パワートレインのハイブリッド化が決まりながらも、その導入が延期されていたインディカー・シリーズ。同シリーズは7月の第9戦ミッドオハイオからハイブリッドが取り入れられることを発表した。

 シボレー、ホンダ、インディカーの共同で開発してきたハイブリッド・ユニットは、現行の2.2リッターV6ツインターボエンジンに、出力特性に優れた蓄電デバイス『電気二重層キャパシタ(ウルトラキャパシタ)』を組み合わせたもの。2023年8月にテストが開始されて以来、28人のドライバーが計3万7000kmを超える距離を走破した。

 インディカーのジェイ・フライ代表は次のように述べた。

「シボレーとホンダのパートナーシップは未知であったが、そのパートナーシップの力強さが、この革新的なプロジェクトを2024年のグリッドで投入するに至った」

「インディカーに特化したハイブリッド・パワーユニットは、インディーカー・シリーズに追加のエネルギーとオーバーテイクの選択肢を与え、新しくエキサイティングな要素となるだろう」

「ミッドオハイオでこの新時代の幕開けを見るのが待ちきれない」

 今回投入されるハイブリッド・パワープラントは低電圧(48V)のモーター・ジェネレーター・ユニット(MGU)と、20個のウルトラキャパシタからなるエネルギー貯蔵システム(ESS)で構成されている。これらは内燃エンジンとギヤボックスの間にあるベルハウジング内に収まっている。そしてプッシュ・トゥ・パスも引き続き活用することで、ドライバーがパワーをよりコントロールできる形となり、コース上での競争を盛り上げると期待されている。

 回生時にはMGUが発電してESSにエネルギーを蓄える。追加の馬力はドライバーの要求に応じて同じMGUを通して出力される。回生に関しては、ブレーキやスロットル開度に応じた自動回生と、ステアリングホイールのパドルやボタンによる手動回生の選択肢が用意されている。

 蓄電されたエネルギーの解放は手動でのみ可能。これは現行のオーバーテイクシステムと同様にボタン操作で行なわれる。プレスリリースによると 「従来のプッシュ・トゥ・パスに加えてロードサーキットやストリートサーキットでも使用可能。しかしこのふたつのシステムには異なるルールが適用される」とのこと。さらに次のように記されている。

「プッシュ・トゥ・パスには1回の使用時間とレース中の合計使用時間に制限がある。ハイブリッドパワーユニットのルールに関しては、サーキットの長さに基づいて1周あたりに投入されるエネルギー量が制限されることになる」

「ロードサーキットやストリートサーキットで(プッシュ・トゥ・パスと)組み合わせて使用される場合、ブーストが追加されることで120馬力が追加され、合計800馬力以上となる。これは過去20年で初めてのことだ。ハイブリッド開発の進化に伴い、今後数年間でさらなる馬力が期待される」

 その他安全要素としては、システムが低電圧であること、ドライバーがスピンやエンジンストールをした時に自力でマシンを再始動させられる機能などがあり、不必要なコーションやセーフティチームの出動を防ぐことが期待される。

 ハイブリッドシステムの開発に携わったゼネラルモーターズ(GM)のモータースポーツ競技担当エグゼクティブ・ディレクター、エリック・ウォーレンは次のように語った。

「ハイブリッド技術の導入は、インディカー・シリーズに電動化テクノロジーを統合する機会を提供する」

「新技術の開発においては毎回、可能な限り多くの問題を特定するために、広範な分析とテストが行なわれた。テストデータを注意深く研究し、ハイブリッドが投入された時にその動作とパフォーマンスが予想通りであることを確認するというプロセスをとったインディカーの決断を、我々は支持する」

「このアプローチはインディカーとエンジンメーカーに、ハイレベルな競争を継続させる機会を与えている」

 GMと共に開発に携わったホンダ・レーシングUSA(HRC)のデビッド・ソルターズ社長も、次のようにコメントを寄せた。

「ハイブリッド技術は我々のレースプログラムでも、ホンダとアキュラの市販車部門でも、その役割がますます大きくなっている」

「2023年のホンダの総販売台数の4分の1以上、約30万台がハイブリッド車のホンダCR-Vとアコードだ。ミッドオハイオでインディカーに電動化を導入することで、我々のレース活動とホンダの市販車生産がさらに連携することになる。我々はオハイオ州中部で複数の製造・研究開発施設を運営しており、そこで13000人以上の従業員を雇用している」

「これは非常に興味深い新技術であり、我々HRCにもいくつかの課題をもたらした。我々は競合他社と共に、ハイブリッドシステムをインディカーのシャシーという非常に制約のある空間で作動させるのに十分なコンパクトさ、パワー、軽さ、信頼性を実現するために努力してきた」

「ウルトラキャパシタとシステムの制御ソフトウエアを開発した我々の仲間の仕事を誇りに思う。ハイブリッド技術が素晴らしいレースの光景に新たな一面を加え、ホンダとインディカーのレースファンを楽しませてくれることを楽しみにしている」

 インディカーは7月の正式導入に先駆け、6月11日にミルウォーキーでテストを実施予定だという。これまではバーバー・モータースポーツパーク、ホームステッド・マイアミ・スピードウェイ、インディアナポリス・モーター・スピードウェイなど多岐に渡るコースでハイブリッドシステムの実走テストが行なわれてきた。