2023年12月3日、トランスミッションメーカーのジヤトコは、ATを搭載した日産「キャラバンパラメディック(救急車)」および「キャラバン」のEVモデルを世界初公開しました。どのようなモデルなのでしょうか。

トランスミッション搭載のEVにはどのようなメリットがあるのか

 2023年12月3日、富士スピードウェイでニスモフェスティバル2023が開催されました。ここでトランスミッションメーカーのジヤトコは、ATを搭載した日産「キャラバンパラメディック(救急車)」および「キャラバン」のEVモデルを世界初公開しました。

 キャラバンは、1973年に誕生した歴史ある“商用バン”。現在販売されるのは、2012年に登場した5代目モデルです。

 登場当時は、「NV350キャラバン」と名称を改めていましたが、2021年のマイナーチェンジで“キャラバン”名に回帰しました。

 そんなキャラバンのスーパーロングボディかつスーパーハイルーフ車をベースとした救急車仕様がキャラバンパラメディックです。

 今回世界初公開となったのは、5速ATを搭載したキャラバンパラメディックと7速ATを搭載したキャラバンのEVコンバートモデル。

 キャラバンパラメディックは、トルクコンバーターとエンジンを取り外し、モーターに置き換えている一方、キャラバンは、トルクコンバーターはそのままにエンジンだけを取り外しモーターに置き換えています。

 同モデルの作製理由について、ジヤトコの担当者は以下のように説明します。

「モーターでパワーを出そうとすれば、モーターの数を増やすか、大きくするしかありません。そしてモーターはレアメタルを多用しており、生産において地政学的リスクを大きく抱えています。

 それに対して、トランスミッションを搭載すれば、少ない数のモーターで複数のモーターと同様のパワーを出すことができます。そしてトランスミッションに使用されている素材は、ほとんどが鉄です」

 EVであってもトランスミッションがあれば、EVの電費を改善させたり、多くのパワーを引き出すことが可能。モーターを多用したり、バッテリーを大型化したりするよりも、トランスミッションを組み合わせたほうが様々なリスクを減らせます」

 さらに、前出の担当者は以下のように続けます。

「最初に作ったのは、5速ATを搭載したキャラバンパラメディックのEVモデルです。このクルマは、“EV時代であってもトランスミッションは有用なのか”を確かめるために最初に作ったモデルです。」

 5速ATを搭載したキャラバンパラメディックのEVによって、BEV(バッテリーEV)でもトランスミッションが有効であることを確かめたジヤトコは、そこから派生してトルクコンバーター(トルコン)付き7速AT搭載のキャラバンEVや、同時に世界初公開となった変速機能付きe-Axle搭載タイタン、MTを搭載した軽商用バン「NV100 クリッパー」のEVモデルなどを作成したといいます。

 7速AT搭載のキャラバンEVは、前述の通りトルクコンバーターが残されたままとなっています。つまりエンジンをモーターに置き換え、バッテリーを搭載しただけで、比較的簡易な改装となっています。

 この方式であれば、すでにユーザーの手元にある既存のクルマを、比較的気軽にEVへと変えることができ、運転感覚も変わることなく運用することができます。

 例えば、郵便局など多くの運送用の車両を抱える組織が、一気にEVへと切り替えるのは様々な困難がありますが、この方法であればハードルが下がります。7速AT搭載のキャラバンEVはそんな可能性が込められた1台でもあるのです。

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 ニスモフェスティバル2023の前日に、メディア向け試乗会が開かれ、前出の5速ATを搭載したキャラバンパラメディックと7速ATを搭載したキャラバンのEVコンバートモデルに乗る機会を得ました。

 キャラバンパラメディックには強力なモーターが搭載されており、“かなりスポーティ”な加速を見せてくれましたが、それ以外はエンジン車と大きく感覚は変わらず、慣れ親しんだ運転感覚そのものでした。

 キャラバンでは、トルクコンバーターが搭載されているため、キャラバンパラメディックほどキレのある加速はしませんが、そんな点もエンジン車そのもので、こちらはより運転した印象がエンジン車と同様なのがちょっと不思議な感覚でした。

 ジヤトコとしては、今後これらのクルマに施したような“EVコンバート”に貢献していく仕組みづくりを今後検討していくといいます。どのような形で今後登場するのか、注目です。