第107回インディ500の決勝レースが5月28日(日本時間29日)に行なわれ、ジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)が制覇した。

 世界3大レースのひとつ、言わずとしれたインディ500。インディアナポリス・モータースピードウェイには多くのファンが詰めかけ、熱狂的な雰囲気が作り出された。

 サーキット上空は厚い雲が覆ったものの雨の確率は低い予報。事前の想定よりも涼しいコンディションとなった。

 ポールシッターは2021年のシリーズチャンピオンであるアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)。歴代最速を更新する4周平均234.217mph(約376.935km/h)という速さだった。チップ・ガナッシ勢は昨年と同様、プラクティスから速さを発揮。全4台がトップ12に食い込んだ。

 8番手となった佐藤琢磨もそのうちのひとり。レースに向けて最後の確認をするカーブデーでは最速タイムをマークし、3度目のインディ500制覇に向けて万全の態勢を整えた。

 各車のエンジンに火が入れられパレードラップを行なったが、予選落ちしながらもステファン・ウィルソンの代役として最後尾からのスタートが叶ったグラハム・レイホール(ドレイヤー&レインボールド)にまさかのトラブル。エンジンがかからず、ピットレーンにマシンが押し戻されてしまい、2周遅れでのスタートを余儀なくされた。

 各車が3列に並んだ大迫力のスタートで、200周のレースの火蓋が切られ、ポールのパロウは首位をキープ。3周目にはリナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター)がマシンの状態を確かめるように一度首位にでるが、すぐさまパロウが抜き返した。佐藤はスタート位置と同じ8番手でオープニングラップを終えた。

 レースを通じて、いかにマシンを戦える状態にアジャストしていくかが重要なインディ500。最初のスティントは各車様子見といった状況で、静かに周回を重ねていった。

 パロウとヴィーケイは何度かポジションを入れ替えながらレースをリード。佐藤はウィル・パワー(ペンスキー)に抜かれるも、チームメイトのスコット・ディクソンを交わして8番手に戻った。ディクソンのマシンには激しいバイブレーションが起きており、ズルズルとポジションを落としていった。

 燃料的には1スティント33周ほど走れるという中で、ディクソンは26周でたまらずピットイン。バイブレーションは収まったものの、これで大きく順位を落としてしまった。

 ただ他のマシンもタイヤの状況は楽ではないようで、30周前後で各車が続々とピットに飛び込んだ。佐藤も31周でピットイン。ウイングのアジャストはせず、10番手付近でレースを進めた。

 レースを引っ張るパロウの後ろで、ヴィーケイとフェリックス・ローゼンクヴィスト(アロー・マクラーレン)は燃料を節約。61周で2度目のピットに入ったパロウに対し、ヴィーケイは3周ピットストップを遅らせ、パロウをオーバーカットした。アンダーステアを訴えていた佐藤もヴィーケイと同じタイミングでピットへ。ウイングを少しアジャストし、10番手をキープした。

 コーションがないまま、レースは中盤に突入。第3スティントはマクラーレン勢が速さを見せ、ローゼンクヴィストとパトリシオ・オワードがワンツー体制。時折ポジションを入れ替えながらお互いを引っ張りあった。

 佐藤はラインを外してしまったか失速。10番手から17番手までポジションを落としてしまう。その直後の91周目、スティングレイ・ロブ(デイル・コイン)がクラッシュし、このレース最初のコーションが出された。

 95周目にピットレーンがオープンになると、リードラップのマシンがピットに雪崩込んだ。すると、ここでレース序盤からトップを争っていたパロウとヴィーケイにまさかのインシデントが発生。ヴィーケイが挙動を乱し、パロウの前を塞ぐような形となり、2台が接触してしまったのだ。パロウはこれでリードラップ最後尾まで後退、ヴィーケイもその後ドライブスルーペナルティで大きく順位を落とすことになった。

 ここで首位に立ったのは、コーションの直前にピットに入っていたカラム・アイロット(フンコス・ホリンガー)。ローゼンクヴィストとオワードがその後ろにつけた。佐藤はディクソンの後ろ17番手、パロウは26番手でリスタートに臨んだ。

 リスタートはハーフウェイを過ぎた101周目。ここで各車1段ギヤを上げたか、随所で激しいバトルが発生。佐藤は一時4ワイドとなるようなバトルをうまく切り抜け、3つポジションを上げた。

