2023年6月5日レクサスは新たなモデルとなるコンパクトSUVの新型「LBX」を2023年6月5日に世界初公開しました。「高級車のヒエラルキーを変える」という使命を持った新型LBXとはどのようなモデルなのでしょうか。

レクサス新型「LBX」世界初公開! なぜ全長4m強の「小さな高級車」は誕生したの?

 2023年6月5日にレクサスは新たなモデルとなるコンパクトSUVの新型「LBX」を世界初公開しました。
 
 日本では2023年秋の発売が予定されていますが、レクサス自ら「小さな高級車」と言う新型LBXは、どのような経緯で誕生したのでしょうか。

 これまでレクサスは高級車の概念を変える挑戦を行なってきた歴史があります。

 振り返ると、1989年に登場した「LS」は圧倒的な静粛性や精密機械のような造りなどから、高級車に「新しい価値」をプラス。

 更に1998年に登場した「RX」はプレミアムクロスオーバーの元祖として高級車に「多様性」をプラス。その結果、世界の高級車市場は大きく変わりました。

 そして2023年、レクサスは新たな価値をプラスさせたモデル「LBX」をイタリア・ミラノで世界初公開。

 このモデルに与えられた挑戦は高級車の「ヒエラルキーを変える」です。

 これまでトヨタを含めた様々なメーカーが「小さな高級車」を提案するも、様々な制約などから成功には至らず。しかし、今回レクサスはそこに真っ向から挑戦を行ないました。

 そのキッカケはブランドホルダーである豊田章男氏のこのような想いでした。

「本物を知る人が素の自分に戻れ、気負いなく乗れる1台。つまり、週末にTシャツとスニーカーで乗れる高級車がつくりたい」

 そんな想いを具体化したLBX開発チームのリーダーが遠藤邦彦氏です。

 このクルマでどのようなブレイクスルーが行なわれたのでしょうか。現地ミラノで誕生秘話を聞いてみました。

―― 遠藤さんがLBXの担当になったのは?

 遠藤:2018年8月に前任者から受け継ぎました。この時は「コンパクトなクロスオーバー」と言う輪郭が決まっていたくらいでしたので、僕が最初に取り組んだのは、「このクルマのターゲットカスタマーは誰?」でした。

―― 小さな高級車は様々なメーカーが挑戦するも、なかなか活性化しないジャンルです。

 遠藤:「高級車=権威の象徴」と言う期待値から、そのニーズをコンパクトサイズで実現させるには「壁」があったのも事実です。

 ただ、豊田会長の「スニーカーのような」と言う提案が、実現への大きなヒントになりました。

 実は最初は私もその本質が解らず、佐藤プレジデント(現社長)と一緒に「とにかく買って履いてみよう」と。

 そこで解ったことは「スタイリッシュ」、「フィット感」、「疲れない」、「華美ではない上質さ」、「劣化しない」と言った、「いつまでも履いていたくなる」ような革靴にはない魅力。

 これが新しいラグジュアリーなんだろうな……と。

―― そこからは開発は比較的順調に進んだのでしょうか?

 遠藤:その逆です(汗)。当初は既存のコンポーネント(トヨタ・ヤリスクロス)の中でやり切ろうと。

 あのパッケージを使うとデザインもキュートで可愛らしいスタイルにせざるを得なかったのですが、それをベースに作った試作車を見せた際に豊田会長は一瞬で見破られ、「これしかできないなら、いらない」と悲しそうに言われました。

―― トヨタの人は「与えられた素材で全力を尽くす」は染みついていますが豊田会長はそこを一歩抜き出て欲しかったんでしょうね。

 遠藤:デザイン統括のサイモン・ハンフリーズと話をすると「プロポーションのいいクルマを作るためには、ちゃんとしたパッケージじゃないとダメだね」と。

 その後、佐藤プレジデントに相談をすると、「いばらの道かもしれないけど、行こう」と背中を押してくれましたので、「思い切ってやりたい事をやるぞ!!」と決心しました。

レクサス新型「LBX」 エクステリア(外装)&インテリア(内装)のこだわりは?

