2021年3月17日、韓国の自動車メーカー・ヒュンダイは新型「スターリア」を発表しました。アジア圏ではトヨタの高級ミニバン「アルファード」がすでにひとり勝ち状態ですが、今後スターリアと競合する可能性はあるのでしょうか。

突如として舞い降りた「近未来ミニバン」

 韓国の自動車メーカー・ヒュンダイから新型「スターリア」が発表されました。
 
 海外メーカーでは珍しいミニバンスタイルのモデルですが、なかでも高級仕様の「スターリア プレミアム」が目を引きます。なぜ、ヒュンダイは高級ミニバンをアピールしているのでしょうか。

 2021年3月17日、新型スターリアについていくつかの情報が公開されました。スターリアは、同社のミニバンである「スタレックス」の後継にあたるモデルですが、初公開されたエクステリアおよびインテリアデザインは、過去のモデルとは一線を画する独特のものであり、SNSなどで話題を呼んでいるようです。

 いわゆる「ミニバン」に分類されるスターリアですが、そもそもミニバンというボディタイプは海外では日本ほどポピュラーではありません。

 欧州などでは「MPV(マルチ・パーパス・ビークル)」や「ピープル・ムーバー」などと呼ばれることからもわかるように、人や荷物を乗せたりするような、どちらかというと商用車に近い位置づけであり、トヨタ「アルファード/ヴェルファイア」や日産「セレナ」、ホンダ「フリード」などのように個人利用も念頭に置かれたモデルは少ないのが現状です。

 一方、アジア圏を中心に、トヨタ「アルファード」やレクサス「LM300」などの高級ミニバンが人気を博しているなど、そうした個人向けの高級ミニバン需要は決して低くはないともいわれています。

 今回登場したスターリアは、もともとは三菱「デリカ」をデザインベースとしたMPVである「スタレックス」を前身としています。

 スタレックスは、乗用車としてはもちろん、商用車や、救急車など特殊車両のベースとしても利用されるなど、日本におけるトヨタ「ハイエース」のような位置づけ。

 日本をのぞくアジア・オセアニア地域や欧州で主に販売されており、コストパフォーマンスに優れたMPVとして人気を誇っていました。

 一方、今回発表されたスターリアは、一見するとスタレックスの後継とは思えないほど前衛的なデザインを採用しています。

 スタレックスをはじめとする実用性が重視されるMPVは、どちらかというと先進性や快適性とは無縁になりがちですが、スターリアはむしろそれらを強調しています。

 エクステリアデザインは、フロントからリアまでほとんど段差のないシームレスなスタリングとなっており、まるで宇宙船のような近未来感が醸し出されています。

 さらに、フロントマスクには真一文字に横断しているLEDのデイタイムランニングライトや大きく開いたフロントグリルが目を引き、その姿はまるで映画「ロボコップ」を彷彿とさせます。

 リアエンドは比較的シンプルなボックススタイルですが、ブロックパターンのLEDリアコンビネーションランプが神秘的な輝きを放っているのが特徴です。

 インテリアも、これまでのような商用車らしさは見られません。スターリアには、商用車や特殊車両のベースとなる2人乗り仕様から送迎用途などが想定された11人乗り仕様まで多くのバリエーションが設定される見込みですが、それに加えて上級仕様の「スターリア プレミアム」が設定されます。

 スターリア プレミアムは、2列目に豪華なキャプテンシートが用意されるなど、ぜいたくな室内空間を実現。

 スタレックスにも上級仕様が一部地域では販売されるなどしていましたが、スターリア プレミアムはそれとは一線を画す高級感が演出されています。

 また、運転席を見ると、センターコンソールに用意された大型ディスプレイが目を引きます。速度計などが表示されるメーターパネルもディスプレイ化されているなど、商用車に見られる質素さはまったくありません。

 具体的な価格や登場時期はまだ公表されていないスターリアですが、現在判明している情報だけ見ても単なるスタレックスの後継車でないことは一目瞭然です。

「アルファードひとり勝ち」の高級ミニバン市場になぐりこみ?

