かつて30年以上前では、「家のクルマはセダン」ということが定番でした。しかし、現在では軽自動車、コンパクトカー、ミニバン、SUVと多様なラインナップが定番となっています。なかでもSUVの勢いは目まぐるしくなっています。では、今後セダン人気が復活するには何が必要なのでしょうか。

「ふつうのクルマ」はセダンからSUVに?

 SUV全盛の昨今、セダンが絶滅の危機に瀕しています。かつてはクルマの基本形とされたセダンですが、なぜSUVに取って代わられてしまったのでしょうか。また、セダン復権には何が必要なのでしょうか。

 日本がモータリゼーションを迎えた1960年代、クルマの基本形はセダンでした。

 というより、トラックなどの商用車をのぞけば、セダンおよびセダンをベースとしたクーペなど以外のクルマがほとんどないといって良いほどです。

 しかし、現代ではセダンが下火になってしまいました。2020年度の新車販売台数ランキングを見ても、純粋にセダンだけのモデルでベスト50にランクインしているのは、32位のトヨタ「クラウン」と45位のトヨタ「カムリ」のみです。

 販売台数の低下は、同時にモデルそのものの減少へとつながります。2017年度の同じランキングでは、前述のクラウンとカムリ以外に、トヨタ「マークX」や「プレミオ」、ホンダ「グレイス」がランクインしていましたが、現在ではいずれも絶版となっています。

 セダンに代わって台頭しているのがSUVです。2020年度の新車販売台数ランキングでも、ベスト50に約20台のSUVおよびラインナップにSUVを含むモデルがランクインしています。

 近年トレンドとなっているSUVのほとんどは、正確にいえば「クロスオーバーSUV」と呼ばれる乗用車をベースにしたものです。

 トヨタ「ランドクルーザー」に代表されるような本格的なクロスカントリービークルは、ラダーフレームと呼ばれる強固な骨格を持っていることから、堅牢性を持ち、悪路走破性能に長けている反面、乗り心地や燃費面で不利であり、また価格も高くなりやすいという側面があります。

 一方、クロスオーバーSUVはあくまで乗用車をベースにしているため、乗り心地や燃費、そして価格面で同車格のセダンなどとそう変わらないレベルを維持することが可能です。

 また、車体が大きい分、多人数乗車仕様を設定でき、なおかつデザイン性も持たせることができるなど、メリットは少なくありません。

 もちろん、本格的なクロスカントリービークルのような悪路走破性能はありませんが、ほとんどの人が日常生活で悪路を走ることがないため、大きなデメリットにはならないようです。

 クロスオーバーSUVが台頭した背景には、中国や中東諸国に代表される新興国市場の勃興があります。

 1990年代後半から2000年代前半にかけて、世界経済のなかで中東諸国が大きな注目を集めました。それに同調するように、中国や東南アジアの経済も大きく成長をはじめます。

 所得レベルが向上した新興国の人々はクルマを手にするようになります。しかし、所得向上のペースが、インフラが整備されるスピードを上回る勢いだったために、都市部以外は未舗装路を走ることが多く、従来のセダンでは実用面で不安がありました。

 また、自動車メーカー側も、日欧米といった既存市場とは異なる感性をもった消費者たちに対して、新しいクルマを開発する必要がありました。

 既存のクルマをベースにしているクロスオーバーSUVは、比較的簡単に新型車を開発することができるため、自動車メーカー側にとっても大きなメリットがあったのです。

 もちろん、過去にも乗用車ベースのSUVと呼べるクルマは局所的に存在していました。

 しかし、このようにしてはじまった世界的なクロスオーバーSUVブームは、やがて日欧米といった既存市場にもそのメリットが伝わり、2010年代以降の自動車業界におけるトレンドとなっていくのです。

 昔は子どもがクルマの絵を描くとき、かつてはボンネットとトランク、そしてキャビンがそれぞれ独立している3ボックススタイルのクルマ、つまりセダンを描くことが多かったように思います。

 しかし、SUV全盛の昨今を見ると、もしかしたら車高が高く、トランクを持たないSUVのようなクルマを描くかもしれません。

セダンの復活に必要なのは…何?

 では、今後セダンが復活するには何が必要なのでしょうか。

 筆者(瓜生洋明)の結論をいえば、おそらく近い将来、セダンはいまよりもラインナップが縮小されてしまうと考えます。

 自動車業界の大きな潮流である電動化の流れのなかでは、バッテリーなどを搭載するスペースを確保しやすいSUVとの相性が良いと考えられるためです。

 もちろん、ファストバックと呼ばれるセダンに近いボディタイプを含めれば、すべてのクルマがSUVやミニバンになってしまう可能性は低いと思われますが、少なくとも現在よりもラインナップが拡充されるとは考えにくいでしょう。

 一方、かくいう筆者は国産セダンを愛用しています。もともとはSUVを目当てにディーラーに足を運びましたが、セダンのスタイリングとドライブフィールの良さから、半ば一目惚れでそのクルマを購入したという経緯があります。

 一個人の意見といえばそれまでですが、ここにセダン復活の鍵があるように思います。

 正直なところ、居住性や積載性など、日常生活で求められる使い勝手は、多くの場合SUVのほうが優れています。

 近年ではSUVのほうが選択肢も多いため、さまざまなニーズに対応できるのも魅力です。

 つまり、駐車場の高さに制限があるといった理由がない限り、SUVのなかから選んでおくほうがユーザーにとってはメリットが多いといえます。

 では、セダンを積極的に選ぶ理由はどこにあるのでしょうか。

 流麗なスタイリングや、フォーマル性、そして全高が低いことによるスポーティなドライブフィールなど、セダンのメリットを挙げることはできますが、突き詰めて考えれば「好きだから」といった理由以外にはないのではないでしょうか。

 繰り返しになりますが、日常生活で求められる機能面では多くの場合SUVに分があります。だからこそ、セダンは感性に訴えかける必要があると考えます。

 思えば、2018年に登場した現行クラウンも、TVCMなどでは「ニュルブルクリンクで磨いた走り」といったように感性に訴えかけていました。

 そのほか、国内外の多くのセダンがスポーティさ、あるいは高級感といった感性的な側面をアピールしています。

 つまり、「ふつうのクルマ」としてのセダンは、すでにほぼ皆無だといえます。

 筆者自身もそうであるように、セダンユーザーの多くは、クルマに「単なる移動のための道具」といった以上の意味を感じているのかもしれません。

 逆にいえば、それこそがセダンにとってもっとも重要なことなのではないでしょうか。

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 2020年の11月、次期クラウンがクロスオーバー化(SUV化)するという報道が話題になりました。

 国産セダンの代表格ともいえる歴史ある名車でさえ、ボディタイプを多様化しなければ生き残れないという厳しい現実が垣間見えた瞬間でした。

 クラウンSUV化の真偽は定かではありませんが、決してありえない話ではないと考えます。

 時代の流れといえばそれまでですが、その一方で、クルマを「単なる移動のための道具」と思わない人がいる限り、セダンは生き残ると筆者は考えています。