日産が福島で「モビリティ×エネルギー×まちづくり」を軸とした取り組みを進めています。モビリティ実証は「ビックリするほど成功」したという評価も。EV、再エネとともにどのようなプロジェクトを展開しているのでしょうか。

浪江町×日産で「ゼロカーボンシティ」実現なるか

 震災復興の進む福島県浪江町で、日産が新たな試みを始めています。

 ポイントは「モビリティ×エネルギー×まちづくり」です。

 モビリティについては、2020年度から町の中心部で、日産の関係者がドライバーとなって、オンデマンド型タクシー「なみえスマートモビリティ」の運用を開始しました。

 2021年度は第1期(2021年11月1日から12月18日まで)に、地元ドライバーが、1台のバックアップ車両を含む計4台で運用を再開させています。

 今回発表のあった2021年度第2期(2022年1月7日から2月4日まで)は、サービス地域を町中心部周辺の避難指示解除地域全域まで拡大しました。

 乗降地は「どこにいても、1分歩けば停留所」というコンセプトのもと増設。JR浪江駅、町役場、郵便局、イオン浪江店などのほか、合計120か所の「バーチャル停留所」を設定したほか、周辺部も利用者の自宅付近に乗降地を追加しています。

 利用料金は、実証試験のため無料です。

 また、イオンで買った商品を利用者宅までオンデマンドタクシーで届ける貨客混載についても、対象品目を約6000種類まで拡大し、日常生活をサポートしています。

 予約は、スマートフォンアプリから可能です。ユーザー調査をおこなったところ、五十音検索が利用の多い高齢者にとって分かりやすく使いやすいとの結果があり、新たに開発。高齢者も使いやすい「らくらくスマホ」での対応も始めています。

 日産常務執行役員の土井三浩氏は「運用の裏側にあるプラットフォームとしてのシステム構築が大きなチャンレジだ」として、ユーザーにとっての実用性を最優先する姿勢を示しました。

 また、第1期の運行実績については「正直、我々がビックリするほど成功している」と振り返ります。利用数は多い日で1日36.5回であり、これは日産が東京都内や横浜周辺などで実施したほかのオンデマンドタクシー実証試験と比べて3倍以上の数字だったからです。

 なみえスマートモビリティの登録者数は341人で、そのうち160人が地元住民です。160人という数字は、復興を目指し徐々に町に戻ってきた人たちの約1割に相当し、町全体で見ると決して少ない数字ではありません。

 利用者の中にはヘビーユーザーも増えており、例えば「通勤・外出に常に利用」(50代女性、運転免許なし)、「毎晩自宅から居酒屋へ」(70代男性)、「主にパート通勤に利用」(30代女性)など利便性を喜ぶ多くの声が寄せられています。

 また、日産側の気付きとして、当初の想定よりも20代から40代の支持があり、今後は若い世代向けにもさらなる利用促進策を探っていくとのことです。

 浪江町の吉田数博町長は、なみえスマートモビリティを「実証ではなく、事業として根付かせてほしい」と日産に要望しています。そのため、日産は2022年度以降について、有料による実用化や、周辺自治体の双葉町や南相馬市と連携しての運行地域の拡大、そして自動運転化などを検討していく方針です。

世界初 AI活用のEV充電システムとは

 次に、エネルギーについて見ていきます。

 日産の狙いは、地域の再生可能エネルギー100%に貢献することです。

 浪江町は2020年3月に「ゼロカーボンシティ(2050年二酸化炭素排出実質ゼロ)」を宣言しました。

 具体的な数字では、浪江町は2035年の目標人口を8000人にしていますが(現在の町内居住人口は1600人)、仮に75MWの太陽光発電と37MWの風力発電を導入すると、電力需要のうち再生可能エネルギーは84%に上ります。

 さらに、電気をためておくための定置型の蓄電池を50MWhとすると、再生可能エネルギー率は88%となる計算です。

 蓄電池50MWhは、概算で約16億5000万円が導入の初期費用として見込まれています。これを電池容量40kWhの日産EV(電気自動車)「リーフ」で換算すると1250台分にも及びます。

 こうした前提で、日産は「停車中のEVを蓄電池として賢く利用する方法」を、浪江町の「道の駅なみえ」で実証していきます。

 具体的には、充電池の制御システム(PCS:パワーコントロールシステム)が、太陽光、風力、水素燃料電池による電力と、「道の駅なみえ」の電力需要の情報を基にAI(人工知能)も活用して、EVの充放電を自律的におこないます。

 従来の商業施設などでのEV充電システムは、EVの充放電を取りまとめるVGIアグリゲーターと呼ばれる事業者が、設備側とEVとの中間に位置しています。

 これに対して、日産の実証実験は、充電システム側がその時の状況に応じてEVの充放電を自律的に判断するため、VGIアグリゲーターに対する中間マージンが不要となりコスト削減につながります。また、接続するEVが増えても、充電システム側のソフトウェアを変更するだけで充放電システム全体の変更がスムーズにできるのが特長です。

 日産によると、こうしたシステムを実際に運用するのは世界初といいます。

 今回利用するEVは、現在浪江町が公用車として使っている5台のリーフで、利用者は町役場関係者となります。利用は専用のスマホアプリでおこない、基本的に利用の1時間前から2時間前までに予約を完了させます。

 実際にスマホアプリを体験しましたが、表示も見やすく使いやすい内容だと感じました。

 また、浪江町には、日産と住友商事の協業事業で、EVの電池の再利用、再製品化、再販売を手掛けるフォーアールエナジーが2018年3月に拠点を開設し、技術開発と製品製造をおこなっています。

 将来的には同社の技術や製品も、AIを活用した自律的な充放電システム全体の中で活用される可能性が高いと考えられます。

 このように日産は浪江町で、スマートモビリティと再生可能エネルギーの活用を通じて、「地元に根付いた活動で、町のにぎわいづくり」を持続的にサポートしていく姿勢を明確にしています。

 2022年3月29日には、福島県浜通り地域の周辺自治体など産学官関係者による「浜通り連携協定サミット」の開催も予定されています。