STIコンプリートカーを始めとする、膨大な台数のスバル車を収集・所有するスバルマニアに、スバルの虜になった理由を聞いてみました。
新旧のクルマを持つことで進化すぐに体感できるのが喜び
たいていの人はクルマを1台所有している時、新しいクルマに乗ってみたいと思ったら、いまあるクルマを手放して、次のクルマを買うでしょう。複数台所有しているもちろん人もいますが、乗る時間を作ったり維持するのが大変なこともあります。
そんななか、スバルをこよなく愛し、多くの車両をコレクションしている人がいます。その名は「BOXERさん」です。たくさんのスバル車を所有するようになったのはなぜなのでしょうか。
かつてはSTI(スバルテクニカインターナショナル)のコンプリートカーをほぼ全部所有していたこともあるBOXERさんですが、現在はコレクションの方向性が変わり、古いスバル車から現代のスバル車まで、時代を超えたモデルを集めているといいます。
BOXERさんいわく、時代を超えたスバル車を所有することで見えたことがあるそうです。その見えたものとは一体どのようなものなのでしょうか。
大学時代に初めてクルマを買ったBOXERさん。当時は日産「ブルーバード」に乗っていて、最初はもちろん楽しく乗っていたそうですが、徐々に調子が悪くなってきて、とうとう壊れてしまいます。
その時(1993年)、父親の仕事の関係でスバル車を購入できるツテがあり、本当は「レガシィツーリングワゴン」が欲しかったそうですが、当時は「インプレッサ(GC/GF型)」がデビューしており、いろいろな都合から「GF型」と呼ばれるステーションワゴンボディの「インプレッサWRXワゴン」が手に入りました。
それまで乗っていたブルーバードは直列4気筒エンジンで、ピストンが上下運動をしているのに対して、インプレッサは水平対向4気筒エンジンで、ピストンが左右に動いています。この振動の違いによるクルマの運動性能の違いと、ブルーバードの1.8リッターNAエンジンに対してインプレッサWRXワゴンの2リッターターボエンジンは、比較にならないほどの差を感じたそうです。
BOXERさんは大学時代にスキー部に所属しており、ラゲッジルームに荷物を満載し、ルーフキャリアにスキー板を載せてゲレンデに向かっていたにも関わらず、インプレッサWRXワゴンは雪道をぐいぐい走り、何事もなかったかのようにゲレンデに到着する。そんな体験をしてしまえば、スバル車の虜になるのも頷けます。
その後も順調にスバル車を選び、3代目レガシィツーリングワゴン(BH型)、2代目インプレッサGDBの前期型(通称:丸目)、GDB中期型(通称:涙目)と乗り継ぎます。この涙目のGDBは悲しくも盗難に遭ってしまいますが、保険金が下りてGDB後期型(通称:鷹目)へと乗り換えます。この時点で2代目インプレッサの前期(丸目)、中期(涙目)、後期(鷹目)とコンプリートを達成しました。
GDBインプレッサを乗っている時に、「GC8の22Bが凄い」という話を周りから聞いたBOXERさん。22Bと言えば、スバル車乗りなら一度は見てみたい、乗ってみたいと言われるほど神格化されているクルマです。
「そんなに凄いのなら一度は買って所有してみたい」と思った矢先にうまい話が転がり込んでくるもので、当時としても破格の中古車が現れて、無事に所有することができました。
乗ってみると、「本当に違う。このクルマは凄い!」と実感したとのこと。しかし22Bを所有したことでBOXERさんの人生が変わっていきます。
過去にGC/GF型のインプレッサワゴンは所有していたが、22Bはクーペモデルのワイドボディかつ2.2リッターという排気量。すべてが初めての経験のため「これは22Bが凄いのか、STIが作ったコンプリートカーが凄いのか、GC8のインプレッサが凄いのかを確かめたくなった」という欲求が湧いてきます。
22BはGC8型をベースに開発されたスペシャルなクルマです(厳密に言えばGC4という2ドアクーペのリトナがベース)。GFもGCベースではあるものの、ワゴンモデルでありパワーも異なるということもあり、少し違ったと言います。
そうこうしているうちに、今度はSTIが作り上げた「S201」というコンプリートカーが現れます。これも手に入れて乗ってみると、同じSTI製のコンプリートカーなのに全然違う。しかし乗ってみるとスバル/STIらしさは残っていてこれはこれでアリだと感じたそうです。
Sシリーズなど激レアコンプリートカーを全制覇!
