ライダイハンとは?

 ベトナム戦争では韓国人兵士による強姦事件が頻発した。

 また、韓国軍はサイゴン(現在のホーチミン)などに慰安所を設置し、現地人女性の慰安婦に兵士の性接待をさせている。望まぬ妊娠をしてしまった女性も少なくなかった。このようにして生まれた混血児をベトナムでは「ライダイハン」と呼ぶ。

 他にも、現地人女性と結婚した韓国人兵士や派遣労働者には、戦争終結後に妻子を放置して帰国した者が多い。それの子らもまたライダイハンにカウントされる。

 その数については「3000人」「2万人」「3万人」など諸説ある。

 当事国が見てみぬふりで、調査されることなく長年にわたり放置されてきた問題なだけに、今となっては正確な数を知ることは不可能だ。

 近年までの韓国では、この問題に対する一般国民の関心は薄かった。

 被害国であるベトナムも正式に謝罪や賠償を要求しておらず。ましてや、無関係な日本や欧米諸国では、ライダイハンの存在を知る人はほとんどいなかった。

 それが最近になって急に、ライダイハンに関するニュースが増えてきた。世界がこの問題の存在を認識するようになってきたという。

 「ベトナム戦争集結から半世紀近くが過ぎた今になって、今さらなぜに?」。

ライダイハン像設置の黒幕は中国か!?

 きっかけの1つとして考えられるのが、2020年3月に放送された英国放送協会(BBC)の報道。

 ベトナム戦争で韓国軍が犯した性犯罪について特集した番組で、英国人にもこの問題に関心を持つ者が増えたという。欧米社会でライダイハンの存在が認識されるようになる。

 また、2019年には英国の民間団体「ライダイハンのための正義」が、ロンドンの中心地ウェストミンスターの公園内に「ライダイハンの像」を設置している。

 これが、BBCに特集番組を放送させる引き金になっていたのかもしれない。

 関係のない他国の公園に、過去の戦争犯罪を糾弾する銅像を設置する…。なんだか、どこかで聞いたような話でもあるのだが。

 銅像を設置したライダイハンのための正義のメンバーや協力者には、中国政府と関係の深い人物が多いという指摘もあり、

 「中国が黒幕なのでは?」

 と、よく言われている。

 この団体が設立されたのは2017年9月、その前年には、在韓米軍が終末高高度防衛(THAAD)ミサイルの配備を決定している。中国がTHAADミサイル配備に猛反発し、韓国に恫喝を繰り返していたのは周知の事実。

 団体設立の時期からして、中国の意に逆らった韓国に対する意趣返しとも思える。

“人権”派の文大統領は沈黙のまま退陣

 英国にライダイハン像が設置された同年には、慰安婦問題などで活動している韓国の「正義記憶連帯(正義連)」が、韓国政府に問題解決のため積極的に動くよう要請。韓国内の他の人権団体も政府の消極姿勢を糾弾するようになる。

 これらの団体も、北朝鮮や中国との関係がうわさされることも多いのだが。まあ、正体はどうあれ、外国にライダイハン像が設置されたことで、韓国内での議論も盛んになったことは間違いない。

 また、ベトナムでも動きが出てくる。

 2019年には、ライダイハンの代表者が、国連人権理事会に韓国人の父親と親子関係を調べるDNA鑑定調査を求めている。

 騒ぎは大きくなった。が、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、この問題に関しては沈黙を貫いたまま退陣している。

 日本軍慰安婦や徴用工問題では、あれほど“人権”にこだわってきた元大統領の態度とは思えないのだが…。

退役軍人の圧力が謝罪を難しくしている?

 韓国では、2000年にハンギョレ新聞が発行する雑誌『ハンギョレ21』がベトナム戦争時の韓国軍による虐殺問題を報じたことがある。

 この時は、韓国退役軍人2400人が新聞社を囲んで抗議デモを起こし、一部の者が社内になだれ込んで暴力をふるい施設を破壊した。

 退役軍人を敵に回すと恐ろしい。

 ベトナム戦争における戦争犯罪は、彼らが最も触れて欲しくない部分。それだけに、韓国政府や政治家たちも、その扱いには細心の注意を払わねばならない。

 また、保守政権にとって退役軍人の団体は、頼りによる集票マシーンでもあり、なおのことこれを敵には回したくない。

 今後は国の内外で、韓国政府にライダイハン問題の解決を求める圧力は強まるだろう。

 文政権を引き継いだ尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、難しい舵(かじ)取りを強いられることになろう。


青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社)、近著『明治維新の収支決算報告』(彩図社、2022年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。