2023年秋発売予定のトヨタ新型「クラウンセダン」は、従来モデルよりもボディサイズを拡大して登場します。なぜ大柄なボディが必要なのでしょうか。
全長5m&全幅1.9mまで拡大されるのはなぜ?
トヨタを代表するモデルのひとつである「クラウン」は、従来モデルは日本国内向けの上級セダンでした。
1990年には、1か月平均で約1万7300台を登録。しかし、2021年は同1800台と、最盛期の10分の1まで減少しています。
ここまで売れ行きが下がると、クラウンを廃止する方法もありました。しかしクラウンは、初代モデルを1955年に発売した伝統ある車種ですから、廃止は避けたいところです。
かつて販売された多くのクラウンは今でも保有されており、新型を発売すれば乗り替え需要を見込めます。
とくにクラウンは社用車として使う法人の需要が根強く、高価格でも手堅く売れる商品です。不人気を理由に廃止するのは惜しいということもあり、存続を図るというわけです。
そこでトヨタは、クラウンを日本向けの上級セダンから、海外でも販売できる上級SUVに発展させました。
しかも1車種だけでは売れ行きが伸び悩む可能性もあるため、4種類のボディを用意。2022年には「クラウンクロスオーバー」が発売され、2023年秋頃に「スポーツ」と「セダン」、2024年に「エステート」も投入される予定です。
これから登場する新型クラウンスポーツ、セダン、エステートについて、トヨタは2023年4月にボディサイズなど一部の情報を公表。
このなかで気になるのは、新型クラウンセダンのボディサイズです。全長5030mm×全幅1890mm×全高1470mm、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は3000mmと発表されました。
またクラウンクロスオーバー、スポーツ、エステートの駆動方式は前輪駆動をベースにした4WDですが、セダンだけは後輪駆動です。
ちなみに先代クラウンのボディサイズは、全長4910mm、全幅1800mmに抑えられ、全高は1455mmでした。ホイールベースは2920mmです。
近いセグメントに位置するメルセデス・ベンツ「Eクラスセダン」でも、ボディを拡大したとはいえ全長4940mm、全幅1850mm、ホイールベースも2940mmに抑えたということを考えると、全長が5mを超えて全幅も約1.9mに達する新型クラウンセダンのボディは相当に大柄だといえるでしょう。
なぜ新型クラウンセダンは、ここまでボディを拡大するのでしょうか。その背景にはふたつの理由があります。
ひとつ目は、新型クラウンセダンがターゲットとする市場です。従来のクラウンは、海外で売られてもメインは日本市場で、先代型も全長は4910mmと長いのに、全幅は1800mmに抑えたのです。昭和の時代に造られた日本の裏道や駐車場は、全般的に幅が狭いからです。
しかし新型クラウンセダンは海外での販売を考慮しているため、全幅を1800mmに抑える必要はありません。上級セダンとしては、さらにワイド化したほうが有利となり、ボディを拡大したという訳です。
FCEVになり水素タンクを搭載する場所が必要だった!
新型クラウンセダンが大型化されたもうひとつの理由は、パワーユニットとして、ハイブリッドのほかに燃料電池(FCEV)も用意することです。つまり新型クラウンセダンは、燃料電池車の「MIRAI(ミライ)」が備えるメカニズムを収納する必要があるのです。
ミライは北米などの海外でも販売されており、ボディサイズは、全長4975mm×全幅1885mm×全高1470mm、ホイールベースは2920mmです。
ミライは3本の高圧水素タンクをボディの比較的低い位置に搭載して、このうちの1本は、後席の下側に横向きに配置されています。そうなるとワイドな全幅が必要です。
新型クラウンセダンにミライと同様の燃料電池システムを搭載するには、とくに全幅を拡大する必要がありました。
それにしても、新型クラウンセダンがメルセデス・ベンツEクラス以上にボディを大型化して、販売に支障はないのでしょうか。販売店に尋ねると以下のように返答されました。
「全長が5mを上まわり、全幅も約1.9mまで拡大されると、マンションの駐車場には収まらない可能性が高いです。
今までのクラウンは、日本の環境にピッタリな上級セダンでしたが、新型クラウンセダンは大きすぎるでしょう。
SUVの設定も含めて、新型クラウンは従来とはかなり違うクルマになっています」
それなら新型クラウンセダンはまったく売れないのでしょうか。
「そうとも言い切れません。新しいオフィスビルは、駐車場も広いです。自治体の新庁舎も、駐車スペースに余裕を持たせています。法人や自治体のお客さまなら、このサイズでも購入できるでしょう」
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従来のクラウンセダンは、ボディサイズからデザインまで、国内市場を大切にした上級セダンでしたが、その日本のユーザーに対する思いが、新型では薄れたように感じます。
新型クラウンは生き残りを賭けて、日本のユーザーから離れ、海外市場へ旅立ったのです。