BOXERさんは、22B、S201、「S202」、「S203」、「S204」、「S206」と順番に手に入れることになるのですが、しかもどれかを購入するときにどれかを手放すのではなく、単純に増車となるのが凄いところ。
ちなみに、鷹目のS204は彼のなかでは少し違うように感じられ、その後に出た同じ鷹目の限定車「スペックC TYPE RA-R」と入れ替わることとなりました。
その後、インプレッサWRX STIは車名を「WRX STI」に変更し、「VA系」にモデルチェンジします。そこでも「S207」、「S208」とコンプリートカーが登場するとその都度購入。徹底した軽量化を実現した「TYPE RA-R」も購入したといいますから、スバル/STIが作り上げたSシリーズのコンプリートカーは全車制覇したことになります。
BOXERさんは、「ここまでスバルを購入することになるとも思わなかったけど、コンプリートカーはスペシャルな雰囲気もあったし、スバル/STIの進化、コンプリートカーごとの進化がはっきりと分かった。この部分はどのように進化したのだろうか?という疑問があれば、所有するクルマで比較ができた。そのことによってスバルやSTIが思うことも理解できたし、こういう進化が行われたということを身を持って体感できた」と振り返ります。
このコンプリートカー全車を持っているということで、スバル界隈から注目を浴びたこともあったそうです。
コンプリートカー全車購入をしたことで一旦コレクションが終了し、一部を除き売却します。
しかし一度味わってしまった収集癖はそう簡単には治りません。ここまでさまざまな車両に乗ってくると、メーカーの思う進化や改善点がよく分かってきました。
今度は「自分が虜になったスバル車の、古い時代はどのようなクルマだったのだろうか。虜にさせる原点はどこにあったのだろうか」という興味が湧いてきて、過去のスバル車を集め始めました。
1969年製「スバルff-1」や1971年製「ff-1 1300G」などを購入し、レストアを行って走らせるようになります。いろいろ乗った経験からするとこの1300Gがff-1シリーズのなかでもスポーツ系モデルとなり、このあとに続く「レオーネ」、その後に繋がるレガシィ、インプレッサの原点になったのではないかとBOXERさんは考察します。
1988年製3代目「レオーネ3ドアクーペ(AG6)」はスバル初のフルタイム4WD車となり、ここも現在に繋がるAWDの原点のひとつになるのではないか、とも考えているそうです。
それからというもの、ff-1、レオーネ、インプレッサ、レガシィなどを増やしていき、スポーツ系車両のラインナップを増やしていく一方で、SUVも増車。「レオーネエステート」、「レガシィグランドワゴン」、「インプレッサグラベルEX」、「フォレスター」なども所有します。
さらに海外モデルも入手しており、レオーネの左ハンドル車、「B9トライベッカ」、「アセント」、「アウトバック ウィルダネス」なども入手。
軽自動車は「スバル360」や「R1/R2」なども名車ではあるものの、自身のなかでは普通車のクルマが好きなので、軽自動車は「サンバー WRブルーリミテッド」は所有しているものの、ほかはコレクションしていないそうです。
そして、古い年代、スポーツ系、SUV系と、スバルの軸となるクルマを一通り所有してコレクションが完成しつつあるそうです。
ひょんなことからラリーカーの収集を開始!
このような収集をしていると当然仲間も増えていくこととなり、あるとき知り合いから「本物のラリーカーが手に入るけどどう?」と持ちかけられます。
インプレッサが好きでGC8は何台も所有していますが、さすがに本物のラリーカーを所有しても公道で走らせられる訳がありません。
購入を回避するために、「レガシィのラリーカーがあったら欲しいな」とあえて言っていたとのこと。レガシィ(BC/BF型)のラリーカーは実際走っていた年数も短く、台数もそう多く作られていたわけではないので、簡単に手に入ることはないだろうと思っていたそうです。
すると出てくるものです。555カラーのレガシィではなく、1992年の世界ラリー選手権(WRC)のニュージーランド大会で、ポッサム・ボーン選手がドライブした黄色いレガシィRSが出てきたそうです。そして時を同じくして、そのマシンのプラモデルが発売になるという情報を入手します。
555カラーのレガシィならメジャーなラリーカーですが、ポッサム・ボーンカラーのレガシィはそれほど有名ではありません。それなのに「プラモデルが発売される。そして目の前には実車を購入できるチャンスがある。これは運命だろう」と感じて購入に至ります。
ラリーカーのコレクションも始まり、1994年製のインプレッサのホワイトボディとカルロス・サインツ選手がドライブしたという555カラーのインプレッサを購入し、いつの間にか本物のラリーカーが3台。現在、イギリスから輸送手続き中の車両もあるというから驚きます。
この3台のラリーカーを自身で走らせたい。そしてその走っている姿を見たい。ラリーの雰囲気を味わえるのはどこだろうと検討して、群馬サイクルスポーツセンターで走らせる機会を作りました。
この時、友人のえだ@G_lemonadeさんに走行シーンを撮影してもらい、実際走っている姿を写真で見たときは感無量だったそうです。
かくして多くのスバル車を購入し実際所有しているBOXERさんのコレクションは完成してきました。
ナンバーが付く車両に関してはすべてナンバーを取得。任意保険をかけて、税金ももちろん支払っていますし、車両の保管に関しても、現在の駐車場のほかにも数か所借りているというから、相当の金額がスバル車に注がれています。
「乗れる時間は限られているけれど、それぞれのクルマに個性があり、そのクルマの良さがある。ここで手放してしまうと二度と手に入らない車両もある。コレクションカーならまだ再入手もできるが、リトナのような実用車は処分されて終わってしまう。そのために手放すことはできない」とも言います。
BOXERさんのスバル遍歴を目の当たりにし、コレクションカーだけでなく、実用車にもその存在価値を見出し所有する、真の意味でスバル愛があるからこそできることなのではないかと感じられました。