 スターリアには、さまざまなバリエーションがラインナップされるため、想定されるターゲットも多岐にわたります。しかし、そのなかでもやはり注目されるのは、豪華仕様のスターリア プレミアムが設定されたことです。

 その背景にあると考えられるのは、やはりまず中国を中心としたアジア市場でしょう。

 2000年代以降に伸長してきたこれらの新興国市場は、欧米とも異なる価値観を持っています。

 その一例として、「ウチ(内/家)」の文化を持つ中国では、走る・曲がる・止まるといったクルマの基本性能と同等以上に、室内空間の広さを求める傾向があるといわれています。

 その証拠に、中国で販売されるドイツ系高級セダンなどは、「Cクラス」や「3シリーズ」などであっても、そのほとんどにロングホイールベース仕様を設定。

 そして、当然のことではありますが、より大きな室内空間を求めると、ミニバンが最適解となります。

 一方、欧米メーカーでは高級ミニバンというカテゴリーが、日本やアジアほどメジャーではありません。

 実際に、日本で販売されている高級ミニバンを見ても、アルファード以外では日産「エルグランド」やホンダ「オデッセイ」などの国産車の選択肢はありますが、輸入車ではメルセデス・ベンツの「Vクラス」といった程度です。

 欧米の場合、「多人数乗車×プレミアム」というカテゴリーは、高級SUVがそのニーズを担っており、その傾向はアジアを含む全世界へも波及していますが、高級ミニバンに関しては国産メーカーが圧倒的なシェアを持っているといえます。

 日本では2009年以来乗用車市場から撤退しているヒュンダイですが、近年ではグローバルでの販売台数を順調に伸ばしており、コストパフォーマンスに優れたクルマとしての地位を得ています。

 かつてコストパフォーマンスの良いクルマといえば、日本メーカーのお家芸でしたが、ここ10年のヒュンダイの基本戦略は、コストパフォーマンスが良く、かつデザインの良いクルマを積極的なマーケティングとともに販売することでした。

 そして、いくつかの地域では日本メーカーをしのぐ販売台数を稼ぐほどに成長しています。

 つまり、ヒュンダイはスターリア プレミアムによって、アルファードにほぼ独占されているアジアの高級ミニバン市場において、真っ向勝負を挑むものと考えられるのです。

 アルファードが比較的「正統派」のプレミアム感を打ち出しているのに対し、スターリア プレミアムは「先進性」という新しい魅力をアピールしているのも、そうした背景からといえるかもしれません。

 また、おそらく近い将来に、スターリアシリーズに、ハイブリッド(HV)やプラグインハイブリッド(PHEV)、そして電気自動車(EV)といった、電動化された派生モデルも登場すると想定され、もしEVの高級ミニバンが登場すると、現時点ではほぼ唯一無二の存在となります。

 もちろん、高級SUVなどに比べれば高級ミニバンは非常にニッチな市場であり、巨額の開発費をまかなえるほどの販売台数が稼げるのかは定かではありません。

 しかし、スターリア自体は商用ニーズを含めた多くのバリエーションをもつモデルのため、ある程度の販売を見込めることは間違いありません。ここがヒュンダイのうまいところといえるでしょう。

※ ※ ※

 現時点では、限られた情報しか公開されていないスターリアおよびスターリア プレミアムですが、ヒュンダイは2021年前半に予定するデジタルワールドプレミアで正式にデビューさせるとアナウンス。

 日本市場に導入される可能性は現時点では低いと見られますが、一方でヒュンダイは日本市場復帰に向けて着々と準備を進めているという噂もあります。

「アルファード一人勝ち」ともいえる日本の高級ミニバン市場ですが、もしかしたら近い将来にスターリア プレミアムが台風の目となる日が来るかもしれません。