高速道路でたまに「競走馬輸送中」の文字が書かれた大型車を見かけることがあります。あれはどういったクルマなのでしょうか。また、そのようなクルマを見かけた場合どのようなことに気をつければよいのでしょうか。

超VIPな競走馬が乗った「馬運車」とは?

 高速道路を走行していると「JRA」や馬のイラストが描かれた大型車を見かけることがあります。

 あれはどういったクルマなのでしょうか。またそのようなクルマを見かけた場合どのようなことに気をつければよいのでしょうか。

 競走馬の輸送のために誕生した専用車両「馬運車(ばうんしゃ)」は、一見バスのような見た目をしていますが、馬を運ぶための特殊な構造となっているようです。

 そんな馬運車について、今回は日本馬匹輸送自動車株式会社(日本馬匹)の担当者に話を聞きました。

 そもそも、馬運車とはどんな車両なのでしょうか。

「馬運車は、競馬場で走る競走馬や馬術競技馬を輸送するための専用車両です。

 車長約12m、4軸(12タイヤ)の大型トラックのシャシーにはエアサスペンションが完備され、乗り心地は最高です。

 なお、メインの部分である馬室やスタッフが同乗するキャビンなどの『上物』は、まず鉄骨を組み、そこに壁を貼り、断熱材を入れ、内装を仕上げと、まるで家を作るように、すべて専門の業者さんによる手作りです」(日本馬匹の担当者)

 馬の乗り降りは馬運車の後部から行われます。後扉全体が下向きに開き、さらにドライバーさんの手で延長板が引き出され接地すると、ゆるやかなスロープができあがります。

 スロープの左右には馬が乗り降りする際の事故を防ぐための「転落防止板」を展開し、担当厩務員(きゅうむいん)の誘導で競走馬を積み込んでいきます。

 ちなみに、後扉の開閉機構はシンプルなワイヤー式が多く、そこに「転落防止板」を取り付ける役割も兼ねています。馬は音に敏感なため、驚かせないよう静かに開閉を行っているといいます。

 では、車内はどのようになっているのでしょうか。

「大きく言えば、馬が快適に過ごすことができる馬室と、馬の世話を担当するスタッフが同乗する客室スペースの2つの部分に分かれていますが、走行中でも境界扉を通って随時行き来ができます。

馬室には馬を6頭まで積むことができますが、競馬の輸送では多くても4頭までとなっています。

 馬は暑さが苦手なため、馬室には強力なエアコンを備え、馬の様子は監視カメラで常時客室からチェックすることができます」(日本馬匹の担当者)

 人間には少し肌寒く感じるくらいの温度が夏場もキープされ、愛馬の様子を気にかけるスタッフの注文に応じてきめ細かく温度を上げ下げしたりもします。

 日本馬匹が公開する馬運車の紹介動画では、馬運車が走行中も馬は車内で終始リラックスモードな表情がうかがえます。

 徹底した馬ファーストの発想で作られた馬運車。ほの暗く落ち着いた馬室内では自車の走行音もほとんど聞こえないといいます。

「競走馬輸送中」の表示をみたらどうしたら良い?

 高速道路では「競走馬輸送中」の文字を見かけることもありますが、一般ドライバーが馬運車に遭遇した際、気をつけたほうが良いことはあるのでしょうか。

 これについて、前出の担当者は以下のように話します。

「一番ご理解いただきたいことは、非常に繊細で臆病な草食動物を運んでいるということです。

 もちろん大変高価でもありますし、馬は走行中ずっと立ったまま乗っていますので、急ハンドルや急ブレーキは馬を驚かすだけでなく、バランスを崩せば大きな怪我にもつながります。

 一般の方に競馬に興味をもっていただけるのは大変ありがたいのですが、馬運車の前への急な割り込みや前後左右に密着した走行は、是非お控えください」

 馬運車は、競走馬に寄り添った徹底された設備が整った車両であることが分かりました。

 一般ドライバーは高速道路などで馬運車を見かけた場合、愛すべき繊細なアスリートである馬たちを思い浮かべ、十分な配慮をすることが望ましいといえるでしょう。