ、2016年)が放送されたときなんて、太賀が演じた激ヤバ新人の台詞を印象して父親目線で投稿(2016年4月18日)。

「褒められて伸びるタイプか…」というコメントは、同作放送中の宣伝活動ともとれるけど、それ以上にほんとうに息子のことが大好きな気持ちが溢れていて、太賀の演技と英雄の投稿をセットで愛でたくなる。

 哀川翔や小沢仁志らとともに、Vシネのヤクザ俳優を代表する父。息子とは演技のフィールドが違うが、だからこそ客観的でもあるし、単なる父からのエールをこえたコメントの風通しのよさみたいなものがあるんじゃないか。



見開く目が瓜二つ



 極めつけは、英雄が2024年4月22日にアップした投稿。「日本統一」シリーズ撮影中のオフショットを素材に若返りアプリを使う。若返った英雄の姿は、「アプリで若返りを押したら太賀になった」というキャプション通り、太賀と激的に似ている。

 別に若返らなくてもそっくりなのに、アプリ機能を使うとここまで瓜二つになる。見た目だけじゃなく、演技面でも似てるところがある。相手に対してパッと見開く、その目。

 代表すべきは、北野武監督によるサーガ「アウトレイジ」シリーズ。第1作『アウトレイジ』(2010年)で荒くれヤクザ・木村(中野英雄)が、北野扮する大友組組長に顔を切りつけられる場面がある。メンチを切る木村が我慢比べのように目の中央に力をチャージする。英雄屈指の名演。

独自に拡張させる仲野太賀

 同作ラスト、刑務所に入所した大友を待ち構えていた木村が、大友の横腹を一突き。特に目を血走らせるでも、見開くでもなく、刺したあと、ただ静かに佇む。静と動のダイナミックな振り幅を特徴とする北野作品ならではの演技である。

 このように英雄の演技は、内に濁流のような勢いがうずまくのに、それをやたらめったらアウトプットしない。目を見開く瞬間は、与太者の凄み満載だけれど、控えめといえば控えめ。

 そんな父の静かなるダイナミズムを踏襲しながらも、独自に拡張させるのが、仲野太賀である。彼もまた見開く目が圧倒的アピールポイントになる俳優なのだが、太賀の場合は、見開くどころか、カッと開くといったほうが表現が的確だろう。



親子二代にわたる伝統芸

 サントリー「-196℃ 瞬間凍結〈無糖レモン〉」TV-CMより ※サントリーのプレスリリース 太賀は、出演作で必ず目をカッと開く。黒目がちな瞳を白目ぎりぎりまで広げ、演じるキャラクターのエモーションとはまた別次元で驚嘆を表現している。何をそんなに驚く必要があるのかと思ってしまうくらい。

 近作だとCM作品だが、サントリーの「-196℃ 瞬間凍結 <無糖レモン>」で「ムトゥ」と連呼する、まんまる目の決め顔。多部未華子扮する塾講師が男女4人組で奇妙な共同体を形成する『いちばんすきな花』(フジテレビ、2023年)での男友達役や池松壮亮主演の『季節のない街』(ディズニープラス スター、2023年)でもエモーショナルなかっぴらき具合がいい。

 サントリー「-196℃ 瞬間凍結〈無糖レモン〉」TV-CMより ※サントリーのプレスリリース あるいは、文頭で紹介した『虎に翼』第4週第20回。寅子の父・猪爪直言(岡部たかし)が逮捕され、途方に暮れる寅子を優三が励ます。励ましたいのに、腹痛でお腹がギュルギュル。必死にこらえるが、吹き出す。その瞬間のかっぴらいた目の実に雄弁なこと。

 もはや顔芸の域ではあるものの、これが父・英雄の見開きを拡大、誇張したものと解釈すると、親子二代にわたる伝統芸というのか、名人芸の伝承の一例ともなるだろう。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu