かつてチューニングカーといえばプライベーターやショップによって製作されるのが通例でしたが、今では自動車メーカーがつくるコンプリートカーも一般的になりました。そこで、コンパクトカーベースの過激なコンプリートカーを、3車種ピックアップして紹介します。

メーカー謹製の過激なコンプリートカーを振り返る

 クルマを自分好みにカスタマイズしたり、より性能を向上させるチューニングは、日本でもすっかり定着しました。

 かつてはチューニングというとショップ単位やオーナー自身がおこなうプライベーターが主流でしたが、今では自動車メーカー自らが仕立てるコンプリートカーも珍しくありません。

 メーカーがつくるコンプリートカーは品質や信頼性が高く、安心して乗れるという大きなメリットがありますが、なかにはかなり大胆にカスタマイズされたモデルも存在。

 そこで、コンパクトカーベースの過激なコンプリートカーを、3車種ピックアップして紹介します。

●トヨタ「ヴィッツ GRMN」

 トヨタを代表するコンパクトカーの「ヴィッツ」は、1999年に誕生しました。そして、2020年2月に、4代目ヴィッツに相当する「ヤリス」が登場。

 さらに2020年9月には、トヨタがWRCで培った技術をフィードバックした「GRヤリス」が発売されました。1.6リッターから272馬力を発揮するターボエンジンに、駆動トルク可変型のフルタイム4WDシステムが組み合わされた、生粋のスポーツカーです。

 このGRヤリス以前にも、2018年に限定150台が販売されたヴィッツのチューニングカー「ヴィッツ GRMN」が存在。

 ボディは欧州仕様のヴィッツ(ヤリス)の3ドアハッチバックをベースとし、外観は専用のバンパーやサイドステップ、リアスポイラーが装着されて、よりスポーティなフォルムへと変貌。

 搭載されたエンジンは1.8リッター直列4気筒スーパーチャージャーで、最高出力212馬力を誇り、トランスミッションは6速MTのみです。

 このパワーに見合うようにシャシもチューニングされ、強化サスペンションに補強によるボディの剛性アップ、フロント対向4ポッドブレーキキャリパーなどが奢られています。

 ヴィッツ GRMNの生産はフランスでおこなわれ、日本に輸入された後、最終的に仕上げられてユーザーに納車されました。

 当時の新車価格は400万円(消費税8%込)と、ヴィッツとしてはかなり高額でしたが、チューニングの内容を考えると妥当な価格といえるでしょう。

●日産「マーチボレロ A30」

 かつて、日産「マーチ」には初代をベースとした「マーチR」や「スーパーターボ」という、今では伝説的な高性能モデルがありました。

 そうしたモデルとは趣きが異なりますが、大胆に手が入れられたコンプリートカーが存在。それが、2016年9月に限定30台で発売された「マーチボレロ A30」です。

 マーチボレロ A30は、オーテックジャパンの創立30周年を記念して開発されたモデルで、車名のとおりベースとなったのはクラシカルな外観のマーチボレロと、チューニングカーとしては異色な存在でした。

 しかし、ボディは90mm拡大されたトレッドにあわせて、大きく張り出した前後フェンダーを採用。全幅はベース車の1665mmに対して1810mmと145mm拡幅されており、迫力あるフォルムはマーチとは完全に別モノです。

 内装もレカロ製シート、専用レザーハンドル、240km/hスケールのスピードメーターなどを装備してスポーティに演出。

 エンジンは「ノート NISMO S」に搭載された1.6リッター直列4気筒の「HR16DE型」をベースに、専用のクランクシャフト、コンロッド、カムシャフトなどを組み込み、さらに手加工によるポート研磨が施されるなど、メカチューンによって最高出力150馬力を誇り、トランスミッションは5速MTのみです。

 シャシは各部にブレースを追加して剛性アップが図られ、専用の強化サスペンション、フロントブレーキの大径化とリアブレーキをディスク化されるなど、旋回性能の向上が図られています。

 当時、マーチボレロ A30の新車価格は356万4000円(消費税8%込)と、ベースのマーチボレロの2倍以上という高額な設定でしたが、限定30台はあっという間に完売しました。

●アバルト「695ビポスト」

 モータースポーツでの活躍とフィアット車のチューナーとして名を馳せたアバルトは、今ではフィアットの高性能ブランドとして展開されています。

 これまで数多くのチューニングモデルを展開してきたアバルトですが、とくに主力となっているのがフィアット「500」をベースにしたシリーズで、その究極のモデルとして2015年に発売されたのが、アバルト「695 BIPOSTO(ビポスト)」です。

 695シリーズはこれまで何度か限定車として発売されていますが、695ビポストはスペック、仕様ともに、他のモデルとは一線を画する存在といえます。

 まず、ビポストはイタリア語で「ふたつのシート」を意味し、文字どおり軽量化のためリアシートを撤去して2シーター化。

 エンジンは、最高出力190馬力を誇る1.4リッター直列4気筒ターボで、シリーズ最高峰の出力を発揮します。

 さらに695 ビポストには標準仕様とフルスペック仕様の2種類が設定され、フルスペック仕様はサーキット走行を前提したモデルで、一般的にはレース用のトランスミッションである「ドグリングトランスミッション」(ドグミッションとも呼称)が搭載されました。

 足まわりでは車高調整式でサブタンク付きのショックアブソーバー、フロントブレーキはブレンボ製4ポッドキャリパー、OZレーシング製18インチアルミホイールを採用。

 ほかにもフルスペック仕様では、データロガーにサベルト製4点式シートベルトの搭載と、さらなる軽量化のためサイドウインドウをプラスチックの固定式に変更し、アルミ製ボンネットやチタン製ホイールボルトの採用やエアコンを撤去するなど、普段使いを考えていないストイックなモデルとなっています。

 当時の新車価格(消費税8%込)はフルスペック仕様が845万6400円、標準仕様は599万4000円と、500をベースにしたアバルト車のなかでも、もっとも高額です。

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 今回紹介した3車種のようなコンプリートカーは、チューニングショップでも製作は可能でしょう。しかし、市販化できるほどの品質と信頼性を確保できるのは、メーカーならではといえます。

 メーカーがつくるコンプリートカーでも、これほど大胆にモディファイできるようになったのは、チューニングカーという文化が定着した証でもあります。