―― そして出来上がったスタイルは、ボディサイズは小さいながらもとてもエモーショナルで存在感があります。フロントマスクは上海ショーで世界初公開されたLMのイメージに近いデザインに感じました。

 遠藤:「ユニファイドスピンドル」と呼んでいますが、低く構えたフード造形とボディとグリルの境界を融合させたシームレスグリルにより、低重心で存在感のある顔つきです。

――ボディサイズは全長4190×全幅1825×全高1560mmとコンパクトですが、欲を言えば全高は1550mmなら日本のタワーパーキング対応になりますが……。

 遠藤:全高1560mmは欧州仕様で、日本仕様はシャークフィンアンテナレスで全高1550mmになっています。ご安心ください。

―― それは嬉しいです。サイドビューは前後オーバーハングが短い上に、4隅にドーンを配置されたタイヤも相まってより凝縮感があるのに堂々としたフォルムです。

 遠藤:LBXで最初に取り組んだのはタイヤの大径化でヤリスクロスより2サイズアップしています。

 これはタイヤがグッと張り出したタイヤコンシャスな意匠を実現させるためです。

 ただ、現状のGA-Bプラットフォームのままでは成り立ちませんので、フロントタイヤを22mm前に出しています。

――Fスポーツの設定がない理由は?

 遠藤:Fスポーツは「レスポンス」にこだわったスポーティなグレードですが、LBXの走りに関しては全てFスポーツだと思って開発をしました。

 そのため、現状では単なる意匠違いになってしまうので設定していません。

―― インテリアはNX以降のTAZUNAコクピットですが、意匠やイメージは少々違います。

 遠藤:ステアリングからメーター、HUDに繋がるコンセプトは踏襲していますが、それ以外は袂を分けました。

 その理由は「見晴らしの良さ」のためで、横基調のスッキリしたインパネ上面を大事にしながらモニターがコンソールに溶け込むようにデザインしています。

―― 質感はどうでしょうか? 小さなモデルは値段とのバランスも考える必要があります。

 遠藤:その部分に掛けたお金は、自分が手掛けたモデルの中では断トツで高いです。

 ステッチや素材の使い方などシンプルなデザインはごまかしが利きません。

 また、NV対策も源流をシッカリ対策することで、後で吸音材/遮音材にお金を掛けずに……と徹底することで、お客様に喜んでいただける価格に設定できたと思っています。

 ドアの閉まり音も是非聞いて欲しいです。

―― ドライビングポジションは?

 遠藤:「クルマとの一体感」を得るためにはヒップポイントを15mm下げています。

 ただ、下げるだけだとステアリングとの位置関係が遠くなるので、手間に引ける&立てる方向に変更しています。

 ダッシュパネル自体は変えていないのでペダルの位置はヤリスクロスと同じですが、ヒップポイント変更に合わせてアクセル/ブレーキ共に角度を調整しています。

―― つまり形式上はGA-Bですが、中身はほぼLBX専用になっているわけですね。

 遠藤:その通りで、もはや「欠片もない」と言っていいくらい変更しています。

―― ホイールベースはヤリスクロスより20mm長いですが、後席の居住性は?

 遠藤:フロントタイヤを前に出したので前後のカップルディスタンスは変わっていません。ヒップポイントを下げた分狭いかも。

 でもフロントシート優先のクルマですので、デメリットにはならないと思っています。

―― ラゲッジスペースはどれくらい?

