大径ホイールに交換する「インチアップ」は手軽なカスタムのひとつでもありますが、見た目のカッコ良さを追求しすぎると性能や乗り心地を犠牲にしてしまうことがあります。どのような点に注意したらよいのでしょうか。

ボディの大型化が大きく影響? 大径ホイール採用が増えたワケ

 ひと昔前までは17インチや18インチは高性能スポーツモデルの証で、18インチ以上のホイール&タイヤは「大径ホイール」というカスタム手法のひとつでしたが、最近では大径化されたホイール&タイヤを標準装着するクルマが増えているようです。

たとえば、スズキ「スイフトスポーツ」は17インチ、トヨタ「GRヤリス」は18インチ、トヨタ「ハリアー」に至っては19インチを搭載するモデルまであります。

 さらに、2021年秋にデビューするレクサス新型「NX」には20インチを装着するモデルも登場予定と、純正で大径ホイール装着も当たり前の時代になりました。

 なぜ大径ホイールを装着することにメリットはあるのでしょうか。

 その理由は、年々大型化するクルマのボディと関係があるようです。

 タイヤの外径は負荷能力と比例関係にあり、大きくて重いクルマはホイールやタイヤもそれに見合ったサイズに大型化する必要があります。

 また大きくなったクルマに見合う制動力を確保するために、ブレーキローターの径なども大きくすることが必要になります。つまり、サイズに合わせて足元も大型化が必要ということです。

 ちなみに、日本が誇るスポーツカーである日産「GT-R」も20インチを履いていますが、ホイールサイズが大きく太くなるほどタイヤの接地面積が増え、パワーを路面に伝えやすくなります。

 また外周自体が大きくなると高速巡航でのタイヤの回転数も減り、燃費が良くなるともいわれていますが、大きくなることで重量も増えるので、市街地走行など低速のストップ&ゴーでは燃費が悪化するなど相反する面もあります。

 しかも昨今のクルマはタイヤ性能への依存度も増しているということもあり、やみくもに「インチアップ」したホイール&タイヤに交換すれば良いというものでもないようです。

 ちなみにインチアップとは、標準タイヤの外周を変えずにホイールのみ大きくすることです。

 ホイールのサイズを大きくさせるためには、扁平率(タイヤの厚み)が低い(薄い)タイヤを履いて標準の外周サイズに近づける必要があります。

 ホイール&タイヤの交換は、人間でいえば靴を履き替えるようなものです。スポーツ用シューズとタウン用スニーカーで、履き心地も運動への適性も変わってくるのと一緒で、スポーティなデザインのホイールに履き替えるだけでクルマの印象は大きく変わりますし、グリップ力の高いタイヤに履き替えれば走行性能の向上も狙えます。

 インチアップによってタイヤのたわみが減り、つまりそれだけタイヤの「ヨレ」が小さくなり剛性が上がるということでハンドリングのレスポンスも向上。同じクルマでもより俊敏にステアリング操作に反応するようになります。

 ただし、タイヤを履き替えたことによる性能差を体感するにはサーキットなどでスポーツ走行しても分かりにくい部分もあり、多くの人がインチアップしたホイール&タイヤに交換するのは、やはり見た目がスタイリッシュになる「ドレスアップ効果」を狙ったものが主流でしょう。

燃費と乗り心地の悪化の可能性も インチアップの注意点とは

 インチアップするメリットは多く、何よりルックスも良くなるので満足度も高いカスタム手法だといえます。

 ただ、メリットばかりでないのがカスタムの難しいところ。インチアップにはデメリットもあるため、正しいサイズのホイール&タイヤを選んでも必ずしも自分が求めた方向性にいかないケースもあります。

 埼玉県にあるタイヤショップのスタッフ I氏に話を聞いてみました。

 I氏によると、インチアップ自体はメリットも多く、好みに合わせてタイヤの性能を上げることもできるのでおすすめする一方、やはりデメリットも考慮しなくてはいけないそうです。

「インチアップによって偏平率が下がると、タイヤのたわみが減る分、乗り心地が硬くなり、それまでは柔らかく乗り越えていた段差をガツンと感じるようになることもあります。

 また、インチアップのときにタイヤの幅も少し太くする人が多いのですが、接地面が増えるため路面の凹凸を拾いやすくなり、轍にハンドルが取られやすくなることもあります」

 同じクルマでも17インチが標準で、オプションで18インチ装着車がある場合、乗り心地的には17インチのほうが柔らかく感じるケースが多いようです。

「偏平率が下がるほど、タイヤのたわみを利用した衝撃吸収性は低くなります。サスペンションへの負荷は増えることになりますので、中古車の場合は、劣化したダンパーやサスへの負担を減らす意味でも偏平率の高いタイヤのほうが乗り心地もクルマに対しても優しいといえます」(タイヤショップのスタッフ I氏)

 またインチアップすることで意外に気になるのが、タイヤとホイールハウスとの隙間です。

 ホイールが大きくなりタイヤが薄くなることで、それまでは黒いタイヤで隠れていたホイールハウス内が見えるようになります。そうなると、インチアップでカッコ良くなったはずなのに、足元がスカスカしているような錯覚に陥ることも。

「タイヤとホイールアーチとのクリアランスが目立つようになってしまうのもデメリットのひとつかもしれません。そのまま乗っても問題ありませんが、クリアランスの幅を狭めるためにはローダウンサスなどで車高自体を調整する必要があります」(タイヤショップのスタッフ I氏)

 そしてインチアップで避けて通れないのが燃費の悪化です。タイヤが大きくなって接地面が増えるほど、そのぶん抵抗も増えているということになります。

「どうしても摩擦抵抗が高くなってしまうので、燃費が悪化してしまうケースが多いようです。エコカーの標準タイヤに細めのものを採用しているのも、転がり抵抗を減らすためでしょう」(タイヤショップのスタッフ I氏)

 また、偏平率を下げたタイヤは、標準装着タイヤより空気圧を高めにする必要があります。

 さらに「ロードインデックス」と呼ばれるタイヤの最大負荷能力を示す指数も標準より高いものを選ばないと、負荷によってタイヤの損傷を早めてしまうといいます。

「あとは、インチアップしたホイールとタイヤがフェンダー内にしっかり収まっているのかもチェックが必要です。大径ホイールで見た目は格好良くなっても、ハンドルが十分に切れにくくなると運転にも支障が出てしまいます。

 ただ闇雲にインチアップすればいいというわけではなく、走行性能を高めたいのか、乗り心地を重視したいのか、ドレスアップ効果をどれくらい狙いたいのかによって、サイズやホイールデザインを選ぶといいと思います。分からないことは専門店のスタッフなどに相談してみていただければと思います」(タイヤショップのスタッフ I氏)

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 ホイール&タイヤの交換はすぐに効果が実感できるし、見た目にも大きく影響する手軽にできるカスタムですが、適正サイズ以上に大きくしたり太くすると、せっかくのクルマのポテンシャルを発揮できなくなる可能性があります。

 ただ、「乗り心地や燃費を犠牲にしてもルックスにこだわりたい!」というのも立派なカーライフ。

 ただ見た目にこだわるなら、我慢も必要になるということを理解したうえで、カスタムを楽しみましょう。