2008年の道路交通法改正によって、クルマのすべての席でシートベルト着用が義務化されましたが、後席では非装着のケースも多いようです。シートベルト非装着だとどうなるのでしょうか。

一般道の後部座席でシートベルト装着率が低いのはなぜ?

 今やクルマに乗車したら、「シートベルト」を装着することが当たり前になっています。
 
 2008年6月1日に施行された「道路交通法改正」では、後部座席を含む全席での着用が義務化され(道路交通法第71条の3第1項)、シートベルト非装着の場合は「座席ベルト装着義務違反」となり、罰則が科せられます。

 しかし、後部座席の乗員などで、なかには「堅苦しい」「前が見えない」といった理由や、子どもが嫌がるなどを言い訳に装着しないケースも散見されます。

 内閣府が公表した「令和2年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況」によると、「座席ベルト装着義務違反」は全国で51万9528件(令和2年/2020年)が報告されています。

 2008年に義務化されてからすでに16年も経過してもなお、これだけの件数が報告されるのはなぜなのでしょうか。

 教習所の指導員として勤務した経験を持つI氏に聞いてみたところ、「座席ベルト装着義務違反」の罰則規定で一般道と高速道路とでは若干の違いがあることが要因として挙げられるといいます。

「シートベルト非装着で取り締まられると、運転席・助手席の場合は高速道路でも一般道でも違反点数1点となります。

 一方で、後部座席の場合は高速道路では1点加算されるのに対し、一般道では口頭注意こそあれ違反点数は加算されません。

 そのあたりが後部座席のシートベルトの装着率の低さにつながっている可能性があります」

 警察庁・JAF(日本自動車連盟)が合同で実施した「シートベルト着用状況全国調査・令和4年版」によると、運転席での着用率は一般道が99.1%、高速道路が99.6%、助手席は一般道が96.9%、高速道路が98.7%です。

 それに対して後部座席は、一般道が42.9%、高速道路が78.0%という調査結果が出ており、いまだに一般道では後部座席での非装着率が半数を超えていることに驚かされます。

「一般道では違反点数が加算されないことに加え、後席のサイドウインドウとリアウインドウにプライバシーガラスを装着するクルマが増加したせいで、一般道で短い距離なら(バレないから)大丈夫と考えてしまう人も多いのかもしれません。

 子どもはチャイルドシートの普及でベルト装着率は上がったものの、逆に高齢者は装着自体を面倒がる傾向にあるようです」(教習所 元指導員 I氏)

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 警察庁が平成25年〜令和4年までの10年間で集計したデータによると「後部座席シートベルト非着用時の致死率(死傷者数に占める死者数の割合)は、一般道で着用時の約3.6倍、高速道路では着用時の約15.4倍にもなるとのこと。

 一般道と高速道路では走行する速度も状況も違うとはいえ、この数値を見ると、シートベルト非装着の危険性が高いことが一目瞭然です。

 特に高速道路の大渋滞などで遅々として進まない場合などはつい外したくなる気持ちも分かりますが、乗車中はシートベルトを必ず着用しなければならないと認識しましょう。

シートベルト装着/非装着で事故時の被害がこんなに違う!

 JAFでは、ミニバンの後席に2体のダミー人形を配置し、シートベルト装着/非装着の実験を行った結果を公表しています。

 時速55kmのフルラップ前面衝突試験を実施したところ、シートベルトを装着したダミーは座席に拘束された状態だったのに対し、非装着だったダミーは前方に投げ出され、運転席のヘッドレストに頭部を打ち付けただけでなく、前席をも押し潰しました。

 埋め込まれたセンサーの数値によると、「HIC(頭部障害基準値)」は2192を記録、あわせて押し潰された運転席のHICも1171を記録したのですが、一般的にHICが2000を超えると死亡や重症につながる致命的な頭部損傷をもたらすとされています。

 時速55kmでこの数値なのですから、時速100kmで走行する高速道路で事故にあった場合のリスクは、この倍以上になる可能性もあります。

「あまり堅苦しく『義務化』を叫びたくはないのですが、この実験結果を見るだけでも装着すべきなのはお分かりいただけるかと思います。

 これが高速道路上で渋滞に巻き込まれた状態でも、後方から追突された場合、頭部や首への損傷がシートベルトの有無でこれだけ違ってくるのです。

 また後部座席でうたた寝をする場合でも、シートベルトで体を固定したほうが安定した姿勢で眠りやすいという説もあります。

 妊娠中の女性やよほどの体調不良でない限り、後部座席のシートベルトも装着するのが必然だと認識して欲しいです」(教習所 元指導員 I氏)

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「自分は大丈夫」と甘く考えている人は多そうですが、どんなに気を付けていても、事故の危険性がゼロになることはありません。

 事故時の被害にこれだけ差が出るのですから、後部座席にたとえ会社の上司が座ったとしてもシートベルトの装着を徹底してもらうことが大切です。

 シートベルトを確実に着用することで、最終的に自分を含めた乗員の未来を守ることにつながるでしょう。