神戸市北区大沢町の神戸モンキーズ劇場を運営する「二助企画」は、本社がある福岡県糸島市に、猿回しを引退した猿たちの「老猿施設」を置いている。猿は早ければ10歳になるまでに芸から引退するが、飼育下では30年ほど生きるとされる。「長い余生をゆったりと過ごしてほしかった」。同社社長の大窪直樹さん(55)は、施設を建てた理由を話す。(小西隆久)

■当初3頭、現在は30頭に

 同社は、山口県発祥の猿回しを復活させた「周防猿まわしの会」から独立した大窪さんが2005年5月に設立。同年8月、神戸に関西初の常設劇場を開いた。現在、13人の猿回しトレーナーと猿たちが全国各地を巡り興行する。

 「老猿施設」を建てたのは10年ごろ。「芸を頑張ってくれたお猿さんへの恩返しに」と本社近くに土地を購入し、高さ5メートル、幅8メートル、奥行き16メートルの巨大なおりを造った。定期的に床のもみを入れ替えたり、修繕したりと全社員で衛生管理にも気を配る。

 約2メートルの土壁を馬が駆け上がる三重県の「上げ馬神事」が「動物虐待」との批判を受けて改善するなど、伝統行事にも厳しい視線が注がれる昨今。同社も「猿にひもを付けてショーに出すのは虐待」と抗議を受けることがある。

 「人間と猿が信頼関係を結んで舞台を作っている。だからこそ余生のことも考えた」と大窪さん。猿の引退は年齢で決めるわけではない。大窪さんによると、10歳前後になると、荒々しさが目立つようになるといい、「どれだけ固い信頼関係で結ばれたパートナーでも別れは来る」。

 建設当初、入所した猿は3頭だったが、現在は30頭余りに増えた。施設の増築も検討中だが、大窪さんは「本来は業界全体の課題。横同士で関係を広げ、業界全体として取り組めるようにしたい」と訴える。