タイヤに関して、頻繁に走っているよりも、むしろあまり距離を走っていないほうが傷みやすいといわれています。これは一体どういうことなのでしょうか。
走ってないのはむしろ逆効果!
クルマと路面を繋ぐ大切なパーツがタイヤです。走行することで減っていく消耗品ですが、実は乗らずに停まっているだけの状態のほうが劣化することもあるといいます。
「乗らないと逆にタイヤが傷む」という現象は本当なのでしょうか。
走行して摩耗することでグリップ力を確保している関係上、タイヤは徐々にすり減っていくものです。そのため、すり減ったから交換するというパターンが一般的ですが、実際は、すり減るよりも前にタイヤの劣化で交換せざるを得ない状況になるケースも多いのです。
劣化で交換せざるを得ない状態とは、走行距離が短いのにタイヤ本体にヒビ割れが生じてしまい、そのままでは乗り心地が悪化したり、いつパンクしてもおかしくないほど劣化した危険な状態を指します。タイヤショップのスタッフFさんに話を聞いてみました。
「タイヤはナマ物です。ゴムを主成分としている以上、できた瞬間から時間が経つほどに劣化していくものです。この劣化を防ぐために劣化防止剤などを練り込み、ゴムの柔軟性をキープしています。
手入れをすることで多少は寿命を伸ばすことはできますが、5年程度で性能が低下するといわれています」
タイヤのヒビ割れが起きる原因は、経年劣化もありますが、それ以外にも保管状況や使用状況によって劣化が進むこともあります。
原因は「直射日光(紫外線)に常時当たる環境」、「空気圧が低下したことによるたわみ」、「重量物の常時積載」、「長期間の放置駐車」が考えられ、屋根のない屋外駐車場でラゲッジスペースにゴルフバッグなどを積載したまま数か月乗らずに放置という状況が該当。ひどい場合は、ほとんど乗っていないにも関わらず6か月程度でもヒビ割れが発生してしまうこともあるといいます。
「これはすべてタイヤの主成分であるゴムが、経年と環境によって硬化していく特性があるからです。駐車環境は簡単に変えられないとは思いますが、空気圧は自分で適正レベルに保つことができますし、重量物は使わないのであればできる限り下ろしておくほうが、クルマに無駄な荷重をかけずに済みます」
劣化が進む状況でもっともやっかいなのが長期間の放置駐車だとタイヤショップのスタッフFさんはいいます。またヒビ割れを指摘して交換をお勧めするのが大変なのだそうです。
「オーナーにとっては、たいした距離も走っていないのに交換が必要だといわれても納得できないでしょう。
タイヤに練り込まれた油性の劣化防止剤は、走行することでトレッドの表面が摩耗し新しい面が出てくることを想定して劣化防止剤が均一に行き渡るように設計されています。
乗らないということはゴムがすり減らないため、内側に練り込まれた劣化防止剤が役目を果たす前に徐々に溶け出してしまうのです。
さらに洗車時の洗剤によって油分劣化防止剤が溶け出し、劣化が早まってしまうと、タイヤの溝は十分あるのにヒビ割れが発生してしまい、交換せざるを得なくなるのです。
またタイヤは回転することでクルマの荷重を分散できますが、長期間乗らないとタイヤの1点に荷重が集中してしまい、変形やヒビ割れが進行しやすくなります」(タイヤショップ スタッフFさん)
現在のタイヤには「カーカス」や金製の「ベルト」などが埋め込まれ、形状を支えているので見た目にはあまり変化を感じにくいかもしれませんが、ヒビ割れが進行してしまうと、こういったパーツにまで亀裂が届いてしまうこともあるといいます。
「ヒビ割れが発生しているということはゴムが硬化している証拠でもあります。しかも長期間放置されていた場合はタイヤの空気圧も減っている可能性が高く、いわゆるたわみもできやすくなります。
そうなると走行中に『スタンディングウェーブ現象』と呼ばれる、接地面のすぐ後ろが波打って発熱する現象が発生します。ここに小さな段差や突起物などを踏んでしまったり衝撃が加わってしまうと、かんたんにバーストしてしまうのです」(タイヤショップ スタッフFさん)
タイヤを長持ちさせる簡単な方法とは?
タイヤ交換は4本同時となるとそれなりの出費になってしまいます。
ましてや最近は物価高などでさらにタイヤの価格が高騰していることから、余計な出費は抑えたいものです。
では、いま装着しているタイヤの寿命を延ばすにはどうしたら良いのでしょうか。
「定期的な空気圧チェックで適正レベルを保つことや、適度な距離を走行することも重要です。
走らせることでエンジンや各部にもオイルなどが潤滑され、ダンパーなどもしなやかな可動をキープできますし、タイヤの一点荷重も防げます。
走行距離を伸ばしたくないという気持ちもわかりますが、タイヤは回ってナンボのパーツですので走行することが重要です」(タイヤショップ スタッフFさん)
また、洗車時にタイヤは洗剤をできる限り使わず、水洗いだけにすることでもヒビ割れを抑制することができます。
「極度の汚れなどは別として、通常の走行程度の汚れは水洗いだけで十分です。
洗剤で洗ってしまうと劣化防止剤などの油分もすべて落としてしまうことになります。
かといって同じ油性のタイヤワックスも使いすぎると、また内側の油分が早く溶け出してしまうことにもなりかねず、やはりタイヤは水洗いで十分だと思います」(タイヤショップ スタッフFさん)
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中古車を選ぶ場合、走行距離が短いものを選びたくなる心理と同じで、乗らないほうがクルマは傷まないと思いがちですが、タイヤに関してはそれなりの走行と定期的なメンテナンスにより、コンディションを保つことができるというわけです。