スバルのスポーツセダン「WRX」は、日本ではCVTのみとなり、MT車は現行モデルには設定されていません。そんななか、MT仕様の現行モデルが、しかも右ハンドルで乗れるというのですが、一体どういうことなのでしょうか。

日本にはないMT仕様のWRXが右ハンドル&右ウインカーで乗れる!?

 いま、日本で販売される乗用車のほとんどは、トランスミッションにクラッチ操作やシフト操作の必要がないAT(オートマチックトランスミッション)を組み合わせています。
 
 しかし、少数派となりますが、運転好きのなかには「やっぱりMT(マニュアルトランスミッション)に乗りたい」と考えている人も多いことでしょう。

 そんなクルマ好きにとって残念な流れが、MTを選べる車種がますます減っていること。スバルのスポーツセダン「WRX」もその1台で、先代まではMTモデルも用意されていましたが、現行モデルはCVT(AT)1択でMTを選ぶことができなくなってしまいました。

 しかし、諦めるのはまだ早いです。MTが選べないのは日本市場においての話であり、北米をはじめ海外向けのWRXは、新型にもMTモデルが用意されているのです。

 どうしても「現行WRXをMTで乗りたい」というのであれば、海外向けのWRXを逆輸入するのもひとつの手といっていいでしょう。

 そんななか、バンコクモーターショーの会場にて、興味深いWRXのMTモデルを発見しました。現行型WRX S4のMTモデルが、右ハンドルで用意されているのです。

 展示車両こそCVTモデルですが、カタログや公式サイトではMTの存在が確認できます。

 左ハンドルの北米仕様と違って、タイ仕様なら日本と同じ右ハンドルなのに加え、ウインカーレバーまで日本仕様と同じく右側。つまり運転操作に関しては日本向けの車両と変わらないのです。日本で乗るにあたって、これは都合が良いでしょう。

 ところで、そうした海外仕様の新型WRXを見ているとある疑問が湧いてきます。それは「なぜ、海外には新型WRXのMTモデルがあるのに日本にはないのか?」ということです。

 スバルの広報部に尋ねてみたところ、ハードルはふたつあるようです。

 ひとつはイメージの問題。これまで日本においてWRXのMTモデルは「WRX STI」という高性能モデルだけに用意されていました。

 従来のWRX STIはエンジン出力も308馬力と現行仕様「WRX S4」の275馬力よりも高く、DCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)と呼ばれる凝ったセンターデフ機能を組み込んだAWDシステムを備えるなど性能を追求したモデルで、競技車両のベースにもなる作りが自慢です。

 一方、現行モデルのWRXにはWRX STIの設定がなく、大人な仕立てで高性能と快適性の両立を追求した「WRX S4」のみ。

 海外向けはこのWRX S4にMTを設定していますが、これまでWRX STIのMTに乗っていたユーザーからすると“S4のMT”は「これまでと方向性が違う。性能的にも物足りない」とガッカリされる可能性もあります。国内投入に関してスバルはそこを懸念しているのです。

アイサイト+MTの実現がハードルに…

 もうひとつは「アイサイト」の問題です。

 アイサイトとはスバルの先進安全&運転サポート機能のこと。スバルは日本市場において同社が生産するすべてのCVTモデルにアイサイトを組み合わせる一方、MTとアイサイトを組み合わせた仕様はまだありません。

 MTにアイサイトを組み合わせられないことが、日本国内において安全をウリにするスバルの方針に沿わないと判断されているようです(海外向けWRX S4のMT車はアイサイト非装着)。

 もちろん、トヨタなどがそうであるように、MTでも衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)を組み合わせることは一般的には問題ありません。しかしスバルは、MT車の場合はCVTと異なり衝突被害軽減ブレーキ作動時にエンストする可能性があることなどを気にしているようです。

 ただ、現在は“アイサイトなし”としている「BRZ」のMTモデルも、衝突被害軽減ブレーキの乗用車(継続生産車)への義務化に従って、2025年12月までには装着が必須となります(新型車は2021年11月から義務化)。

 すなわち、遅くともそれまでには「アイサイト+MT」の組み合わせが実現となり、アイサイト問題は解決するのではないでしょうか。

 ちなみに、タイ仕様を日本で乗ると考えた場合、日本人として気になる部分があるかもしれませんそれはメーターなどの表示です。

 当然ながらタイ語で書かれているのですが、これは多くの日本人にとって英語よりもハードルが高いことでしょう(ここまで細かくローカライズされていることに驚きますが)。

 先代「レヴォーグ」の世代までは、タイで販売されているスバルの高性能モデルは同じ右ハンドルであるイギリス仕様が導入されるパターンが多くありました(その場合は右ハンドルでもウインカーレバーが左側となる)。しかし、今ではきちんとタイ仕様として開発されるようです。

 ちなみに日本仕様のCVTモデルが400万8000円から用意されるのに対し、タイ仕様のWRX S4のMTモデルの価格は287万5200バーツ。日本円にするとなんと1150万円ほどにもなる極めて高額なプライスです。

 タイは輸入車の関税が高いのでここまで販売価格が上がってしまうというわけです。

 さすがにこの価格は“気軽に”とはいきませんが、懐に余裕があるスバリストはぜひタイ仕様に注目してはいかがでしょうか。