 レースは再び、マクラーレンのローゼンクヴィストとオワードが引っ張りあうスローペースな展開。隊列は僅差の数珠つなぎで、各車がレース終盤を見据えて燃料をセーブした。佐藤はその中でポジションを上げ、127周目には10番手までカムバックした。

 130周を過ぎた頃から、4度目のルーティーンのピット作業が始まっていく。ピットレーンでは、ロマン・グロージャンとコルトン・ハータ(共にアンドレッティ・オートスポーツ)の接触も起こるが、幸いどちらもレースを続行。ただ、この接触で、ハータにドライブスルーペナルティが出されている。

 ここまでレースを引っ張っていたマクラーレン勢に燃費走行の指示が飛び、ローゼンクヴィストは3番手、オワードは6番手に後退。代わって首位に立ったのは、昨年のインディ500覇者であるマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ)。それをニューガーデンが追った。

 チップ・ガナッシ勢は一時後退したパロウも9番手までカムバック。その後ろ10番手に佐藤、12番手にディクソンがつけた。

 残り50周になろうかというタイミングで、グロージャンが単独クラッシュを喫し2度目のイエローコーション。各車、最後のピットストップをするには早すぎるタイミングのコーションということもあって戦略が分かれたが、オワードや佐藤はピットレーンがオープンとなった153周目にピットイン。1回ピットストップが多くなるものの、プッシュして追い上げる攻めの戦略に出た。

 157周目にレースはリスタート。ニューガーデンとエリクソン、サンティノ・フェルッチ(A.J.フォイト)が首位を争う一方、後方では随所で接触しながらのバトルが展開された。佐藤はニュータイヤの利点を活かし、14番手から一気に10番手まで上がった。

 残り30周頃から、ステイアウト組最後のピット作業がスタート。佐藤はこのタイミングで首位を走り、このレース最初のラップリードを記録した。

 しかしその直後、佐藤はピットイン。上位で戻れる可能性もあったが、18番手まで後退してしまった。

 佐藤と同じ戦略だったオワードは実質3番手でコースに復帰すると、ローゼンクヴィストやエリクソンをあっという間に抜き去った。オワードの前には、まだラストピットを済ませていないマシンが3台いるという状態だ。

 その直後、戦慄の大クラッシュが発生した。184周目、ローゼンクヴィストがニューガーデンに抜かれた直後に挙動を乱してウォールにヒット。スピンしながらレーシングラインに戻ったローゼンクヴィストのマシンを避けきれず、カイル・カークウッド(アンドレッティ・オートスポーツ)が追突してしまったのだ。

 カークウッドのマシンはひっくり返ったが、エアロスクリーンが頭部を守ったこともあり、大きな怪我はなし。またカークウッドの左リヤタイヤはクラッシュの衝撃でちぎれ飛び、デブリキャッチフェンスを飛び越えてしまったが、幸い観客席のないエリアに飛んだため最悪の事態は免れた。

 これでレースは赤旗中断。各車がピットレーンに整列した後、残り14周で走行再開となった。コーションラップ中にステイアウトしていた3台も最後のピット作業を済ませ、オワードがリーダーボードでも首位に立った。

 残り9周でグリーンフラッグ。しかしオワードはスタートで遅れ、3番手まで下がってしまう。それでもエリクソンに食い下がったオワードはスピンしクラッシュ。後方ではシモン・パジェノー(メイヤー・シャンク)やアグスティン・カナピーノ(フンコス・ホリンガー)もクラッシュを喫し、再び赤旗中断となった。

 ニューガーデンを先頭に、残り4周でリスタート。しかしストレートでまたも多重クラッシュが発生、残り2周で3度目のレース中断となった。この時点で、首位はエリクソン。2番手にニューガーデンが続いた。佐藤は10番手だ。

 連覇の夢がかかるエリクソンは、ファイナルラップのリスタートをうまく決めてトップでターン2を抜けたが、バックストレートでスリップストリームに入ったニューガーデンが逆転。ニューガーデンはそのまま逃げ切り、トップチェッカーを受けた。

 2017年と2019年にチャンピオンに輝いたニューガーデンだが、これが嬉しいインディ500初制覇。一方でエリクソンはあと半周のところで、連覇の夢を逃すことになった。

 佐藤は集団の中でうまくポジションを上げられず苦しいレースを強いられたが、最後のリスタートでもポジションアップを果たし、7位でフィニッシュとなった。