その昔、相撲の立行司は懐に短刀を忍ばせ、軍配を差し違えた場合は自害する覚悟で土俵に上がっていたそうだ。力士や親方から一目置かれる者もいたという。

何事にも尊敬は必要だ。しかし、ついにあの男がやらかした。毅然とした態度でミスジャッジを繰り返してきたジョナサン・モスが、選手の心を傷つけた。2月9日のシェフィールド対ボーンマス戦で発したとされる言葉が大問題になっている。

「君たちはまだ降格圏にいるのだな」

ボーンマスを侮辱した。降格圏は事実だが、常識があれば口には出さない。ブラックジョークだとしても程度が低すぎる。ましてレフェリーは、選手を落ち着かせて試合をコントロールする技量も必要だ。モスの発言はボーンマスの怒りを買うだけで、人間の振る舞いとしても大きな疑問符が付く。

もともとモスはレフェリーに適していない。腰まわりがつねにダブつき、プレミアリーグのスピードについていく体型を維持できていなかった。30〜40メートル後方から、要するにプレーの詳細が見えてもないところから笛を吹くため、信頼度に著しく欠けるレフェリーのひとりでもあった。

しかし、なぜか仕事にあぶれない。今シーズンもすでに18試合の主審を務め、週末もアストンヴィラ対トッテナム戦のVAR担当にラインアップされている。ボーンマスに対する舌禍の証拠こそ出揃っていないものの、裁かれる側にすると「このオッサン、不愉快だ」となる。モスを取り巻く状況を踏まえ、せめて今節は担当から外れるべきだった。

Professional Game Match Officials Limited(マッチオフィシャル協会)は、本稿執筆時点で口をつぐんでいる。レフェリーの権限を守るためなのか、過去にミスジャッジに関する公式見解を発したケースはほぼないが、モスの一件が事実だとしたら、数か月の資格停止を含めた厳しい処分が求められる。注意程度ではボーンマス、さらに各クラブの監督や選手が納得しないだろう。

昨年2月、リヴァプールのユルゲン・クロップ監督はケビン・フレンドのジャッジに苦言を呈し、4万5000ポンド(630万円)の罰金が科されている。トッテナムを率いていた当時のマウリシオ・ポチェッティーノも判定を不服としてマイク・ディーンに激しく詰め寄り、2試合のベンチ入り禁止と1万ポンド(約140万円)の罰金。そして多くの選手が異議を申し立てただけでイエローカードを提示される。監督、選手は処分されるのだから、問題を起こしたレフェリーが無罪放免というわけにはいかない。

「レヴェル向上のための努力が必要だ」

UEFAもプレミアリーグのレフェリーに疑問を呈している。信頼度が高かったマイケル・オリヴァーでさえ、判断基準が近ごろブレはじめた。モスだけではなく、リー・メイソンのようにからだが緩い者もいる。アシスタント・レフェリーも不手際が目立つようになってきた。現状を放置してはいけない。

文:粕谷秀樹