 遠藤:日本市場で言えば「ゴルフバック」が積めるように頑張りました。ただ、長尺ドライバーだと厳しいかなと。

―― LBXは5つの世界観に加えて、33万通りの組み合わせが可能なオーダーメイドシステム「Bespoke Build」が用意されています。これも大きなチャレンジだと思います。

 遠藤:これは豊田会長からのアドバイス「最後の最後にLBXを仕上げるのは、お客様」を具体化した物になります。

 まだ色々課題や頭が痛い所もありますが、発売時には是非とも悩んで選んでほしいですね。

新型LBXはパワートレイン、足回りにも「小さな高級車」を詰め込んだ! なにがすごい?

―― パワートレインは全車ハイブリッドになります。直列3気筒1.5L+THSII+バイポーラ型ニッケル水素電池とアクアに近いようですが、この辺りは?

 遠藤:エンジンは音・振動を抑えるためにバランサーシャフト付、モーターを含めたトランスアクスルは「ノア/ヴォクシー」で開発した第5世代とLBX専用のユニットになります。

 ただ、モーターは大きくするだけでは意味がないので大電流が流せるバイポーラを採用と言うわけです。

 システム出力100kWですが体感的にはそれ以上で、加えて「電気リッチ」な走りも実現しています。

――具体的にはどのような感じですか?

 遠藤:とにかく「電気の使い方」にこだわっています。

 電気でシッカリ走る切る/加速する領域を上げ、その間にエンジン回転を上げる準備をすることでGの立ち上がりをリニアする制御にし、結果として繋がりのいい気持ちいい加速を実現しています。

―― アッパーサポートの位置は変更ないと言う事は、キャスタートレールは大きい?

 遠藤:その通りで、直進安定性はこのサイズのクルマの中では非常に高いレベルになっています。

 真っすぐ走るクルマを作った上で気持ちいいハンドリングを目指しました。その1つがロールステアをリニアにするべくサスペンション部品のバラつきを徹底的に減らしています。

 その結果、限界域まで気持ちよくリニアにコーナリングできるセットです。

 ナックルもアルミの鍛造に変更していますが、タイヤの大径化で重量アップしていますので、バネ下重量を軽くする必要がありました。

 これにより足のバタつきも抑えらえています。

――アッパーサポートに3点締結の入力分離型の採用とありますが、これは?

 遠藤:これはCプラットフォーム以上で採用している物で、剛性を担保しながら運動性能を高める効果(しなやかな足の動き)を実現しています。

―― 佐藤プレジデント時代から「レクサスは基礎体力が大事」と語っていました。

 遠藤:プラットフォームと同じく専用開発で、短ピッチ打点技術、構造用接着剤採用部位の拡大による接合剛性はもちろん、性能向上に寄与する部位の局部剛性アップなど抜かりなしです。

 それと並行して軽量化や重心高の低減など、慣性諸元も最適化しています。

―― リアサスはFFがトーションビーム式、AWDがトレーリングアーム式2リンクダブルウィッシュボーン式を採用。FFにもトレーリングアーム式2リンクダブルウィッシュボーン式を採用しなかったのは、なぜですか?

 遠藤:FFはクルマを軽くしたかったので、“あえて”の採用です。

―― ちなみに生産はどこが担当しますか?

 遠藤:トヨタ自動車東日本・岩手工場です。

 実は旧関東自動車時代にレクサスの生産をしていた経験がある上に、世界で1番コンパクトを上手に作れる工場はここしかないと思っていたので、迷わず。

 さらにセンチュリーの品質管理をしている部長さんが、LBXを担当しているので全く不安はないです。

※ ※ ※

 LBXはレクサスラインアップの中では最も小さなモデルです。

 しかし、その内容を知れば知るほど兄貴分のモデル以上のこだわりが凝縮されている事が解ります。

 まさに「小さな巨人」と言える1台かもしれません。

 発売はもう少し先になりますが、秋ごろには日本仕様に関する情報が出てきそうです。

 ありそうでなかった“真”の小さな高級車、レクサスのゲームチェンジャーになるのは間違いないと思います。

 個人的にはFスポーツが無いのが残念ですが、「GRヤリス」のパワートレインを活用したスポーツバージョン「LBF」があっても面白いかなと。