現存する大会で最古の歴史を誇るリエージュ〜バストーニュ〜リエージュが、フランスに隣接するベルギー南部のワロン地域で4月21日に行われる。過去2年の覇者レムコ・エヴェネプールが怪我により欠場するが、激しい戦いを好む強豪選手が集結し、モニュメントと呼ばれる春の伝統大会最終戦で激突する。

第1回近代オリンピック・アテネ大会が開催される4年前、第1回ツール・ド・フランスの11年前、1892年に始まったのがリエージュ〜バストーニュ〜リエージュだ。現在まで継続開催される自転車レースの中では最も古い歴史を持つことで知られる。黎明期と2度の大戦による中断はあったものの、2024年で110回目の開催だ。

その歴史と同様にレース名も長いので、「LBL」と略されて記述されることもある。ニックネームはla doyenne(ドワイエンヌ=最古参)。laという女性名詞がついているので、英訳するとthe old lady、日本語にすればおばあちゃんとなる。最難関のステージをクイーンステージと呼ぶようにロードレースはなぜか女性形になる。英語で言うロードレースは、フランス語で「道路」という意味のla routeとなるが、おそらくこれが女性だからと推測できる。

コースは基本的にワロン地域の東側にある観光都市リエージュをスタートし、そこから南に100kmほど離れたバストーニュに向かう。選手たちはそこで折り返してリエージュに戻る。復路は点在する丘陵地を拾い集めるように進むので、総距離は250km前後になる。波状的に激坂がレイアウトされているのが特徴で、数あるクラシックレースの中でも、「最も美しく、そして最も厳しいレース」と言われている。

4日前の水曜日に開催されたフレーシュ・ワロンヌとともに「アルデンヌ週間」と呼ばれ、自転車が大好きな地元ベルギーのレース通が楽しみにしている。リエージュ〜バストーニュ〜リエージュはベルギーにとっては極めて重要なレースであり、2024年においてはフレーシュ・ワロンヌで3位に入ったマキシム・ファンヒルス(ロット・デスティニー)と同9位のティシュ・ベノート(ヴィスマ・リースアバイク)がエヴェネプールに代わる活躍を見せてくれると期待する。

ディフェンディングチャンピオン不在の大会で、最も注目されているのはビッグネームの2選手で、この点はベルギーファンも認めざるを得ない。アルペシン・ドゥクーニンクのマチュー・ファンデルプール(オランダ)とUAEチームエミレーツのタデイ・ポガチャル(スロベニア)がエントリーしてきたのだ。

シーズン序盤から桁外れの走りを見せつけてきた両選手だが、ポガチャルが短い調整に入ったので、あいまみえるのはミラノ〜サンレモ以来だ。

2020年に6位になっているファンデルプールはそれ以来となる2度目の参戦。ミラノ〜サンレモではチームメートのヤスペル・フィリプセンの勝利を支えて10位に沈んだが、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ〜ルーベと世界チャンピオンジャージを着て堂々たる連勝。モニュメントの優勝記録はこれで6勝となった。

ポガチャルは2021年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝者だ。今季はストラーデ・ビアンケを制したが、ミラノ〜サンレモはアタックが決まらず3位。しかしながら7日間のボルタ・ア・カタルーニャで区間4勝と総合優勝、ポイント賞、山岳賞を獲得。わずかなレストを入れて、その復帰戦となるのがリエージュ〜バストーニュ〜リエージュだ。このレースに勝てば2023イル・ロンバルディアに続くモニュメント制覇となり、記録はファンデルプールの6に並ぶ。

2週間前のパリ〜ルーベで、ファンデルプールは残り60km地点の石畳セクターでライバルたちを落とした。ポガチャルはシーズン初戦のストラーデ・ビアンケで80kmの独走を達成した。レース終盤のどの丘を2選手が勝負と見るかが最大の注目点だ。

アムステルゴールドレースとフレーシュ・ワロンヌでは、伝統レースに勝つのは必ずしも大本命ではないという点を痛感させた。アムステルゴールドレースではイネオス・グレナディアーズのトム・ピドコック、フレーシュ・ワロンヌはイスラエル・プレミアテックのスティーブン・ウィリアムズが勝った。どちらも英国選手として初めての栄冠をものにした。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュではこの2選手に加え、ジェイコ・アルウラーのサイモン・イェーツも加わるため、英国勢2連勝の可能性もある。

天候が極寒となればノルディックレーサーのチャンスが高まる。気温5度で横殴りの雨と雪にも見舞われたフレーシュ・ワロンヌを完走できたのは44選手だったが、このうちノルウェーとデンマーク人を合わせると11選手もいた。ウノエックスモビリティのトビアス・ヨハンネセン(フレーシュ・ワロンヌ6位)や2019年優勝者のヤコブ・フルサン(イスラエル・プレミアテック)などがダークホース。

フレーシュ・ワロンヌでトップテンに5選手、18位までに9選手を送り込んだフランス勢もシーズン序盤の栄冠を目指している。デカトロン・アージェードゥーゼールラモンディアルのブノワ・コスヌフロワはフレーシュ・ワロンヌ4位と調子がいい。

「リエージュ〜バストーニュ〜リエージュはアルデンヌのクラシックレースの中で、肉体的にも標高的にも最もタフなレースで。上りが最も長く、クライマーが有利になる。山岳で強さを見せるライバルと競い合うつもりで来た」とコスヌフロワ。

チームは高地トレーニングキャンプから戻ってきたオレリアン・パレパントル、フェリックス・ガル、クレマン・ベルテが新戦力としてチームに加わる。

「モニュメントでもあるこのレースでは、野心的に戦いたい。調子もいいし、チームもしっかりしている。パンチャーとしての走りをすればチャンスがあると思う」(コスヌフロワ)

フランス勢はアルケア・B&Bホテルズのケヴィン・ヴォークランがフレーシュ・ワロンヌで3秒遅れの2位。コフィディスのギヨーム・マルタンが10位で、引き続き好調を維持してスタートに立つ。

2023年に3位となっているバーレーン・ヴィクトリアスのサンティアゴ・ブイトラゴはコロンビア勢としての初勝利を目指す。フレーシュ・ワロンヌでは厳しい気象条件の中で5位。ワンデーレースの定着メンバーとしてなくてはならない新城幸也は、さすがにフレーシュ・ワロンヌの寒さにやられてリタイアしてしまったが、このリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでもブイトラゴ、そしてスペインのペリョ・ビルバオのアシスト役として起用された。

フレーシュ・ワロンヌとのダブルタイトルの可能性があるイスラエル・プレミアテックのスティーブン・ウィリアムズは、寒さにやられたディラン・トゥーンスとコンビを組む。

チームの多くはフレーシュ・ワロンヌ翌日には現地入り。木曜日の朝からレース終盤の勝負どころを試走したりしている。180.2km地点をピークとするコート・ド・ラ・オートルヴェから本格的な戦いがスタートすることを多くの関係者が想定。「狭い道と難しい上り坂があって、定型的なレースでは全くない」という分析が随所で聞かれる。特に残り13.3km地点、ラ・ロッシュ=オー=フォーコンの丘が最終的なウイニングポイントとなる。

文:山口和幸