葬儀の席順に高い関心

 「尹大統領夫妻が英女王葬儀に参列、バイデン米大統領と同じく14列目」

 とは、朝鮮中央日報日本語版が、エリザベス女王の国葬を報じた記事のタイトル。

 他の韓国紙も、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の席順に触れたものがやたらと多い。それだけ韓国民の関心事なのだろう。

 国際会議などの記念撮影でも、韓国では大統領の立ち位置が大きな話題になる。

 主要20か国・地域(G20)では、最前列中央にホスト国と米大統領が立つのが恒例だが、どれだけそこに近い場所にいたのか。そこに固執する。

 2018年のG20首脳会議では、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が撮影会場に現れず、彼が不在のまま記念撮影が行われた。

 単なる連絡の不手際だった。が、「文大統領が無視された」と韓国世論は沸騰。

 これも政権支持率を低下させる要因の1つになったというから、たかが席順と侮ることはできない。

席順の批判は免れたが…

 エリザベス女王の国葬における席順については、親族である英国王室の面々が棺に最も近い最前列。

 続いて「親族」にあたる英国連邦加盟諸国の代表、さらに、各国の国王、各国の大統領、各国の首相・外相という順番になる。また、同じ国王や大統領ならば任期の長いほうが先に並んだ。

 日本の天皇夫妻は6列目。国際会議の記念撮影では、日本の首相と自国大統領の立ち位置で一喜一憂するのも韓国の常だが、今回は伝統を誇る英国王室の慣習にのっとり、すでに決まっていたことだ。

 そこは韓国民も理解していたのだろう。尹大統領の席順を明記していた各紙も、日本の後塵(こうじん)を拝したことに文句をつけることはなかった。

 さて、席順に関しては事なきを得たようだが、こういった国際的舞台になると、韓国民やマスコミは大統領の一挙一投足に注目する。

 少しでも気を抜くと、対立陣営に格好の攻撃材料を与えてしまうことになりかねない。

 たとえば、女王の葬儀に参列した各国首脳の多くは、英国到着早々に棺を安置したウエストミンスター寺院を弔問している。

 が、尹大統領夫妻は、そこに姿を見せなかった。飛行機の到着が遅れ交通渋滞もありで断念したという。

 しかし、「他の首脳たちは歩いてウェストミンスター寺院に行ったぞ。渋滞で車が動かないのなら、お前らも歩け!」

 などと、SNSでは大統領夫妻を非難する書き込みが目につく。

文在寅前大統領は“ぼっち”で赤っ恥

 一方では、尹大統領が英国滞在中に多くの首脳と会談して外交で活躍したことも伝えられた。

 これも朝鮮中央日報日本語版の記事だが、「大統領夫妻に、世界首脳と貴賓の韓国訪問要請が殺到した」と、ある。

 大統領夫妻はブータン国王夫妻、ブルネイ国王、ニュージーランド首相、モンゴル首相、パキスタン首相らと歓談。K-POPや韓国文化の話題で盛り上がったという。

 文在寅前大統領がG20やアジア太平洋経済協力会議(APEC)に出席した時には、他の首脳から話しかけられることなく、所在なさげに1人立ち尽くす写真や動画がネットに出回った。

 「ぼっち」「嫌われ者」「外交的惨事」などと揶揄(やゆ)されている。

 尹大統領もそれを警戒して“ぼっち”にならぬよう、積極的に各国首脳に話しかけていたのかもしれない。

 しかし、厳粛な葬儀の場であまりやり過ぎると、これも外交的惨事になりそう…。

 近年の韓国では、「世界の一流国家」という意識が過剰になって、国際的な舞台ではそれにふさわしい立ち振舞いが求められる。

 国民の過剰な自意識を満足させることができねば、政権支持率にも響く。

 厳しい視線にさらされる尹大統領の喪服の裏は、冷や汗でぐっしょりと湿っていたのかもしれない。


青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社)、近著『明治維新の収支決算報告』(彩図社、2022年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。