毎年恒例のマツダ「ロードスター」ファンイベントである、「軽井沢ミーティング2023」で現行ロードスター(ND)の主査である齋藤茂樹氏が「990Sの年内生産終了」と「今秋の大幅改良」を明らかにしました。この大幅改良は次期型ロードスター“NE”の登場を意味するのでしょうか。歴代主査へのインタビューから考察します。

次期型ロードスター“NE”はどうなるのか

 毎年恒例のマツダ「ロードスター」ファンイベントである、「軽井沢ミーティング2023」であるサプライズがありました。

 現行ロードスター(ND)の主査である齋藤茂樹氏が「990Sの年内生産終了」と「今秋の大幅改良」を明らかにしたのです。

 マツダ広報部は、この件について現時点ではプレスリリースを出す予定はないと言いますが、齋藤主査のコメントの正確性については認めています。

 この「大幅改良」という話が独り歩きし、「今秋にNE(第五世代)が登場か?」という声も自動車業界内では噂されているようです。

 確かに、今秋といえば、これまでの東京モーターショーを改めた新生「ジャパンモビリティショー」(2023年10月26日〜11月5日:東京ビッグサイト)が開催されますので、そこにマツダが次期型ロードスターのコンセプトモデル…“NEコンセプト”を初披露し、そのまま一気に量産化という電撃的な流れも”なくはなく”と思います。

 なぜならば、歴代ロードスターの生産・販売時期を振り返ってみると、初代(NA)が9年間、2代目(NB)が7年間、3代目(NC)が10年間で、現行4代目(ND)は2015年登場から8年間が経過しており、「そろそろNEの姿がユーザー向けに見えてきても良いのでは?」という時期だとも考えられるからです。

 そこへきて、このタイミングでマツダ本社の正式発表前に担当主査が「大幅改良」という情報をロードスターファンの前で出してしまうことに、ジャパンモビリティショーでのサプライズを期待する人が出てくるのも、当然の流れのようにも感じます。

 しかし、ロードスターミーティング2023の現場で、ロードスターにかかわるマツダ関係者らと意見交換している中では、今秋の「大幅改良=NE」ということに直接つながるような話は出ていませんでした。

 そうなると、NDは今後まだ数年間は継続されることになりますが、5代目となるNEへ転換するタイミングや、電動化が必然となるであろうNEのパワートレインについて、ロードスターファンの関心が高まるところです。

 これまで、NEなど「ロードスターの未来」についてマツダが正式にコメントしたのは、2021年6月17日にオンラインで実施された報道陣向けの「中期技術・商品方針説明会」の時だけです。

 質疑応答の際、筆者(桃田健史)が「本日の発表を踏まえて、マツダの象徴であるロードスターはEV化を含めて、永遠に不滅なのか?」と聞いています。

 これに対して、マツダ役員からは「2030年の電動化のスコープに、ロードスターは入っている」と回答しています。

 さらに、「ライトウエイトスポーツカーとしてのロードスターのDNAを大切にした電動化を実現していきたい」という、ロードスターファンに向けたメッセージも添えています。

 これらの発言を受けて、会見に参加した報道陣の中では、NEに対して「マイルドハイブリッド化が無難な選択ではないか?」という声が広まりました。

 しかし、その後自動車産業界を取り巻く環境は大きく変化していきました。

 具体的には、アメリカのインフレ抑制法(IRA)や、欧州での電動車向け蓄電池の部品調達からリサイクルまでをデータ化する「バッテリーパスポート」の義務化があります。

 さらに、欧州連合の「2035年までに新車販売を100%、EVまたは燃料電池車にする」という方針を事実上撤回し、合成燃料を使用した内燃機関の販売継続を認めるなど、世界の電動化潮流の変化は、激しさを増しています。

 その中で、マツダは2022年11月に「中期経営計画のアップデートおよび2030年の経営方針」を発表。電動化戦略については、2030年までを大きく3つのフェーズに分けています。

 具体的には、フェイズ1(2022〜2024年)が「電動化に向けた開発進化」、続くフェイズ2(2025〜2027年)が「電動化へのトランジッション」、そしてフェイズ3(2028〜2030年)が「バッテリーEV本格導入」です。

 この考え方に、第5世代ロードスター(NE)を当てはめてみますと、フェイズ2での「マイルドハイブリッド化」、またはフェイズ3での「EV化」という可能性が考えられるのではないでしょうか。

 その上で、軽井沢ミーティング2023現地で、齋藤主査と歴代ロードスターの主査に「ロードスターの未来」について聞いてみました。

「ロードスターの未来」とは

 齋藤主査は「ロードスター主査になって今年で4年目、自身で企画した990Sをやっと買いました。私にとってロードスターはまさに、相棒ですね」と笑顔を見せました。

 その上で「(初代NA主査の)平井さんがロードスターに込めた想い、いわゆる『ロードスター憲法』がある。

 ライトウエイトであること、前後重量配分50:50など、これらを守りながら、これからもずっと続いていって欲しい。欲張らず、シンプルであることが大事」と、ロードスターへの本音を話してくれました。

 また、現在はマツダのデザイン本部長でNDのデザインを手がけ、かつ主査も経験した中山雅氏は、「これはNEか?」とも言われた前述の「中期経営計画のアップデートと2030年に向けた経営の基本方針」で公開された「ビジョンスタディモデル」を引き合いに出しました。

 「あのクルマは、まずはマツダ社内、そしてファンの間で次期ロードスターに向けた機運を盛り上げたいという想いがありました」と、NEに向けた想いを語りました。

 その上で「そもそも、ロードスターは”エンジンありき”のクルマではないはず。仮に(マイルドハイブリッド等で)内燃機関にこだわって、補器類が増えてフロントヘビーになってしまっては元も子もありません。

ならば、モーター駆動のEVとし、バッテリーも航続距離をある程度決めれば重量が重くなり過ぎることもなく、重量配分50:50も可能。充電を早める技術などを使えばEVとしてのNEの整合性はあるのではないでしょうか」とかなり踏み込んだ形のコメントです。

 そして、NBとNCの主査である、貴島氏は「ロードスターの目的は、人と人を結ぶメディア(媒体)。皆が幸せになるための、メディアなのです。

だから、(将来的に仮に)エンジンからモーターにハードウエアが変わろうが、ロードスターの目的は変わらないし、変わってはいけないと思います」と、NAを含めて長年に渡りロードスターにかかわってきたひとりとしての素直な気持ちを語ってくれました。

 さらに「人は、動物として、気持ちよくどう動きたいかという感覚は将来も変わらない。だが、ロードスターは物理的に重量配分50:50という理論を重視した、ロードスターの本質を十分踏まえた進化が重要です」と言い切ります。

 今回、筆者は「軽井沢ミーティング2023」取材を、同社の開発研究機関のひとつであるマツダR&Dセンター横浜(横浜市)から、ロードスター 990Sで往復したのですが、齋藤主査や歴代主査の皆さんの「ロードスターの未来」の込めた想いが、990Sで走りながら「私事」として実感できました。

 仮に、NEがEVだったとしても、ロードスターの本質は永遠に不滅なのだと思います。