「どなたもどうかお入りください。
決してご遠慮はありません」

入り口にこんな言葉が書かれていた店があったら、皆さんは中に入るだろうか。

宮沢賢治の童話「注文の多い料理店」を読んだことがあれば、ホイホイと無警戒に入店するような真似はしないだろう。

このフレーズは作中に登場する「西洋料理店 山猫軒」の入り口の戸に書かれているもの。

山奥に狩りをしに行った青年ふたりがお腹を空かせているところにこの店が現れ、彼らはとんでもなく恐ろしい体験をする、という話なのだが......。

都内某所で「山猫軒」にそっくりな店が発見され、ツイッターで話題となっている。

 (画像は青のヘルベチカ@blue_materialさん提供)

これが、その実際の写真。2021年9月24日、ツイッターユーザーの「青のヘルベチカ」(@blue_material)さんが投稿し、大きな注目を集めた。

写真を見ていると、店の入口のドアの頭上には金色に光る大きなネコの目。そして

「どなたもどうかお入りください。
決してご遠慮はありません」

と、あのフレーズが書かれている。

まさかこの先には扉がたくさんあって、牛乳のクリームを塗られたり、壺の中の塩を塗りこむように指示されたりと、色々な注文をつけられてしまうのだろうか?

そんな妄想をしてしまうが、もちろんそんなことはない。これは東京・神保町にある「文房堂」。西洋料理店......ではなく、1887年創業の老舗総合画材店だ。

なぜ「山猫軒」に?

この文房堂のディスプレイに対し、ツイッターでは

「山猫軒実在したのかw」
「食べられちゃう予感...」
「しっかり入り口で手指の消毒するのが怖くなるwww」
「アイデアが素敵」
「これは行ってみたい!!」

と幼少期を思い出して胸を躍らせたユーザーからの反応が多く寄せられている。

それにしても、どうして画材店が「注文の多い料理店」になっているのだろう。

28日、Jタウンネット記者が文房堂の広報担当者に同店の入り口について聞くと、

「実はこれ、10月1日から11月10日まで行われる『文学フェア』に向けてのものなんです」

と明かした。なるほど、だから宮沢賢治だったのか......。

発案者である売り場の担当者とスタッフ数名が22日から店頭で準備を進めていたそうで、

「1日にフェアが始まったら公式ツイッターでもお知らせをしようと内緒にしていたのですが、有難いことにそれより先に皆さんに見つけていただきました」

とのこと。

文学フェアに向けて...(画像は青のヘルベチカ@blue_materialさん提供、編集部で一部トリミング)

ディスプレイの文字はカッティングシート、猫の顔はスチレンボードという発泡スチロールを薄くしたようなもので作られている。画材を扱う同店では、このような製作に対する専門知識を持っているスタッフも多く、得意な分野を手分けして作っているとのことだ。

注文の多い料理店をモチーフにした理由は

ではなぜ、今回数ある文学の中から「注文の多い料理店」をモチーフに選んだのだろう。

「立案した売り場担当のスタッフによれば、もうすぐハロウィンなので、化け猫のイメージが合っていたからというのと、『どなたもどうかお入りください』というフレーズが『お店に入ってもらいたい』という思いとぴったりだったので選びました、とのことです」

と広報担当者は話す。確かに、ツイッターでは今回のディスプレイを「ハロウィン」に向けてのものではないかと推測する声も多く見られた。実際はフェアに向けてのものだったが、全くの無関係ではなかったようだ。

また、もう一つの理由として

「毎年秋に行われている『神保町ブックフェスティバル』が2年連続で中止になってしまったこともあり、このような大きくて派手なディスプレイを飾ることで町の人に元気になってもらったり、町全体を盛り上げることができれば、との思いもあったそうです」

と、地域への思いも語った。

さらに、こんな一言も聞かせてくれた。

「まだこれで完成ではないというウワサも聞いております」

なんと、これは見逃せない......。

記者と同じく、「注文の多い画材店」の完成が気になる方は文房堂の文学フェアに足を運んでみてはいかがだろうか。