トヨタは、カーボンニュートラルの実現を目指してさまざまな方法を模索しています。巷では、電気自動車(EV)ありきの電動化が注目されていますが、トヨタは水素を活用した取り組みを進めています。そのなかで、日本未導入の新型「ハイエース(300系)」をFCV化したキッチンカーが開発されました。

世界に1台のトヨタ新型「ハイエースFCV」とは

 トヨタを代表する商用バンといえば「ハイエース」が有名です。2021年現在、日本市場でラインナップされているのは通称200系といわれるモデルですが、海外市場では300系といわれる新型ハイエースも存在します。

 そうしたなかで、トヨタは日本のナンバーを取得した世界で1台の燃料電池車(FCV)仕様の新型ハイエース(300系)を開発しました。

 ハイエースは1967年に初代を発売して以降、世界約150か国で累計624万台以上が販売されているトヨタの代表的なグローバルカーのひとつです。

 長年、高い耐久性と信頼性を強みにして、バンやミニバス、プライベートの移動手段として活用されており、海外では主にアジア、中東、アフリカ、オセアニア、メキシコ、中南米地域で販売されています。

 日本市場では、2004年に現行ハイエース(200系)が登場。現在では、仕事などに用いられるプロユースだけではなく、キャンピングカーやカスタマイズのベース、釣りやアウトドア専用仕様など多岐にわたった使われ方をしています。

 実際にキャンピングカー市場において、「バンコン」といわれるジャンルの大半は現行ハイエースをベースにして販売されるなど、その人気は留まることを知りません。

 しかし、2021年時点で現行ハイエースは17年目を迎えるロングモデルとなり、新型ハイエースの登場を期待する声も少なくありません。

 そうしたなかで、トヨタは2019年2月18日にフィリピンにて新型ハイエースを発表。

 この際、トヨタは海外向けに開発した新型ハイエースについて、次のように説明していました。

「昨今、自動車市場が拡大し続ける新興国・地域においては、物流に加えて、観光用ミニバス、乗合バス等の乗客輸送の需要が拡大しています。

 新型ハイエースは、このような多様なニーズに柔軟にお応えするために開発されました。

 今回のフィリピンでの発売以降、新興国を中心とした国・地域に順次投入していきます」

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 この新型ハイエースは、働くクルマとして、物流のみならず、送迎、観光、乗合バスなどの乗客の輸送を重視し、「バン」「コミューター」「ツーリズム」の3タイプを設定。

 新型専用プラットフォームの採用とセミボンネット化により、基本性能や快適性を大幅に向上させるとともに、優れた安全性を実現しました。

 そうしたなかで、トヨタがこの新型ハイエースをベースに開発した世界で1台のモデルが新型「ハイエース FCV キッチンカー(仮)」(以下、新型ハイエースFCV)です。

 ベースとなったのは、オーストラリア仕様(右ハンドル)の新型ハイエースで、ボディサイズは全長5915mm×全幅1950mm×全高2280mmとなる6m近いモデルです。

 パワートレインは、ベース車では2.6リッターディーゼルエンジンを搭載しています。

 しかし、新型ハイエースFCVでは2020年に発売された2代目「ミライ」のFCユニットと水素タンク2本を搭載したことで、航続距離は約400kmを実現(トヨタ測定値)。

 さらに、ミライと同じく一般家庭で約4日間分の電気を使用出来るといいます。

 そのような、ミライの特徴を活かした新型ハイエースFCVでは、荷室部分をキッチンカーに架装しています。

 新型ハイエースFCVの使用目的について、トヨタの開発担当者は次のように説明しています。

「豪州仕向けのハイエースに店舗並みの調理家電を備えたキッチンカーに改造しました。

 なお、日本でナンバーを取得するために後方視界を確保するカメラとモニターを新たに追加するなどの法規適合もおこなっています

 使用例として、平時ではイベントや展示会などで、災害時には被災された人々に温冷フードを提供するなどを考えています」

 今回、新型ハイエースFCVの架装に関しては、ハイエースベースのキャンピングカーを得意とするトイファクトリーが専用に開発しました。

 荷室部分の専用装備として、IHクッキングヒーター×5、家電(電子レンジ、炊飯器、冷蔵庫&冷凍庫)、シンク×3、AC系給電機能(定格出力:3kW、100V×2口+200V×3口〈200Vは外部給電機能使用時〉)、DC系給電機能(定格出力:9kW)などを搭載しています。

 これらの装備に関して、トイファクトリーの担当者は「これまで200系ハイエースは手掛けてきましたが、300系は初めて触るため手探りでした。さらに、200系とは内装構造も異なるので、専用に各部品を設計するなど細かな部分まで仕上げています」と説明しています。

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 世界に1台の新型ハイエースFCVは、2021年3月5日に福島県浪江町で、FC技術(システム)の特徴である高い発電性能を活かしたFCV活用の一環として公開されて以降、スーパー耐久に参戦するROOKIE Racingチームのサポートとして、環境に配慮した飲食の提供などで展開されています。

新型ハイエースやFCVは発売する? 将来に期待大の今後の行方は?

 トヨタが新たに開発したハイエースFCVは、2021年6月時点でナンバー取得済みの試作車が1台あるのみですが、どのような経緯で開発され、今後の展開はどのような予定なのでしょうか。

 前述の2019年にフィリピンでおこなわれた新型ハイエース(300系)の発表時にトヨタは、「市場環境が異なる日本においては、従来モデルのハイエースを継続していきます」と説明していました。

 そうしたなかで、新型ハイエースFCVが開発された背景について、前出の開発担当者は次のように説明しています。

「FC技術(システム)の特徴である高い発電性能を活かしたFCEVの活用の一環としてFCが作る電気を通じて、『お客さまのお役に立て貢献できることがないか、』考えて製作しました。

 キッチンカーに関しては、どのような場所でも環境面に配慮して温かいご飯が食べられるという部分で、災害時などの面も含めて計画されました。

 今後はさまざまな機会で、色々な人々に使っていただき、ご意見を伺いながら、今後の開発に活かしていきたいと思っています。

 また、商品化については、今のところ予定はありませんが、今後の評価を踏まえて検討していきます」

 一方で、前出のトイファクトリーの藤井昭文社長は、次のように話しています。

「これまで多くの200系ハイエースをベースしたキャンピングカーを製作してきました。

 今回、トヨタからお声掛けをいただき300系ハイエース(FCV)のキッチンカーを製作することになり、キャンピングカー業界の今後が見えました。

 現在のキッチンカーはガソリン/ディーゼルとなり、別途発電機や外部からの給電で電気を使っていました。

 このような場合、電気を使用するにはエンジンや発電機の騒音や排気ガスが課題となっていたほか、使用できる電気の量にも制限があるなど課題は多くありました。

 しかし、今回のハイエースFCVの場合では、IHやレンジ、炊飯器などを同時に使えるうえに、騒音・排気ガスも出ません。

 そうしたこともあり、キャンピングカーとFCVの相性は非常に良いともいえることから、早い段階で商品化されることを期待しています」

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 今回、開発されたFCV仕様は新型ハイエース以外に「グランエース」をベースとした「移動式オフィス」や、「コースター」ベースの「平常時及び災害時に利活用できるFC医療車」など全4種類が存在しています。

 トヨタは、さまざまな分野でFCVの実用性を確認するとともに、カーボンニュートラルの実現を目指しており、水素社会の実現に向けて全力で展開しているようです。