金与正氏の演説が初めて公開

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記の実妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長が8月10日、平壌で行われた全国非常防疫総和会議で演説を行った。朝鮮中央テレビなどの北朝鮮メディアが、詳細を報じている。

 演説する与正氏の肉声が公開されるのは、今回が初めて。

 会議では、正恩氏が対コロナ勝利宣言を行った一方、与正氏は、韓国から新型コロナウイルスが流入したと非難を展開した。

 そのほか、正恩氏が防疫戦の中で「高熱で苦しんだ」ことを明かすなど、与正氏の演説に注目が集まっている。

3か月ぶりのコロナゼロに正恩氏が勝利宣言

 北朝鮮は7月29日以降、新型コロナによる新規の発熱患者が発生していないとしている。

 感染者数の急減に対して国外からは懐疑的な見方もあるが、公式発表では3か月ぶりにコロナゼロの国となったのだ。

 そのため、正恩氏の演説は、「コロナを根絶した」と勝利宣言を行い、防疫戦の成果を祝うものとなった。

 これとは対照的に、与正氏は厳しい口調での演説となり、大半が韓国非難であった。

 「今回の防疫闘争は、単なる悪性ウイルスとの戦いではなく、敵との実際の戦争だった」と語り、韓国との対立を強調している。

新型コロナは韓国から流入と主張

 まず、与正氏は、新型コロナウイルスは、韓国の脱北者団体が風船を使って散布した体制批判ビラなどの“ごみ”が媒介となって北朝鮮に流入したと主張。

 南北軍事境界線に近い地域が、新型コロナ感染者の初期発生地であることから、韓国を疑うことは当然だと指摘。

 物に付着したウイルスによって人に感染することは、世界保健機関(WHO)も認めているもので、韓国から新型コロナが流入したとする推論は「科学的」なものだと主張している。

 新型コロナが韓国から流入したとする主張は、7月1日からなされているものだ。

金与正氏「ウイルスだけでなく南朝鮮当局も撲滅」

 北朝鮮は長年、対北批判ビラの散布は南北合意に違反しているとして、韓国政府に対応を求めてきた。

 にもかかわらず、韓国政府が市民団体のビラ散布を放置したせいで、ウイルスが付着したビラなどが入ってきて、感染拡大が起こったというのが、与正氏の主張だ。

 さらに、与正氏は、韓国への「強力な報復」を検討していると明かす。

 「敵が共和国にウイルスを流入しかねない危険な行為を続けるなら、我々は、ウイルスはもちろん、南朝鮮当局の連中も撲滅する」と宣言した。

 今まで文書でのみ公表されていた与正氏の韓国非難が、ついに肉声で行われたことは、南北関係にとって重大な出来事となった。

金正恩氏の健康状態に異例の言及

 さらに、与正氏は正恩氏の体調にも言及。

 新型コロナ感染拡大期に、正恩氏は「高熱で苦しんだ」ものの人民への思いから休養を拒んだと語った。

 映像では、これを聞いた参加者らが涙ぐむ場面が映し出された。

 発熱が新型コロナ感染によるものかは言及しなかった。別の病気やストレスによる発熱の可能性もあり、詳細は不明だ。

 5月以降、正恩氏の動静が1週間以上途切れたのは、5月1日から12日、5月29日から6月8日、7月8日から27日の3回。

 この期間のどこかで、正恩氏が新型コロナに感染、発症していた可能性がある。

 いずれにしても、最高機密とも言える最高指導者の健康状態への言及は、極めて異例である。

 正恩氏の指導力を強調する狙いがあったと考えられるが、最高指導者の健康状態に言及した与正氏の特別な立ち位置が浮き彫りになった形だ。


八島 有佑