胡錫進氏のツイートに韓国が反応

 「もし、韓国が隣国に敵対的な道へ進むのなら、その道の終わりはウクライナになるかもしれない」

 中国の官営メディア環球時報の元編集長・胡錫進氏が、5月5日にツイッターに英文でこのように書き込んだ。

 韓国が北大西洋条約機構(NATO)のサイバー防衛センターに加入したことに反発したもの。つまり、韓国が中国に敵対的な政策を取るなら、ウクライナと同じように軍事攻撃を受けることになるというのだ。

 2016年に韓国が終末高高度防衛(THAAD)ミサイルを配備した際にも、当時は胡氏が編集長をしていた環球時報が、

 「キムチばかり食べて頭おかしくなったのか」「韓国は寺や教会が多いのだからその中で祈っていろ」

 などと、侮辱的な言葉を並べた社説を掲載している。それを忘れていない韓国人も多いだろう。そんな胡氏の発言だけに韓国の各メディアも敏感に反応して報道した。

 また、旭日旗排除キャンペーンで有名な徐敬徳(ソ・ギョンドク)誠信女子大教授ら著名人が続々と反論を寄せて、大きな波紋を呼んでいるようだ。

属国支配で植えつけられた恐怖

 胡氏は官営メディアの元編集長という肩書はあるが、中国政府の要人ではない。建前上は1個人のジャーナリストである。

 その発言に韓国でこれほど大きな反響が起こるのは、やはり潜在的な“中国恐怖症”。それによる過剰反応だろうか。

 日本でも近年の中国による海洋進出に大きな懸念を持っているが、韓国の警戒感はその比ではない。なにしろ、幾度も痛い目に遭わされているだけに…。

 近代に至ってからでも、中国の清王朝は朝鮮半島を属国として扱い干渉してきた。

 1882年に朝鮮人兵士による壬午軍乱が勃発すると、漢城府(ソウル)に駐留する清軍3000人が中心となってこれを鎮圧。国父として権力を掌握する大院君を北京に拉致し、朝鮮半島の支配を強化した。また、その2年後に起こった改革派クーデターにも軍事介入してこれを潰している。

 中国の意向を無視すれば、軍事介入による血の惨劇が起こる。長きにわたる属国支配で、その恐怖が染みついているのかもしれない。

 日清戦争後の朝鮮半島は、中国の属国支配を離れて日本の勢力圏に取り込まれた。しかし、太平洋戦争後に日本からの独立を果たした直後、再び惨劇は起こった。

中国軍兵士がソウルを制圧

 1950年10月19日、中国は中国人民志願軍を派遣して朝鮮戦争に参戦。

 この時、連合国軍は中朝国境の鴨緑江まで進撃し、韓国による祖国統一は間近と思われていた。

 が、約120万人を投入した中国軍の人海戦術で、状況は一変する。韓国軍の軍団は壊滅的被害を受けて後退、ソウルも再び占領されてしまった。

 その後、連合国軍は現在の38度線付近まで中国軍を押し戻し、戦いは膠(こう)着状態に。1953年7月には休戦協定が成立し、現在の「国境」ができあがる。

 中国軍の介入で祖国統一の夢は砕かれた。また、住民を巻き込んでの地上戦である。そこで残虐行為が発生することは避けられない。

 兵站線が伸び切った中国軍は食糧も不足していたという。そうなれば、兵士による略奪行為が発生するのは避けられない。

 ウクライナに侵攻したロシア軍のような行為が、中国軍兵士によって行われたことが容易に想像できる。

 まだ存命中の証言者も多いだろう。日韓併合期や太平洋戦争よりも、よほど生々しい記憶として韓国人の脳裏に刻まれているはずだ。

 それだけに、当事者である中国からの「ウクライナのようになるかもしれない」という発言には、韓国人にとってかなりのインパクトがあっただろう。


青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中