トヨタの新型「ランドクルーザー」が日本で発売されましたが、これまでの国産車ではあまり例の無い「誓約書」の記入が購入時に求められるといいます。なぜ、新型ランドクルーザーの購入時に誓約書が必要となるのでしょうか。

新型「ランクル」ならではの特殊な事情とは

 2021年8月2日、トヨタ「ランドクルーザー」は14年ぶりのフルモデルチェンジを果たしました。
 
 数多くあるトヨタのラインナップのなかでも、独特の立ち位置にいるランドクルーザーですが、販売現場でもほかのクルマと異なり特別な姿勢がとられているようです。

 新型ランドクルーザーは、2021年7月上旬より受注を開始していましたが、想定を超える受注があり、同月中旬には受注を停止するといった措置がとられていました。

 8月2日現在、受注は再開しているようですが、都内販売店の営業担当は「納期は最低でも1年、それ以上は未定」という状態といいます。

 ただ、スズキ「ジムニー」などの例もあるように、国産車でもさまざまな事情により納期が1年以上となることは、決して珍しいことではありません。

 むしろ、新型ランドクルーザーの販売における特殊な点は、契約時に「輸出防止事前チェックシート」の提出が求められる点です。

 通常、新車の契約時には、「新車注文書」や「重要事項確認書」といった書面への押印が求められます。

 また、納期が1年を超えるような可能性のあるクルマの場合は、納車までの間に、自動車関係の税制が変更され、総支払金額が変わる可能性があることを了承する旨の誓約書が求められる場合もあります。

 しかし、この「輸出防止事前チェックシート」に関しては、新型ランドクルーザー特有のものです。

 前出の都内販売店の担当者によれば、その内容は「一般の人にはほとんど問題にならない内容」と話します。

 具体的には、「車両登録後1年間の輸出や転売をおこなわない」、「古物営業法や車庫法に違反しない」、「販売店側の判断により、注文をキャンセルする場合がある」といった内容であり、「これらの内容に反した場合、今後取引をおこなわない可能性もある」といったことも記載されているようです。

「出禁」の可能性もあるなど、かなり厳しい内容にも思えますが、自身の愛車として購入し使用する分には、まず問題ないでしょう。

 では、なぜこのような販売姿勢がとられているのでしょうか。

 これには、大きくわけてふたつの事情があります。もっとも大きな理由は、国連安全保障理事会が定めているテロ資金供与防止条約や、外国為替及び外国貿易法(外為法)による、テロリスト対策です。

 多くの日本人には無縁に思える話ですが、世界の一部地域では紛争が絶えず、テロリストによる活動が盛んにおこなわれています。

 ランドクルーザーは、そのタフさ故に、そうしたテロリストたちの道具として使われてしまう恐れがあります。

 テロ資金供与防止条約や外為法では、テロリストと知りながら資金や物資の提供をおこなうことを固く禁じています。

 今回の「輸出防止事前チェックシート」には、購入者がテロリストの関係者でないことを確認するという意味合いが強いといえます。

 ただ、多くの一般市民には、もうひとつの理由のほうが身近に思えるかもしれません。

 それは、この「輸出防止事前チェックシート」がいわゆる転売の防止の意味合いも含んでいるためです。

 今後、需要の見込まれる商品を大量に買い占め、相場価格を釣り上げたうえで販売する人は通称「転売ヤー」などと呼ばれ、しばしば問題になっています。

 新型ランドクルーザーのように、1年以上の納期が見込まれるようなクルマもまた、そうした転売ヤーにとっては注目の的となっている可能性はあるのです。

 転売ヤーによって、メーカーの想定とは異なる需要が発生すると、生産状況や、あるいは中古車市場にも影響が出てしまい、さらには適正価格で購入できなかったユーザーの不満がたまるといった問題が考えられます。

 そこで、新型ランドクルーザーについては、「車両登録後1年以内の転売はおこなわない」、「古物営業法や車庫法に違反しない」といった条項を盛り込んだ「輸出防止事前チェックシート」に押印させることで、転売ヤーに対してけん制しているといえます。

「誓約書」の提出に問題はある?

 繰り返しになりますが、ほとんどの一般ユーザーにとって、「輸出防止事前チェックシート」の内容はほとんど問題にならないでしょう。

 しかし、例えば、自身で使用するために購入をしたが、新型コロナ禍による経済状況の悪化で維持が難しくなり、購入後半年で売却せざるを得なくなった場合などは、どうなるのでしょうか。

 地方の販売店の担当者によれば、「『輸出防止事前チェックシート』の内容にある通り、今後お取り引きをお断りせざるを得ない可能性もありますが、やむを得ない事情の場合は販売店に相談してほしい」とし、柔軟な対応がとられることを示唆しています。

 前出の都内の営業担当も「実際には、購入後の動向は販売店側では把握しきれない」と話すように、販売店ができることには限りもあるようです

 さらに、都内の営業担当は次のように続けます。

「現金で購入された場合、所有権がお客さまになりますので、法律に反しない限りはどのように扱われても販売店側は関与できません。

 ただ、社会問題となっている『転売』に対する対策のひとつとしてわれわれができる限りのことをしている、という意味合いが強いのが実際のところです」

 販売店の担当者の歯切れが悪いのには、ある理由があります。

 それは、転売そのものは違法ではないという点です。社会問題として取り上げられることの多い転売や転売ヤーですが、購入したもの(=所有権を持っているもの)を、誰にどのような価格で売ったとしても、それ自体は基本的には違法ではありません。

 違法となるのは、テロリストや暴力団関係者への利益供与につながる場合や、酒などの販売許可を要するものを無許可で販売した場合、そして、古物営業法や関連法規に反した場合などです。

 つまり、正規の手続きに則って購入・売却することは、法律上はまったく問題ないのです。

 転売を規制する声も多い昨今ですが、転売そのものを規制してしまうと、自由経済が侵害され、それはそれでメーカーやユーザーが不利益をこうむってしまうことになります。

 一方、メーカーとしても転売に頭を悩ませているのも事実です。そこで、あくまで「輸出防止事前チェックシート」という名目で、転売ヤーをけん制しているといえます。

 転売そのものを規制することはできませんが、転売ヤーに「今後取引をおこなわない」とする姿勢は、メーカーとして最大限の転売対策といえるでしょう。