タイヤを自分で交換する際、ホイールナット(ホイールボルト)の締めすぎに注意が必要です。正しく締めるにはどうしたら良いのでしょうか。
締めすぎるとちぎれてしまうことがあるってホント?
本格的な冬を迎え、ノーマルタイヤからスタッドレスタイヤへの交換を自分でおこなったという人もいるでしょう。その際、「ホイールナットを緩まないようにガッチリ締めた」という人は、残念ですが不正解です。
ホイールナット(一部車種ではホイールボルト)をキツく締めすぎると逆に緩んでしまったり、次に交換するときに外そうとしてもうまくいかなくなったり、最悪の場合はハブボルトが引きちぎれてしまうことあるのです。ホイールナットを正しく締めるにはどのようにしたら良いのでしょうか。
タイヤ交換で怖いのがホイールナットの緩みですが、DIYでタイヤ交換するとき、緩まないように目一杯締め上げて、次の交換時に外れなくなってしまうことがあります。
その原因は規定トルクを無視して勘だけで締めてしまうから。正しくホイールナットを締めず交換・装着してしまうと偏りが生じてしまいやすいといいます。
整備士のS氏に詳しく聞いてみました。
「ホイールナットの締めすぎはさまざまなトラブルの原因にもなります。もっとも多いのが、交換後にタイヤ(またはホイール)から異音がして、乗り心地や直進安定性が低下すること。ホイールを正しく装着し直すだけで症状が改善することがあります」
DIYでタイヤを交換するときに偏って装着してしまうのは、ホイールの位置をひとつのナットを締め上げて決めてしまうことが原因で、さらにしっかり固定させたいがために力一杯締めてしまいがちだといいます。
「ホイールナットには『規定トルク』と呼ばれる、締め上げる強さが指定されています。我々はこの強さを設定できる『トルクレンチ』を用いて締めていきますが、一般の方は勘だけで締めてしまうケースが多いのです。これが締めすぎの原因になっています」(S整備士)
とくにスチールホイールなどは、偏った締め付けをおこなうことでタイヤがスムーズに回らず不調の原因にもなるといいます。
「スチールホイールには軽量化や放熱のために大きめの穴が開いているのですが、ここである程度の遊びといいますか、熱の膨張なども考慮して多少の余裕を持たせています。
それを冷えた状態でガチガチに締めすぎてしまうと、走行してホイールが回転するときの熱などで若干ですが膨張や収縮を繰り返し、変形してしまうこともあります。これを考慮した締め方をする必要があるのです」(S整備士)
ホイールナットの締めすぎると、最悪のケースではナットを受けるハブボルトが破損してしまうというのですが、そんな簡単にちぎれてしまうものなのでしょうか?
「ありがちなパターンとしては、クロスレンチ(十字の形をしたレンチ)で体重をかけてグイグイ締め込んで折ってしまうパターンです。ちぎれないにしても、次に取り外せないほどギチギチに締めすぎて、外せなくなって我々の整備工場に駆け込んでくる人も多いです。
ハブボルトは締めすぎると切れてしまうということを覚えておいてほしいですね。これはボルトそのものが伸びる性質を利用しているからです」(S整備士)
鉄製のボルトが伸びるとはどういうことなのでしょうか。
「ボルトって締めていくと実際微妙に伸びていて、それが元に戻ろうとする力を活用してホイールなどを押さえています。ただし締めすぎるとネジ山も伸びるので、逆に緩みやすくなってしまうということがあるのです。
逆にこの特性を利用して、取れにくくなったボルトをあえて捻じ切って新しいのに交換するという荒技もあるほどです」(S整備士)
S整備士は、足回りはエンジン以上に安全に寄与するパーツだからこそ、正しい装着方法でホイールを取り付けたほうが良いといいます。
「クロスレンチで作業するとどれくらいの強さで締めたのかがわからないので、やはりホイールは規定トルクが設定できるトルクレンチを使用してください」(S整備士)
正しくホイールナットを締める手順とは
正しい締め方は、最初にすべてのホイールナットを軽く装着しますが、まだ締めるというほどではない状態にします。このとき、交換するタイヤはできれば路面に設置するギリギリくらいにジャッキで浮かせておくのが好ましいです。
次に、タイヤとホイールが適正なポジションに来るように微調整します。いわゆる「センターを出す」という作業です。ここでタイヤの取り付けが路面に対して水平(垂直)になっているかを目視で確認します。
その次は、1か所をある程度レンチで締めたら、その対角線上のナットを締め、これをほかのナットでも同じ手順で締めていきます。4つまたは5つあるホイールナットを徐々に均一な力加減(トルク)で締めていくのが正しい締め方です。
ちなみに、規定トルクは車種ごとに微妙に違います。普通自動車は100N・mから120N・m(10kgf・mから12kgf・m)、軽自動車は70N・mから90N・m(7kgf・mから9kgf・m)が一般的ですが、実際に作業するときに取扱説明書などで確認しておきましょう。
規定トルクをきっちり守って締めるには、トルクレンチと呼ばれる専用工具が必要ですが、一般的なドライバーは車載工具のひとつとして同梱されている「L型レンチ」で締めている人がほとんどでしょう。これではホイールナットは締められないのでしょうか。
「トルクレンチのほうが正確な数値を目安にできるのでベストな選択ですが、もちろんL型レンチでも作業自体はできます。ただその場合も締めすぎに注意して、ひとつを締めたら対角線上のナットを締める、その隣のナットを閉めたら同じく対角線上のナット、という順序を守ってください。
数値は分からないので勘に頼ることになってしまいますが、一般的な男性が腕力で締めた後、レンチで動かないか確認するだけで十分です。むしろ一度に締めすぎるより、装着後に100km程度走行したら改めて軽く『増し締め』すると良いでしょう」(S整備士)
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トルクレンチは3000円から5000円程度で販売されているようですが、用途が限られているだけにわざわざ購入しないという人もいるかもしれません。その場合はプロに頼んで正しい規定トルクで締めてもらうのが安心です。